ロリタ王女
リディア王女から預かった〈リアルツクール〉で、自分の妹を生き返らせようとした。それは完全に私利私欲に基づく行動で、創造主としては許されないことだった。
あっちの世界では多くの人が死んでいるのに、俺は……。
少しだけ、罪悪感が残ってしまう。
だからなのだろうか。
こんな偽善者気取りのことをしてしまったのは。
時刻は夜、自宅のマンションにて。
俺はリディア王女を部屋に呼んでいた。
「それで大和様、お話というのは?」
「それなんだけどな」
と、俺が説明しようとしたちょうどその時。
「お姉ちゃああああああああんっ!」
そう言って彼女に突撃し、抱き着いた少女。
見た目は小学校高学年程度だろうか。ただし着ている服はこの辺では見かけないドレスだ。
リディア王女と同じく金髪。彼女よりも少し短めのセミロング程度の長さの髪を、左右のリボンで留めている。いわゆるツインテールというやつだ。
くりくりとした大きな瞳に、整った顔立ち。リディア王女に抱き着いて離れないその姿は、まるで愛玩動物を見ているようで愛らしい。
美人のリディア王女をそのまま幼くそして可愛くしたような少女。
……という見た目の設定にしたのは俺なんだけどな。
「え、ロリタ? どうしてここに?」
「そこのお兄ちゃんが呼んでくれたの! ロリタ、お姉ちゃんのこと心配したんだよ!」
ロリタ王女。
それが彼女の名前だった。
「俺が彼女を招いたんだ」
「大和様、どうして?」
「俺もあの世界を作った者として、いつもいろいろと考えてるんだ。どうすればもっと世界が良くなるのか? どうすれば人々が悲しい思いをしなくて済むのか。だからこれは、リディア王女風に言うと『神様の奇跡』ってところかな。詳しい理由は話せないんだけど」
そう……。
これは深いわけがあるのだ。
物語後半、ロリタ王女はひどい目に合う。
具体的には、今話題になっている四人の巫女のうち最後の一人がロリタ王女なのだ。
急いで城へと戻った勇者たちが目撃したのは、無残にも殺されてしまったロリタ王女の姿だった。
泣き叫ぶ国王。
激怒する勇者たち。
笑う魔族――エドマンド。
彼女の死とともに人類を守護する結界が消滅し、魔族との大戦争が始まるのだった。
……という盛り上がりの展開のため犠牲になってしまうロリタ王女。それは誰かが楽しむ物語としてはよくある話なのだが、当人やその家族からしてみればたまったものではない。
どうしてそんなことをしたんだ! なんて言われても困る。そんな風に現実の世界を作れるだなんて思ってもみなかったからだ。
というわけで、ロリタ王女をこっちにお招きすることにしたのだ。
正直には話せないよな、これ。
「無理やり連れてきたわけじゃない。もちろん、父親である国王様とも話をつけてある。少し長めの旅行だと思って欲しい」
無理やりこっちにやってきたリディア王女とは違い、ロリタ王女は俺が招いた形になっている。もちろん本人に変な洗脳したりしたわけではなく、しっかりと提案した形だ。
もっとも、俺は好奇心旺盛な彼女の性格を知っているから、この提案を断られるとは思っていなかったが。
国王は騙してしまった形になったけど、娘のためだと思って許して欲しい。
こうしてロリタ王女を招いたという実績があれば、また同じように誘うことも簡単になる。つまり危ないイベントがあるときはこっちにきてもらって、その間はリディア王女のようにコピーの影武者が役割を負担することも可能だということだ。
今回は何のイベントもないから影武者なんて用意はしてないが……。
「大和様が言うのでしたら安心ですね」
「突然ですまないな。えっと、ロリタ王女の部屋はリディア王女と同じ部屋でいいよな?」
「ええぇー」
ロリタ王女があからさまに嫌そうな顔をしている。姉妹仲良く同じ部屋、というのは駄目だったのか?
「ロリタ、ここは城とは違うのです。多くの部屋が用意できないのは当然のこと。我慢しなさい」
いや別に我慢させるつもりはなかったのだが……。その気になれば父さんの部屋を渡せるけど、異国の地で一人だと寂しいかもしれないと思って気を使ったんだが……。
「お姉ちゃんいつも勉強勉強ってうるさいんだもん。一緒の部屋になんかいたら、ロリタ、絶対勉強しろって言われるんだもん。やだよぉ」
「ロリタ、私たちは王族なのです。民のために学ぶべきことが多いのは当然のことです。それが民からの税で生活を行う貴族としての義務なのです。ここでは私が教師役を務めますので、あなたの将来のためにも必要なことを……」
「ええええええええ! やだやだやだ! お勉強やだ!」
ロリタ王女がわがままを言う子供の見本みたいに手足をじたばたとして自己主張している。見た目はリディア王女に似ていても、中身は子供なんだよな。
「ね? お兄ちゃんもそう思うよね? 子供はもっと楽しく遊んではしゃいで元気良く! あの世界で勉強に苦しむロリタを助けるために、ここに連れてきてくれたんだよね? お兄ちゃんだって勉強嫌いだよね?」
「う……うーん。まあ、問われるまでもなく嫌いだよな。勉強」
「だよね! だよね! ううーん、二対一! ロリタの勝ちでお姉ちゃんの負け! だからここでは勉強しなくてもいいんだよ?」
「駄目です」
「やだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
ロリタ王女が手足を縦横無尽に動かして嫌さをアピールしている。
その姿を見て、俺は……。
「ははははは」
決して軽い気持ちで招いたつもりじゃなかったけど、これは……少し賑やかでめんどくさいことになりそうだな。
少し未来のことを想像して、俺は笑ったのだった。




