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閣下が退却を命じぬ限り

「閣下が退却を命じぬ限り」IFの説明を転生皇后にしてもらったよ

作者: 剣崎月

いつものことですが、これ単体で分かるなどというサービスはありません

「閣下が退却を命じぬ限り」がベースです

 記憶を取り戻したときには手遅れ ―― 転生ネタにはよくあることです。

 ああ、またそのパターンね……でも当事者になると笑えないものなのです。

 ここから必死に記憶を駆使し上手く立ち回り、できる事なら処刑エンドを迎えたいのです。


 普通は死なないように立ち回るんじゃないの?


 違うのです。

 わたくしこのままでも、死にはいたしません。現在の地位を失うこともございません。確実に二十八年間は生きられることは知っております。

 ただその「生かされ方」に問題がありまして……。

 もちろんわたくしとて、死にたくはありません。でも死んだほうがマシな人生を送ることになるのです。


 二十八年間、年子を出産し続ける ―― それがわたくしの未来なのです。


 この世界の根本は戦略シミュレーションゲームのスピンオフ。

 どうしても攻略できない帝国側でプレイするというものなのです。

 本編において脅威の物量と、豊富な人材で小国どころか、わりと大きめな国すら、おもうがままに蹂躙するルース帝国。

 このルース帝国編が出た際に、キャラクターが一斉に発表されたのです。

 その中に「性別記号間違っただろ」「インドの右的な誤植?」「一番格好いいのに」「なんという古代ヘレネス男神」「体格すごい」一人だけ、群を抜いて格好良い女性士官がいたのです。

 名前はイヴ・クローヴィス。

 パラメーターは個人戦闘能力No.2。

 No.1はルース帝国の将軍レイモンド・ヴァン・ヒースコートです。ルース帝国はすべてにおいて、他国を上回っているのです。

 とにかく素晴らしく強くて格好いい女性士官、イヴ・クローヴィス。

 もちろんこのゲームは戦略シミュレーションであって、乙女ゲームではないので、恋愛など皆無なのですが、征服した国からネームドを連れ帰り交渉し、配下に組み込める……というシステムがあるのです。

 単純に侵略すれば配下にできるわけでもなく、国をある程度残したまま捕らえる(国を盾にする)要人を人質にとり交渉、厚遇を提示するなど、様々な選択肢を適切に選ぶ必要があります(選択肢の種類は侵略の仕方や同盟や賄賂、使用している将校などで変わりますが)

 イヴ・クローヴィスも何種類か選択肢があるのですが、彼女の選択肢でもっとも有名なのが「交渉失敗」なのです。

 イヴ・クローヴィスを捕らえた将軍たちは、その美しさから一様に皇帝へ直接献上しようと連れ帰り謁見となります。

 ルースの偉大なるアントン七世(リリエンタール)が直々に交渉するも、イヴ・クローヴィスは話を聞かず、突進してアントン七世に怪我を負わせてしまうのです。


 アントン七世はこれで興味を持ち、イヴ・クローヴィスを配下に迎える……のですが、この交渉失敗→配下ルートを辿ると、以降イヴ・クローヴィスは登場しなくなるのです。

 他の他国の士官は配下に入ると使用できるようになるのですが、イヴ・クローヴィスだけは使えないのです。

 「ヒースコートとクローヴィスを組ませて国を落とそうと思ったのに」という嘆きがよくネットに上がっていたものです。


 ちなみにイヴ・クローヴィスは「交渉成功」になると配下にならないのです。

 どういうことか? 交渉が成功すると、そのまま逃げてしまうらしいのです。身体能力がトップクラスなので、ヒースコートが遠征中に逃げおおせてしまうとのことです。

 なんにせよ、配下になったのに使えない唯一の士官、さらには女性、男にしか見えないが綺麗 ―― 要するに皇帝の性的な配下になったんだなというのが、プレイヤーの一致した見解でした。

 それが公式ノベルによって正式なものとなったのです。

 小説ではイヴ・クローヴィスはアントン七世が初めて愛した女性という存在になり、監禁陵辱から二人の間には愛が芽生える。これが正史となります。

 愛が芽生える切っ掛け、それはイヴ・クローヴィスの顔の怪我。

 とにかく美しい顔だち、そして暴れると被害甚大 ―― 当初イヴ・クローヴィスは拘束されて、体の自由が利かない状態でアントン七世に陵辱されているのです。

 イヴ・クローヴィスにとっては陵辱なのですが、他者からすると、陛下の寵愛を受けていると見えるのです。

 とくに結婚して間もなかった皇后は、平民捕虜が夫であるアントン七世の精を、毎晩受けているのが悔しくてしかたがなく、召使いに顔を傷つけるよう指示を出すのです。

 皇帝はあの顔が気に入っていると解釈してのこと……小説には皇后が姿見で自分の顔を見て、鏡を割るというシーンがあるのです。

 どの程度の容姿かは言わせないでください……そうわたくしは、イヴ・クローヴィスの顔を傷つけるよう命じたルース帝国の皇后オリガなのです。

 二人が顔の怪我が切っ掛けで、少しずつ歩み寄るのが正史。ではその正史において、切っ掛けを作った皇后はどうなったのか? 先に述べた通り、二十八年間年子を生み続けることになるのです。これは公式ノベルにも書かれております。

 幽閉でもなければ、処刑でもない、子を産ませ続けるという罰 ―― 


 正史である公式小説に書かれているわたくし(オリガ)についてですが、アントン七世の再婚相手で二十一歳。ルース大貴族の娘であることだけです。

 ページ制限もありますが、それ以上の設定は必要ないのは、わたくしでも分かります。


 正史どおり、わたくしは現在二十一歳で、アントン七世の再婚相手にございます。

 アントン七世は先代皇帝の甥にあたり、皇女しか得られなかった先代皇帝が、長女アナスタシアさまと娶せ皇位を継がせたのです。

 非常に優秀なアントン七世は、ルースの支配を確固たるものにし、侵略戦争においても常勝不敗の名を欲しいままになさる、まさに偉大な皇帝陛下にございます。

 ただ子宝には恵まれておりませんでした。

 皇后として迎えた五つ年上のアナスタシア皇女との間には、何年経っても子ができず。この世界は妃以外に産ませた子には皇位継承権はないので、妾を薦める臣下はおりませんが、離婚を仄めかす者は年々増えてゆきました。

 アントン七世がルースの血をまったく引いていないのでしたら、離婚して新しい妃を迎えたところで無意味でございますが、アントン七世は先代皇帝の甥。

 陛下の血筋だけで、子は次の皇帝の資格を得ることができます。

 故に臣下が、皇位継承の際に争いが起こらぬようにするためには、実子が必要であると ―― アントン七世に離婚を求めるようになりました。

 アントン七世はご自身が皇帝の実子ではありませんので、必要性をまったく感じておられず、臣下の言葉を無視していらっしゃいましたが、三年前、四十歳を迎えたアナスタシア皇后が「いままで大切にしてくださり、まことにありがとうございました。これ以上陛下にご迷惑をおかけしたくはありませぬ。どうぞあたらしいお妃を迎えてくださいませ」と遺書を残し自害。

 そのときアントン七世は前線にいらしゃいました。

 勝利し帰国したアントン七世に臣下は表面上、お悔やみを申し上げておりましたが、年頃の娘がいる貴族たちは皆喜んでおりました。

 わたくしの父もその一人。いいえ、正直に申しましょう。わたくしも喜んでおりました。……もっと正直に言いましょう。わたくしや母は、皇后を虐めておりました。

 アントン七世に嫁げる娘を持つ貴族たちは皆、皇后に対して遠回しに嫌味を言っておりました。

 気付けば注意なさるアントン七世ですが、あの方は精神が並の強さではなく、陰口などで精神を病まれるような御方でなかったこと、アナスタシア皇后もアントン七世にあまり迷惑をかけたくなかったので何も言いませんでした。

 なによりアナスタシア皇后は、子供を産めないことを非常に気にしており、言えなかったのでございましょう。


 そのアナスタシア皇后に散々女性だけの集まりで「子供を産めない妻など無価値」と ―― いまのわたくしでしたら、そんなことはないと言えますが、記憶を取り戻す前ですので、妻は子供を産んで当然。産めないのであれば身をひくべきと信じて疑っておりませんでした。


 アントン七世は皇后は病死として発表し、一年の喪に服されました。

 それから再婚相手を選び、約一年の婚約期間を経て、新たな皇后を迎えたのです。わたくしオリガ二十一歳、アントン七世三十八歳。


 皇后を虐めてまでついた皇后の座。わたくしに求められているのは、跡取りを産むこと。それを理解し皇后となったわたくしですので、産まないわけにはまいりませぬ。

 わたくしとしても、罪滅ぼしにもなりませぬが、跡取りはかならず産もうとおもっております。ただ二十八年間年子出産は……最良はイヴ・クローヴィスが捕虜にならなければよいのですが。


 イヴ・クローヴィスが捕虜にならなければと願っていたわたくしでしたが、人を死に追いやった女の願いなど叶うはずなく、イヴ・クローヴィスの故国ロスカネフを攻略したレオニード・ピヴォヴァロフが、後の寵妃を連れて帰ってきました。

 その美貌はすでにわたしの耳にも届いております。

 アントン七世の寵愛がイヴ・クローヴィスに注がれるのは構いませぬ。

 正直アントン七世は苦手でございますから。

 ですが……そうです! わたくしも謁見に立ち会い、そこでアントン七世を庇いましょう。

 イヴ・クローヴィスがアントン七世を害そうとしたのを、身を挺して庇う。幸運ならばそのまま死ぬことができる。わたくしを殺害したとしても、イヴ・クローヴィスが害されることはありませんから、気楽に飛び出すことができます。

 アントン七世暗殺未遂でも罪に問われることはないのですから、わたくしごときが巻き添えで死んだところで、なんともないことでしょう。

 わたくしにとって、これ以上ない好機でございます。

 琥珀色の瞳を持つアントン七世の寵臣たる侍従に、わたくしも是非並びたいと希望を言いつけ、父公爵にも頼み、無事その場に並ぶことができました。

 引き出されたイヴ・クローヴィスの美しいこと。

 捕虜ゆえ薄汚れているはずなのに、この場にいる誰よりも美しい。

 なにごとにも興味を示されない、なにかに執着することのないアントン七世も、この美しさには ――


 わたくしが美しさに圧倒されている間に、イヴ・クローヴィスのアントン七世襲撃事件は終わってしまいました。

 身体能力がトップクラスの御方ですもの。わたくしのような一般的な貴族の女ごときが、その速さに反応などできるはずありませんでしたわ。

 気付いたらアントン七世に肉薄し、異音が響いておりました。

 聞いたところ、アントン七世の肋骨が折れたとのことです。

 突進したイヴ・クローヴィスを止めたのはレイモンド・ヴァン・ヒースコートでした。

 近くにいた琥珀色の瞳を持つ侍従や、連れてきたレオニード・ピヴォヴァロフも取り押さえようとしたらしいのですが、吹き飛ばされたとのこと。

 本当にわたくしごときが割って入ろうなど、烏滸がましい身の程知らずの浅知恵でございました。


 アントン七世は公式通りイヴ・クローヴィスを手元に置き、毎夜お渡りになられるようになりました。

 このルートになってしまったわたくしにできることは、イヴ・クローヴィスに危害を決して加えないことです。嫉妬なんて以ての外。

 侍女のなかには「妾を持つなんて」と不満を漏らしているものもいますので、しっかりと教育しなくてはなりません。

 アントン七世はいままで妾を一人も持っていなかったので ―― わたくしが蔑ろにされたと感じる者もいるようなのです。

 ですがそれは違います。皇后がわたくしではなく、アナスタシアさまのままでも、イヴ・クローヴィスを妾として迎え入れるはずです。

 わたくしは気にしていないことを侍女に語り、まちがってもイヴ・クローヴィスの顔に傷など付けてはいけないと注意を払っていた……つもりだったのですが、わたくしは破滅いたしました。

 わたくしの侍女の一人がイヴ・クローヴィスの顔に傷を付けたのです。

 額の右側を横に切り裂いたとのことです。もちろんわたくしは、その傷を見ておりませぬ。会わせてもらえるはずがありませんので。できることならば謝罪いたしたいのですが、アントン七世の許可が下りるはずもございません。


 わたくしの侍女による凶行でございますが、両親より命じられたと証言したそうです。たしかに彼女はわたくしの侍女でございますが、雇い主は両親でございますし、侍女の家族はわたくしの両親が治めている村でございます。命令に逆らうなどできなかったでしょう。

 ああ、もちろんわたくしの両親は、そのようなことは命じていないと証言いたしました。侍女がわたくしを陥れようとしているのだとすら言いました。

 わたくしは皇后になりましたが、わたくしの替わりはまだ大勢おります。それらを牽制するための行動でございましょう。

 いまのわたくしといたしましては、変わりたい気持ちしかございませんが ―― アントン七世にわたくしは無実であることを訴えなくてはなりません。


 侍女は処刑されました


 久しぶりにアントン七世のお渡りがあると連絡をうけました。この好機を逃がしてはなりません。わたしくしはイヴ・クローヴィスを決して害さない、御心に沿わぬようなことは致しませぬ、両親のこともありますので、どうぞ離縁なさってくださいませ ―― それらを伝えたいと思っておりましたが、アントン七世は聞いてくださいませんでした。

 部屋を訪れたアントン七世は、一言も発することなくわたくしを抱き、去ってゆきました。

 必死に寝台で乱れながらも弁明いたしましたが、それに対しての返事も反応もございませんでした。

 あの無表情な皇帝が怒っているのかどうか? それすらも分かりませんでした。

 そうしてわたくしは第一子を妊娠いたしました。

 両親は喜びました。臣下も表面上だけでしょうが、祝福の言葉を贈られました。ですがわたくしの心は重く ―― かといって今の段階では死を選ぶのは怖ろしくて無理なのです。

 将来を知っているとしても、いまのわたくしには、自害する勇気はありませんでした。

 産み疲れたとき、死にたくなったときに死ねばいいと、現実から目を背け、妊娠報告後一度も訪れぬアントン七世のことを、できるだけ考えぬようにして、第一子を出産いたしました。

 女児ゆえにあまり喜ばれませんでした。両親や家臣に早く男児を産んでくれといわれました ―― 五年後、わたくしが八人目の子供を妊娠したあたりで、両親のみならず臣下もアントン七世がイヴ・クローヴィスの顔に傷を付けたことを怒っているのを理解いたしました。

 そろそろ疲れたわたくしは、死を選びたかったのですが、それはことごとく阻止され ―― 第一子を妊娠した時点で死を選んでおくべきでした。



公式陵辱……じゃなくて公式の七世×イヴはわたしの手元にあるよ☆


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