プロローグ
「ピッ…ピッ…ピッ…ピッ…ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ……」
夢か現実かわからない場所にいるその音に、手を差し伸べてスマートフォンに目を向ける。
画面の端から端まで指でなぞり、現実にいた音が鳴り止んだ。
アナログの時計―――針の上にある銀色のボタンを叩くような―――よりも、幾分難しい操作が必要なのに、なぜこんなにもすんなり鳴り止むのだろう… というたわいもないことを、鳴って鳴り止むまでの短い時間で考えた。
窓から差し込む光が鬱陶しい。僕はまだ1日を始めようとしているのに、この光はもう既に1日を始めている。僕はそういう出しゃばった奴が苦手なのかもしれない。
身体を起こして一日が始まる。階段を降りている頃には光の苦手な理由は頭の片隅からは消え、思考は新しく、また次の話題を持ってくる。
僕は次に今日見た夢のことについて考える。
昨日の夜はなかなか寝付けなかった。スマートフォンの見すぎで目が起きたままだったからか、エアコンがタイマーで切れて暑くなったからか、理由はいくつかある。寝るという行為に嫌気がさしてきた僕は、羊を数えることにした。
羊を数えることを提案したのはいったい誰か。と文句を言いたいくらい、僕は羊を数えることができなかった。
羊を数えることよりも、僕は羊がどんな容姿をしているのか、どんな飛び方をするのか、そんな初期設定に夢中になってしまって、羊がなかなか飛ばないのだ。いっそのこと、羊の見た目に夢中になれたほうが、夢の外にいる現実から夢中に入れるかもしれないのに。
諦めて僕は、結局いつも通りに宝くじが当たる夢を考えた。
この夢を考える時は、毎回当たる金額を変えたり、どんな使い方をするのかを変えたりしている。
昨日いくら当たったかは思い出せない。
夢を思い出そうとしたのに、夢を見る前ばかり思い出してしまった。
僕が語り部なら、さぞ退屈になってしまうだろう、と少しにやけてしまった自分がいる。
夢のことについて考え出すと、いつもこうだ。
でも今はこれがいい、夢はこれぐらいぼんやりしていていいんだ。
これは、僕がそう思えるまでの夢のお話。