テレビの影響
ぽかぽかとした陽気の中、ゆっくりと頭に血が回っていく。
俺は……えっと、いつ寝たんだったか?
そうだ、ロリタ王女と魔法少女キュアキュアの話をしてから……しばらくして寝たんだったな。
ぼんやりとした頭のまま、ゆっくりと手を伸ばす。
ベッド脇に置かれていたスマホを手に取り、電源ボタンをおした。
午前十時、か。
休日は朝八時前後に起きたい、と思っている俺にとってこの時間での起床は失敗そのものだ。休日そのものが目減りしたようで残念な気分になる。
昨日、〈異世界ツクール〉の確認作業が随分と長引いてしまい、深夜まで起きていたからな。間違いなくその影響だろう。ベッドで横になりながらの作業だったため、目覚ましをセットすることも忘れそのまま寝てしまったのだった。
うう……。
休みとはいえ随分と寝てしまった。リディア王女、起こしてくれたっていいじゃないか。
いや、きっとリディア王女も様子を見に来てくれたのかもしれない。ただ、ぐっすり寝ている俺を見て、起こさなくてよいと判断した可能性がある。
っていうか人のせいにできないよな。そもそも起こしてくれとも頼んでないから。
あの世界を作った神様がなまけものだなんて思われても嫌だから、今後はこういうミスを起こさないようにしていきたい。
ベッドから起き上がった俺は、軽く体操をして頭を覚醒させる。
さて。
今日も一日を始めよう。
ロリタ王女は俺の言ってたアニメを見てくれたかな?
俺はそんなことを考えながらリビングのドアを開けた。
「二人ともおはよう。遅くなってごめんな」
と、警戒に挨拶をした……のだが。
「…………」
まず目に入ったのはリディア王女。まるで悩み事があるかのように頭を抱えていた。
はて? 何かあったのか?
「ロリタ王女?」
よく分からないからロリタ王女に話しかけてみる。
ロリタ王女は箒を持っていた。もちろんこの部屋を掃除するためのものではなく、ベランダ用だ。
ベランダの掃除でもしてくれたのかな? 子供なのに偉いな。リディア王女に言われたのかな?
「ロリタではないっ!」
「は?」
「拙者の名は炉利之助。貧乏貴族の三女! ロリさんと呼んで欲しい」
ロリタ王女は手に持った箒をまるで刀のように構えて、いかにも剣客と言った様子で振り回している。
一体、何が起こってるんだ? 炉利之助……いやロリタ王女ご乱心の原因は一体……。
テレビから音が聞こえる。
映っていたのは、八代将軍をモチーフとした時代劇ドラマだった。
時代劇専門チャンネル。
時代劇に特化したいわゆる専門チャンネルだ。俺は全く見ていない上に有料なのだが、かつて両親がここに住んでいた名残でそのまま契約が続いている。
チャンネルを適当に回せば当然そこに行きつくことはできる。しかしなぜロリタ王女はその番組を見ようと思ったのだろうか? 変な服を着てるから気になってしまったのか?
「大和様……」
「あ、リディア王女。ロリタ王女はいったいどうしてあのドラマを? 魔法少女キュアキュアは見なかったのか?」
「ロリタは朝が弱くて。大和様、申し訳ございません。わたくしが朝に起こしていれば……」
「…………」
どうやら俺と同じようにロリタ王女も寝坊したらしい。魔法少女キュアキュアは朝早く起きないと見れないアニメだから、見逃したんだ。
それで見る番組ないから適当にチャンネル回していたら、時代劇に当たってしまったわけか。
「殺っ陣っっ!」
まるで集団戦闘をしているかのように、ロリタ王女は部屋の中を暴れまわった。一応物が傷つかないようにギリギリ何もないところに箒を振り回しているのだが、危険極まりない行動だった。
先ほどの変な言動といい、どうやら時代劇の真似をしているらしい。
いい迷惑だった。たぶん魔法少女の真似をしているよりもずっと……。
「リディア王女は悪くないよ。俺も何も説明してなかったからな」
「ずっと言い聞かせていたのですが、あのテレビをよほど気に入ったようでして。もう少し強く言わなければならないようですね」
そう言って、リディア王女は暴れまわるロリタ王女の頭を掴んだ。
「あうっ!」
「ロリタ……。あなたはまだ分かっていないようですね。今日はたっぷりと話を聞かせてあげましょう。そこに正座しなさい」
「痛い……お姉ちゃん痛い」
り……リディア王女、怖い。そのまま頭を握りつぶしてしまいそうな雰囲気が出ている。ラスボスか?
とはいえ今回は俺も庇うような真似はしない。
さっきの暴れ方はもはや王女でなくても許されない所業だと思う。しっかりと反省してほしい。
「よ、余の顔見忘れたかっ!」
「こんな風に行儀の悪い妹の顔など忘れました」
それは自分より身分の低い相手に使う言葉だぞ、ロリタ王女。
――数時間後。
「ひかえー! ひかえおろー! この紋所が目に入らぬかっ!」
「そ、それはまさか……アングル王国の」
「ここにおわすお方をどなたと心得る! こちらにおわすは、アングル王国第二王女、ロリタ=アングルであるぞ」
「ははぁー」
どうやら別の時代劇ドラマにはまったらしい。
リディア王女は説教を諦め、俺はロリタ王女の時代劇に付き合うことにした。




