静かな拷問
奇妙な世界へ…
俺は田渕勉。産業スパイという、アウトの線スレスレの道を歩む男だ。
それは数ヶ月前の事。当時、大学を卒業したばかりの俺は大企業の『MIFUNE』に勤めていた。
その時の俺は成績優秀で、色んな営業をこなしてきた、いわゆる、『エリート社員』と言われていた。
そんなある日、社長の三船大作から、ある事を命じられた。
「田渕くん。君には、ある重要な仕事をやってもらいたい」
「はい。何でしょうか」
「君には、『産業スパイ』をしてもらいたい」
「えっ!スパイですか?」
俺はその言葉に驚いた。何故なら、スパイという、重要な役割を自分がやるからだ。
「あぁ、そうだ。まぁ、驚いても無理は無い。なんせ、スパイだからな」
「スパイと言っても、何をすればいいでしょうか?」
「まず、人材や、人数。その会社が、何をしているか。さらに、重役になるとして、その会社にとって、重要な事を、こっちに月末に教えてくれれば良い」
「…わかりました。では、どこのスパイになれば良いでしょうか」
「あぁ、ライバル会社の『子安産業』のスパイになれ」
「はい。子安産業ですね。わかりました」
こうして、俺は今、子安産業のスパイとして、働いている。
それから、スパイ活動をして、数ヶ月経った頃。それは仕事中の事だった。
「……はい、わかりました。……おい、田渕!」
「課長、どうしました?」
「お前、社長に呼ばれてるぞ」
「は、はい。わかりました」
俺は社長に呼ばれ、社長室へと向かった。
「失礼します」
「入りたまえ」
扉を開けると、そこには、子安産業の社長、子安光文がいた。
「おぉ、来たか。田渕君」
「はい。ご要件は?」
「あぁ、そうだ!飲み物を持ってくるよ」
「えっ!社長がですか?」
俺は子安の意外な行動に驚いた。
「あぁ、そうだが、悪いか?」
「いえいえ、全然!」
「じゃぁ、1階の自動販売機で、お茶でも買ってくるよ」
子安はそう言うと、社長室から出て行った。
(いや、待てよ…これはチャンスだ)
俺はこの会社にとって、重要な物を探した。しかし、どれもこれも使えない物。困り果てたその時、急に意識が朦朧とし始めた。そして、俺はそのまま意識を失った。
「…………」
俺はいつの間にかすべての面が白い部屋にいた。
「…ここは…」
そう呟くと、それに反応したかの様に向こうから誰かが来た。
「やあやあ、やっとお目覚めかい」
目の前には子安がいた。
「まさか、君がスパイだなんてねぇ…残念だよ。た、ぶ、ち、つ、と、む、く、ん」
「な、なんで、スパイって事を知ってるんだ」
「もちろん、知ってるよ。たしか、MIFUNEにうちの情報回してるだろ」
「えっ」
「なんで、スパイをしている?理由を答えろ」
「そ、そんなもん、答えられるはず無いだろ!」
俺は子安に反抗する。しかし、子安は、動じなかった。
「あらあら、そんな事言って、後悔、するなよ」
「何が言いたい」
「先に言っとくよ。これは拷問だ。防音素材が全ての面にはられている静かな部屋で一人ぼっちで過ごしてもらう。食事はある。睡眠もとってもいい。何ならトイレもある。風呂は無いがね。しかし、理由を答えるまで、ずっと過ごすんだな。あぁ、後、スマホは没収だ」
「へっ!そんな事で、吐けるかよ!」
「ふん、そんな事を言っていられるのも、今の内だよ」
そう言うと、子安はここを出て行った。
それから数時間後、食事が運ばれてきた。食事はカツ丼とカップのきつねうどん。俺はそれ等を全て平らげた。
「フー、食った食った」
俺は眠気が来たので、そのまま寝た。
次の日、朝食のトースト、フルーツヨーグルト、コーヒーを食い終え、何をしようか考え、まず、1人しりとりをした。
「まず…りんご、ゴリラ、ラッパ、パール、ルビー、いちご…」
数時間後。
「…ライチ、地図、図形、い…い…い……もう無理だ〜」
俺は笑いながら時間を潰す。
それから、暇潰しをし続けた。1人じゃんけん、モノマネ、口笛、睡眠等、俺は何とか耐え続けた。この時の俺は耐えきる精神で乗り越えようとした。しかし、それはずっと続かなかった。
数日後、俺の精神はボロボロだ。衣服も汚れ、臭い匂いがしてくる。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
このように発狂しかできない。話し相手もいない為、イライラしてくる。更に、運ばれてくる食事も質素となってきた。ししゃも一匹や飴一個等、栄養もあまり無く、ガリガリに痩せた。更に体内時計も機能しなくなり、朝なのか夜なのかわからない状態だ。
「子安ぅぅぅ!俺の負けだぁぁぁ!わかった!秘密を言う!だから!たっ、助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
その後、俺は子安に全てを話した。
「フフフ、偉いぞ田渕。秘密を全て話した。君はいい子だ」
「もう全て話した!だから、ここから解放してくれ!」
「えっ?なんだって?」
「だから、解放してくれ!」
「あぁ、解放してやるよ。生からな」
「え」
子安がそう言うと、まず、俺の耳を塞いだ。そして、胸元に銃を撃ち込まれた。何発も、何発も、何発も。胸元からは血がだらだらと出てきて、そのまま、事切れた。
その後、MIFUNEは、倒産。その社員は、子安産業に取り込まれた。社長の三船大作は、社長室にて、眉間に銃を撃ち込み、死亡。他殺と思われたが、銃には三船の指紋がついていた為、自殺と判明。そして、彼が残した遺書にはこう書かれていた。
『静 か に な り た い』
読んでいただきありがとうございました…