虚無とストゼロは裏切らない
頭が痛い、そう感じて目を開けると、真っ白な天井が目に入る。
家だ。居候だけど。
あぁ、そうだ。昨日の飲み会で酔っ払って、確か…。
店を出てからの記憶がない。
でもきっと、ここにいるってことは彼女が迎えに来てくれたんだろう。
重いからだを起こして周りを見渡すと、いつもの見慣れた光景が広がっていた。
「うー、…水でも飲むかぁ。」
立ち上がりキッチンに向かおうとすると、テーブルに一枚のメモが置かれてた。
手に取り目を通すと、一気に脱力感が体を襲う。
「まただ…、あぁ…。」
もう我慢の限界です、束縛も嫉妬ももう耐えられません。荷物まとめて出て行ってください。
出て行ってください、って文字を何回見たかわからない、
「…まとめるかぁ。」
綺麗に整頓されたキッチンの換気扇の下で、もくもくと上がっていく煙をぼーっと見つめる。
もうここで煙草をすうことはないんだなぁ、とどうでもいいことが頭をよぎった。
愛というものに触れることは無理だと思って生きていた。
まだ純粋に愛を信じていたのはいつまでだっただろう。山奥の澄んだ川のように透き通った眼をしていた。
けれどもう、すべてをあきらめてしまった。
もう少し手を伸ばせば届きそうなのに、目には見えているのに、どうしても触れることができなかった。
それでも貪欲な俺は、愛に似たまた別の「何か」で心を満たしていった。
俺を含めた人間、みんな馬鹿だから本物の愛が何かなんてどうせわからない。
きっと雲の上で暇そうにしている神すらも知らないだろうから、考えたって仕方ない。
一時的にでも心が埋まるなら、これでいいじゃないか。
鬱な気持ちを連れ去る気がない夜を、ストロングゼロで体に流し込む。
別に一夜限りの関係を持ちたいわけじゃない。
捨てていくのは君たちなのに。
均等に並べられた何に一つ変わりのない錠剤みたいに、周りと同じ感覚を持って、周りと同じ世界で生きてみたかった。
自分の個性を持てだとか、世論に惑わされず己の信念を貫けとか、
そんなの一般社会で一般的な家庭で育ってきた人にしか言えない。
俺たちみたいな外れ物には、個性すらない。
自分らしく生きることを許されず、世に溶け込むことさえもできなかった俺たちの居場所なんて探すだけ無駄だった。
それでも、ない居場所を探して夜の街に繰り出る。
コンビニで安い酒を買い、見るに堪えない糞みたいな世の中から目を背けるように体内に流し込む。
無駄にアルコール度数の高いそれは、苦しみと寂しさが混じる見たくもない夜から、すぐに意識を遠ざけてくれた。
見慣れたネオンが、見間違えるようにきれいに光り輝く。
小さいころに道で拾ったガラス片を見つめた時のような感情がよみがえった。
あの頃はまだ何も知らない、ただひたすらに、純情にくだらないことを追いかけることができた。
いつからか、覚えもしなくていい遊びを覚え、興味もない知識が頭を埋めていき、この世の残酷さに気づいてしまったのだろうか。
ぐらぐらと世界が回る、視界がサイケデリックにきらめいては消え、ゆるやかに時が流れていった。
お酒はハタチになってから。