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俺のスマホアプリ〈異世界ツクール〉で異世界創造  作者: うなぎ
リディア王女編

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古の誓い

 魔王城、玉座の間。

 人間の城に玉座があるように、この魔族たちの拠点にもまたそれと類似したものが存在する。

 限られた者しか入ることができないこの部屋に、今、一体の魔族が入室した。


 魔界三将、叡智のライオネルである。


「エドワード様」


 恭しく頭を下げるライオネル。魔界三将という地位にある彼が遜らなければならない唯一の存在、それはすなわちこの地の王――魔王である。


「この度、リディア王女を捕らえた大成果、大変喜ばしいことです。ただ向こうに行って帰ってきただけの僕とは比べ物にならないほどに、偉大な行い」

 

 あの日。

 ライオネルは勇者と遭遇した。

 そして彼はそのまま帰ってきた。その場で勇者を殺すこともできただろう。あるいは連れて帰ることも可能だったかもしれない。だがライオネルはそうしなかった。

 なぜそうしなかったのかは自分でも分からない。そもそも人間の領域に足を踏み入れたことすら、どうしてそんなことができたのかも分からない。

 

 だが自分の行いだけは覚えている。まるで悪い夢を見ているかのようだった。


「リディア王女は別室に軟禁しておきました。殺しても良いですが、あとで使い道があるかもしれないですからね。魔王様もそのようにお考えになり、連れてこられらのでしょう? よろしければ魔王様のお心をお聞かせ願えませんか?」


 魔王がゆっくりと口を開く。


「よくぞここまで来た、勇者たちよ。余が魔王エドワードである」


「エドワード様?」

 

 ライオネルは首を傾げた。

 魔王が明らかにこの場にそぐわぬ意味不明の言葉を発したからだ。


「あの、魔王様? 先ほどの話の続きを――」


「よくぞここまで来た、勇者たちよ。余が魔王エドワードである」


 一言一句、同じセリフ。

 ライオネルは何かの冗談かと思い、軽く笑った。

 しかしそんなライオネルの様子を見てもなお、魔王は同じ言葉を発し続けるだけだった。


「これは……一体」

「魔王様」


 今度は後ろから別の魔族が入ってきた。

 ライオネルと同じく魔界三将、全謀の将エドマンドである。


「エドマンド……。魔王様の様子がおかしいんだ」

 

 ライオネルは目線で魔王を示した。


「よくぞここまで来た、勇者たちよ。余が魔王エドワードである」


 と、わざわざ目線で示さなくても分かる異常事態だった。


「一体魔王様はどうしてしまったんだ? まさかこの間の僕と同じように……」

「何を言っているんですかライオネル? 魔王様はいつもとお変わりない様子ですが……」

「は? これ……どこが?」

「勇者たちを出迎える練習をされているのでしょう? いつものことではありませんか」

「……すまない、エドマンド。今日は冗談が許される日か何かなのかな?」

「冗談も何もいつもの話じゃないですか? さすがは魔王様。王として最後の最後に勇者たちを出迎える心構え。このエドマンド感服いたしました」


 どうやら、エドマンドは本気のようだ。

 そのことを理解した瞬間、ライオネルは脳天をハンマーで殴られたかのような衝撃を覚えた。自分の中の常識が、音を立てて崩れ去っていくのを感じる。


「そんな訳の分からない練習をする意味はないだろ? 魔王様の様子はどう見ても尋常じゃない! そうだよな? そうだと言ってくれエドマンド!」

「じゃあ聞きましょうライオネル。君は魔王様と最近会話をした記憶がありますか?」

「え?」


 言われて、気が付いた。

 ない。  

 確かに、魔王と会話をした記憶が存在しなかった。

 こんなにも近くにいるのに、話すべきことを多くあったはずなのに、まったくその記憶が存在しない。明らかに不自然だ。


 話していた記憶がなくなってしまったのか?

 あるいは、これまでずっと『話をしなくてもよい』と思わされていたのか?


 異常なのは……魔王であり、そして自分自身でもあった。

 何かが……恐ろしいことが起こっている。


(いや、何が起こっているのかなんて……関係ない)


 迷うライオネルは、改めて心の中で思い出す。

 己の原点とも呼ぶべきあの出来事を。


(僕たちは……あの日、魔王様に忠誠を誓った。そうだよな?)

 

 ライオネルは思い出していた。 

 遥か昔、魔王と誓いを交わしたあの時のことを。



 ――500年前。


 ライオネルは北の大地を流浪するただの一魔族であった。


 当時の魔族は今とは比べ物にならないほどに弱かった。

 個々の能力は人間を大いに上回っていたものの、集団戦術に長けた人類を前に大苦戦。魔族に王はなく、ただ一体一体が暴れては討たれるのを繰り返しているだけだった。


 ライオネルは常に考えていた。どうすれば魔族たちが虐げられずにすむか? その答えを。

 その日、『桃の花』が咲くその地を歩いていたライオネルは、いつものように魔族たちの未来を思案していた。


「魔族はもっと団結しなければならないんです!」


 演説だ。

 花びらの散る桃の木の下で、一体の魔族が声を荒げていた。

 だが戦果は芳しくない様子だ。道行く魔族は誰一人、彼の声に耳を傾けることなく通り過ぎていく。


「人間のように兵を用いて集団で戦えば、今のように無様に負け続けることはありません」

「僕も同感だね」


 見かねたライオネルは、彼に声をかけることにした。演説を止めてしまう形になってしまうが、どうせ自分以外は誰も気に留めていない様子。躊躇する理由はなかった。


「君は?」

「僕の名前はライオネル。君と同じく、魔族の未来を憂う者だ」

「おお、同志とは珍しいですね。僕の前はエドマンド。よければ、魔族の未来に対する君の意見を聞かせてくれませんか?」

「僕は……」


 ライオネルとエドマンドは魔族の未来について話し合った。一時間、否二時間だっただろうか? 時がたつのも忘れ、お互いの想いをぶつけ合った。 

 そして――


「あたしゃ弱い奴が悪いと思うがねぇ。鍛錬が足りねぇのよ」


 その話を聞きつけ現れたのが、後の魔界三将の一体である全武の将――ジェーン。


「ふっ、遅いぞエドマンド。余をここまで待たせるとは、今日はどうしたのだ?」


 エドマンドが『兄者』と呼んで慕う魔族――エドワード。

 意気投合した四体は桃の木の下で酒盛りし、一つの誓いを立てた。 


「余ら四人、生まれし日、時は違えども死すときは同じとき、同じ時を願わん」


 のちの世に伝えられる――『桃園の誓い』である。

 

 その後、魔王エドワードたち四人は瞬く間に北の大地を制圧し、魔族だけの国家を建国した。

 それは今もなおエドワードの心に刻まれた、大切な思い出であった。


ここでリディア王女編は終わりです

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