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ねすてっど

作者: ノーマッド

「よくぞ、ここまで辿り着いたな。

……ククク、思えば。貴様と我との因縁は長いが、こうして顔を合わせるのは初めてか。

奇妙なものだな。互いによくよく見知っているのに、初対面同士というのは。」

 濃紫の鎧に漆黒のマントを羽織った魔族が低く笑う。

「初めまして、魔王。

そして、さようならだ。」

 勇者は武器を構えた。人の希望を受ける光輝の剣がその張り詰めた横顔を照らす。

退屈そうに鼻を鳴らした魔王が虚空から黒い剣を取り出した。苦悶の剣と呼ばれるこの剣は殺したものの魂を取り込みその力を増していく。

その呪われた刀身にはかつてこの剣で殺された者たちの死に顔が浮かんでは消えている。

「いいだろう。

そして宣言しよう。お前を殺し、お前が関わった全ての者をこの剣で殺し、お前と関わらなかった者も全て殺し。

全てを滅ぼしてくれる!」

「そんなことはさせない!」

 剣戟の音が、消えた。

勇者の盾は砕かれて部屋の片隅に投げ捨てられ。魔王のマントは切り刻まれた破片がそこら中に散って。

勇者の鎧は篭手だけが残り勇者の腕を守り。魔王の鎧は真の姿を隠すための物であったので脱ぎ捨てられ。

勇者の剣は半ばほどでへし折れ、勇者はその剣先を血の滴る手で握りしめ、苦悶の剣は文字通り真っ二つに切り裂かれその刀身には何も映っていない。

「まさか、この…我が……!」

 驚愕に染まった顔の中心に突き立てられた剣先から、勇者の手が離れた。

顔の中心を踏みつけ、更に深く突き立てる。事切れた魔王の体が灰のように崩れ去っていく。


「おぉぉ!終わった……クリアだ!」

 画面に表示された"Fin"の文字に思わずガッツポーズを取る。

二十数時間のプレイ時間を迎え物語の末尾まで届きやりきったという達成感に脳天までひたり、詰めていた息を吐き出す。

力の抜けた肩に、だらりと垂れ下がる両手、足指まで弛緩させて、寂寞感に沈む。

 クリアしたとクリアしてしまったという相反する思いが乗った天秤。そのバランスがちょうどいい具合になるまでゲームのオープニング画面を見つめようとすると、無粋な電子音が響いた。

「ん?

なんだよもうこんな時間か…。」

 締め切っていたカーテンを開くと、眩しい朝日が室内を照らし、窓を開け放つと、冷え切った空気が顔面に叩きつけられる。

昂ぶりっぱなしの自律神経を冷やし終わったのか長い欠伸が出ていった。

眼下には同じ学園の制服を着た生徒たちが鈴なり連なり門へと向かっている姿が見える。

 朝のSHRまであと十分、どうにか今日は間に合いそうだ。


「さて、今日の授業を始めるぞー。」

「せんせー群岡くんが寝てまーす。」

「……寝てるのを起こすのに怒鳴ったら体罰になるんだろうか?

ちょっと俺以外の偉い人に聞いてくるからそれまで自習してろ。」

 教員が出て行くと室内が一気にざわめく。その騒ぎの中でも一人、制服に着替えた勇者の導き手は惰眠を貪り続けているのであった。

 実質朝ご飯である昼食の弁当を胃に詰め込み終わると席を立つ。目惚け眼に洗面所で冷水を当てて強制覚醒させると生徒で溢れる廊下を歩く。

一人で急ぐ誰か、二人で話しながら歩く誰かたち、三人以上は何をしているのだろうか奇数でも誰も余らないのはどういう魔法を使っているのか。

窓越しに見える木の下では弁当を広げたり、ボールで遊んでいたりする。大まかには笑顔が多いように見えた。

少し湿っぽい階段を昇る。プリントの山を抱えた女の子を見かけた、メガネを掛けて俯きがちの顔は見えない。その横を軽快に通り過ぎて少し行くと、横を男子が駆け抜けていった。女の子に追い付いた男はプリントを奪い取って照れたように笑っていた。先程まで俯いていた女の子の顔は可愛らしい眼鏡のよく似合う物静かそうな可愛い女の子であった。踊り場から横目で見たその光景を気に留めることなく視線を前に戻す。

 昼休みの最中であるというのに、図書室のテーブルは全て塞がっていた。どこかの運動部らしく日焼けした男子の正面に、キッチリと制服を着た眼鏡の男子が座ってノートを開いている。日焼けした方が望みを絶たれたような顔でシャーペンを握っている。彼らから一つ席を離した横では本で興奮した顔を隠した女子がいた。ちら見というよりガン見して、彼らの間に記号を置いているようだ。

 本棚の間に飛び込んでお気に入りのコーナーに向かう。ファンタジーや物語のコーナーから一冊本を抜き出し、そのまま本を開く。


 地下下水道、ヘドロの悪臭漂う中に秘密結社七塔のアジトは有った。

黄ばんだ布を纏い、垢塗れの体をした。しかし、目だけは希望に爛々と輝かせる人々の中を、少年が歩く。その両手は縄で縛られており、その縄の先をナイフを持った少女が握っている。

「センダリアから来たアホってアンタ?

産まれた街から出るのは重罪だっていうのに、どうしてそんな馬鹿な真似したの。」

「知りたいことがあったんだ。僕は。」

 そう言うと少年は懐から手紙を取り出した。ポッケの中には他にも数枚の手紙があるようだ。

「この手紙がね。壁を越えて届いて。

それを何通も見ている内に、どんな人が出したのかなって気になってしょうがなくてさ。」

「……本当にバカなのね。

そんなことのために死にたいの?」

「いや、死にたいわけじゃないんだけど。」

「それなら精々祈ることね。

うちのリーダーに殺されないことを。」

「リーダーさんかぁ…!ハイガルドの街で聞いたけど、一度街を出て戻ってきたんだよね!凄いよなぁ…!」

「……コイツ、アタシたちに捕まってこれから殺されるかもしれないってのに。

随分のんきな……本物のアホね。」

 二人の前に重苦しい扉が現れた。その横には武器を持った男が二人並んで立っている。

「侵入者を連れてきたわ。」

「あぁ。」「通れ。」

 男たちが扉を開く。


 トントン、と肩が叩かれた。

顔を上げると司書の先生がニッコリと笑っている。

「熱心なところ悪いけれど。午後の授業が始まりますよ。」

 司書の先生に頭を下げる。読み途中の本を借りてから教室へと戻った。

「はい、じゃあ今日は小テストやるぞー。

点数悪かったら居残りな。」

 嫌そうな悲鳴の声を受け止めた数学の教師はニヤリと笑ってテスト用紙を配りだした。

紙面に目を走らせる。ちょうど今やっている単元の部分だ。

読書時間の確保のために、とペンを持つ手に力が籠もる。

 帰りのSHRの後。居残り指示を食らったり、部活だったり、委員会だったり、駄弁っていたりするクラスメイトに背を向けて帰宅部たちが帰る流れに乗る。

大して長くもない下校道を終え、さっさと自室に引きこもる。

 鞄から取り出したのは読み途中の本。椅子に腰掛けると扉の向こうを求めて頁を捲ろうと指を掛ける。

 その時、突き上げるような振動に襲われて椅子から転げ落ちた。

「なっ、なんだ…?地震か…?」

 部屋の中を確かめようと立ち上がると、外で悲鳴が上がる。

窓辺へ行って外を見ると、信じられない光景が広がっていた。

 空を翼の生えたワイバーンが飛び回り、時折降りてきてた路上の人を咥えて再び飛び上がる。路上では豚のような顔をした大柄のオークや子供くらいのサイズで緑色の肌をしたゴブリンが棍棒を持って人々を襲っている。

男性は肉の塊になるまでミンチにされ、引き倒された女性はそのまま襲われている。

「な、なんだこれ……?」

 その時、自分の家の門に目が止まった。ゴブリンたちに追い掛けられた少女がどうにか門を開けようとしている。だが門には鍵がかかっているのだ。

自宅の壁は高く横から覗けないようになっているし、門は鍵がかかっている上に頑丈だ。

(篭っていればしばらくは持つ…よな。)

 窓の外。締め切った窓のガラス越しに見える世界はまるで他人事の世界だ。何もする必要はない。

(きっと誰かがどうにかするだろ。とにかく、自分のことをどうにかしないと…。)

 悲鳴が上がった。少女の腕はゴブリンに掴まれ、両足は押さえつけられている。長い豊かな金髪をした少女の顔が絶望と恐怖に染まっていた。

きっと誰かが助けに現れる。まるで漫画やアニメやゲームや、そういうファンタジーな世界だ。そうであるならきっとヒーローがいる。ヒーローがきっとみんなを助けるだろう。

 警察官たちが視界の隅に映る。パトカーはオークに持ち上げられて投げ捨てられた。銃弾はゴブリンなら十分動きを止められるが、頭や目にでも当たらない限り殺せはしない。そして憎悪に満ちた目をしたゴブリンたちが寄って集って襲いかかる。空から降りてきたワイバーンが火を吹いてオークたちごと人々を焼き払った。

(誰か、早く助けに……。)

 どこを見ても、誰かを助けられような人はいない。誰も彼も自分が生きるか死ぬかで精一杯だ。

(いない?)

 ふと、手を見た。借りたばかりの本が握られていた。

物語なら誰かがピンチになると必ず助けが現れる。物語ならそうなっているのだ。

(あぁ、そうか。ここは現実だから。)

 窓を網戸ごと開き、眼下のゴブリンたちへ本を投げ付けた。ほとんど塊になっていた連中に当たり、煩わしそうに悪意の籠もった目で睨み付けてくる。

その目には本棚が自分たちに落ちてくる様が見えた。

「助けられるのが俺しかいないじゃんか!」

 押し潰されたゴブリンたちの山から少女が這い出して来た。その背を門に預けボロボロになった服を握りしめながら、信じられないような目で目の前の本棚を見ている。

「コネクト、外の門を、開けて!」

『了解しました、外の門を開きます。』

 突如開いた門に少女が倒れ込む。上からはよく見えないが、這いずるようにして門の中へと入っていく足が見える。

本棚を左右から回避してくるゴブリンたちへ積み上げた本を手裏剣のように投げ付ける。コミックス、単行本、文庫本、ハードカバー、ほとんど当たりはしないがとにかく多く投げる。

少女が門の中に入ったのを確認すると残った本を抱えて投げ付けた。

「コネクト、外の門を、閉めて!」

『了解しました、外の門を閉めます。』

 門が閉じるのを見てゴブリンたちが駆け出すが、もう遅い。入れなかった連中が門を叩いているがあの分では何年かかっても開きはしないだろう。

 いつの間にか詰めていた息を吐き出す。

「あ、そうだ。下に迎えに行かないと…。」

 知らないやつと話すの苦手なんだよな、と口の中で呟くと窓を閉じてしっかり鍵を掛けてカーテンを閉めた。


「どう?」

「うーん。

女の子出てくるの遅くない?」

「あー。確かに。」

「あと陵辱シーンないよね。なんで?」

「いやこれ全年齢だし。俺エロ書けないんだよね。」

「じゃあエロハプニングとかもっと出してこう。

こう、女神とか出してさ。"君の退屈を終わらせに来たんだ"とか。

あと女の子以外の描写を減らすために主人公は最強にして敵みんなボコボコにしてさ。」

「女の子増やすとなぁ。書き分けできないや。」

「語尾を特殊にして、テンプレ属性を強化した感じでいいんじゃない?」

「なるほどなー。」

「ちなみにこれ続くの?」

「さぁ?」

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