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俺のスマホアプリ〈異世界ツクール〉で異世界創造  作者: うなぎ
リディア王女編

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14/85

王女の不在


 翌日。 

 朝、目を覚ました俺はリディア王女を迎えに行った。


「起きてるかリディア王女?」


 廊下からドア越しに、そう声をかける。


「お待たせしました」


 そう言って、ドアを開ける彼女。すでに高校の制服に着替えていた。

 今日も登校するつもりなのか……。


 空いたドアの中を、ちらりと覗き込んだ。

 

 ベッドのシーツ、着替え等、必要なものがすべて揃っているように見える。それは母さんの私物ではなく、明らかにリディア王女のもの。

 話通り、『生み出した』んだ。

 これが〈リアルツクール〉の力か。異世界を創造した俺だけど、こうして現実世界での出来事をまざまざと見せつけられるのは改めて驚きだ。

 俺よりもむしろリディア王女がの方が『神』にふさわしいのではないだろうか? そんなことを考えてしまう。


 リビングのテーブルについた俺たちは、朝食をとることにした。

 この朝食は俺が用意したものだ。


「ごめんな、昨日はいろいろと忙しくて。ありあわせのものしかないけど」 

 

 トースト。

 ベーコンエッグ。

 牛乳。

 

 特別買い出しをしたものではなく、冷蔵庫に用意してあった材料をもとに作ったものだった。


「これは……大和様がご用意なされたのですか?」

「俺は王族でも何でもないただの庶民だからな。材料は自分で買って自分で作る、それ以外方法はないさ」

「ありがとうございます」


 そう言って、リディア王女はフォークを動かす。


「おいしいです。ありふれた食材でここまで良い味を生み出せるとは。やはり大和様は神様なのですね」

「気に入ってもらえて嬉しいよ。材料がいいんだろうな」


 がつがつと朝食を平らげる俺と違って、リディア王女はゆっくりとそして優雅にフォークを動かしている。

 品位を感じる。きっとナイフがあったらもっとしっかりとしたテーブルマナーになってたんだろうな。


「食べながらでいいから話を聞いてほしんだ」


 あまり食べながらしゃべらせるのもマナー違反かもしれないけど、どうしても話しておかなければならないことがある。

 いつもなら天気予報を見るためにテレビを付けたりしているが、今は切ったまま。これはリディア王女と話をするつもりだったからだ。


「リディア王女がいなくなった向こうの世界の話だ」

 

 リディア王女がフォークを止めた。


 そう、これが今、俺が話したいこと。

 

 今のところ、リディア王女の不在は皆斗の嘘でごまかされている状態だ。

 しかし彼女の不在はいつまでもごまかせるものじゃない。

 向こうの世界には俺が設定した強制イベントがいくつも存在する。そのうちいくつかはリディア王女が必要であり、彼女なくしては矛盾してしまう内容だ。

 

 異世界で生まれた作り物の彼女とこうして触れ合い、会話をする予定なんてなかった。気に入りはしていたが人として扱っていなかった。

 だからそのイベントには、普通の人間であれば到底許されないような過酷な内容も含まれている。王女が魔族に攫われた、という皆斗の嘘も、これからの展開を考えればそう的外れではない……。


 リアルで話をした相手を、そんなところに放り込むのは気が滅入る。しかし話を進めなければ皆斗たちはこっちに帰ってこないかもしれない。向こうの世界の住人もいつまでも魔族に苦しめられるままだ。


「リディア王女はさ、向こうの世界の国の王族だ。急にいなくなったら困るし、いつまでも行方不明扱いじゃ、戻った時に居場所がなくなってしまうだろ?」

「それは……わたくしに向こうへ帰れ……と?」

「ああごめん、早とちりしないで。俺から提案があるんだ」


 そんな風に悲しい顔をしないで欲しい。別に邪険にしてるわけじゃないんだから。


「リディア王女の分身を作ろうと思うんだ」

「分身、ですか?」


 その提案に、王女は首を傾げた。

 よくわかっていない様子だ。


「ここにリディア王女はいる。でも向こうの世界にも王女が必要だ。そうだよな」

「……そうですね」

「だから分身……いや、偽物のリディア王女を生み出して、その偽物に代わりをさせようと思う。俺が勝手に用意するのも失礼だから、一応、話を通しておこうと思ってね」


 データをコピーするだけだからそう複雑な作業ではない。

 ただ向こうの世界も現実に存在するわけで、俺の都合でもう一人の同じ人間を生み出すのはどうかと思う。だからこのリディア王女はただのコピーではなく偽物だ。俺がそう設定すればそれが公式になる。

 コピーというよりは急造の影武者と言った方がいいかもしれない。あくまで周りをごまかすための他人だ。


「たいしたことはしないよ。君は今、魔族に囚われてることになってるからね。あまり誰かと話す機会もないと思う。勝手なことはしないから安心してほしい」


 本当は魔族に攫われるイベントがあるんだけど、そこは今の状況に修正しておく必要があるな……。


「わたくしのために、そこまでしていただくのは……」

「せっかくリディア王女はこの世界に来たんだ。もう少し、ゆっくり楽しく過ごしてもいいだろ? 君をこんな目に合わせたのは、俺の責任でもあるんだから……」

「大和様……」


 リディア王女が瞳を涙で濡らした。


「ありがとうございます。わたくし、この〈リアルツクール〉の力を手に入れて、あの事件のあと、この世界に来て……。でも、大和様に受け入れてもらえるかどうか不安で……。王女としての責務から逃げ出した、心の弱い愚か者だと……罵られないかと……。ですから、その言葉だけで……わたくしは満足です。本当に……ありがとうございます」

「いいんだ。すべては俺のふがいなさが生み出した結果だ。皆斗たちの件は全部俺が悪い。だからリディア王女、しばらく異世界のことは忘れてくれ。俺が必ず……以前よりもずっとよくしてみせるから」 

「はい……」


 俺は悪いことをした。

 だからここに彼女がいる間ぐらい、安心して過ごして欲しい。


 そして、願わくば向こうの状況を改善したい。

 まずは偽のリディア王女を作り出し、そして……。


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