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落第侵略者は南の島へ

pi pi pi pi


小さな電子音が響く。

ここは宇宙船マスカラコイーニャの、コクピットだ。


もうじき、太陽系第3惑星が見えてくる。

漸く与えられた任務に、期待が高まる。

資料で見た、太陽系第三惑星は美しい星だ。


改めて言葉にすると、それは酷く陳腐に思える。

それでも、ほかに言葉はない。「本当に青く美しい星」だ。


惑星連盟本部に、間もなく到着の報告を送る。

無能な自分に与えられた、旧式の宇宙船は、報告を自動で送ることが出来ない。


手元の感応式マニュピレータに手を置くと、思考を送信する。

返事なんて来ない、一方的で事務的な報告をすます。


-----------------------------------------------


「テラ=カッコイイ=オパイスキー」


間もなく、目的地「太陽系第三惑星」へ到着。

任務を遂行します。


-----------------------------------------------


着陸モードに切り替えると、衝撃に備え安全装置内に入る。

あと11時間以内に、着陸をすませる。

その後は、速やかに任務を行う必要がある。


自分の任務は、『この未開の星を正しい方向に導くこと』だ。


いや、正直に言おう。

政治家の詭弁のように、真実を飾るのは好みではない。

俺の唯一の美点、それは正直であるということだけだ。


目的は、太陽系第三惑星を、我らが惑星連盟の傘下に入れてしまうこと。

結局それは、ただの侵略だ。


正しい方向なんて、施政者たちの勝手な意見でしかない。


それでも無能と呼ばれた自分には、ようやく与えられた任務だ。

是が非でも達成しなくてはならない。


無機質な宇宙船の室内を見渡す。宇宙船には自分一人しかいない。

仲間もなしに、こんな任務をするやつはいない。

無茶をしている自覚はあるが、自分が世間に追いつくためには、無茶をしなくてはならない。


計器が着陸準備段階に入ったことを示している。

目的地は、日本か・・・


自動学習装置で、地球の文化を復習しながら、到着の時を待つ。

着陸前に睡眠も取れるようにしておこう。


現地では何があるかわからない。

圧倒的な技術差を覆すものが無いとも限らないのだ。

せめて万全な状態で臨みたい。


---------------------------------------------------


チュドーン


目が覚めた時、最初に聞こえたのは爆発音と警告放送だ。

どうやら、不測の事態におちいったらしい。


「エマージェンシー 乗組員は直ちに避難してください。本船の損傷41%。航行不能です。機体損傷により、生命の危険があります。直ちに避難してください。」


えぇ・・・と、一瞬思考停止する。

演習時に、着陸ミスは奇跡を10度繰り返せばできるかも?なんて笑い話になっていたのに。

自分はどうやら、その奇跡を起こしたらしい。


が、生存本能が動き出す。

呆けている場合ではない。


脱出ポッドに乗り込み、コンピューターが自動認識を済ます。

感知装置がグリーンのランプを点灯させ、自動的に射室される。


ヒューヘロヘロヘロ ドボンッ


どこか水に落ちたようだ。


脱出ポッドの計器が周辺の大気を測定する。

事前に調べたように、生存には問題ないレベルだ。

予想より汚染度が高いが、死ぬことはないだろう。


この装置もどこまで持つかわからない。

警告表示がそこら中について、避難を促す。


装備も何もないが、取り急ぎ脱出する。


卵型の脱出ポッドは、機械的ものの廃材が積まれてできた山の近くにある、汚物にまみれた沼に落ちていた。

周辺に、小麦色の肌をした現地民が集まってきている。

空は青く、気温が非常に高い。


まずい、資料と異なる。

おそらくここは日本ではない。


武器も何も持たず、こんなところに降りてしまったのか・・・。


現地民は口々に何かを叫んでいる。

言っていることはわからないが、怒号に近い。


あまりの迫力に身がすくむが、言葉がわからず返答もできない。

体内のナノ装置が翻訳をするのを待つ。


「じびsyら\;;;;;;いおいえたたた」


「gつあうがぎ@あいt@あいgt:gh」


詰め寄ってくる現地人の表情が、見える程近くになってから、ようやく聞き取れるようになった。


「また馬鹿な外国人が落ちてきやがった。」


「パラグライダーとか言うやつだろ、変な形してるが金持ちの遊びだ。」


「どうせ無茶な遊びをする、道楽好きの観光客だろう。身ぐるみを剥いでしまえ」


あぁ、どうも勘違いされているようだ。

当初の予定と異なるが、いったんは友好的に接してみよう。


「やぁ 皆さん 私は惑星連 ぐほぉっ」


最後まで言い切ることが出来ず、右ストレートを受けて自分は昏倒してしまった。



------------------------------------------------------------------



ブーン ブーン


次に目が覚めた時、自分は半裸で汚物の沼に漬かっていた。

どうも命までは取られなかったらしい。

顔の周りを小さな虫が飛んでいる。

手で振り払おうと思うが、体が思うように動かない。


暫く青い空を見つめて過ごす。

周囲はひどい状況だが、空だけは綺麗だ。

資料を思い返す。

おそらく東南アジアの何処かなんだろう。


死ぬとしても、この青い空の下でなら、いいかもしれないな・・・。

そんなことを思っていると、自然と口が緩む。


ふっと顔の前に、現地民の少女の顔が現れる。

小麦色の肌、引き締まった体躯、豊満な胸。

原色の服は、彼女の肌の色によく似合っていた。


後ろから声が聞こえる。


「チチ そんな外人ほっておけよ。観光客なんて碌なもんじゃないぞ。」


チチと呼ばれた少女は、後ろを振り向きながら、こう答える。


「このままじゃ死んじゃうよ。」


後ろの声が答える。


「死なせとけばいいさ。」


どうやら、チチという少女は自分を気にかけてくれているらしい。

ただ、後ろの声は反対しているようだ。


「すっごい男前よ。見たことないくらい。」


へぇ どれどれ・・後ろの声の正体が見える。

浅黒い肌の少年のようだ。細く引き締まった体に短い髪がよく似合っている。

半ズボンから見える足は、引き締まっており、運動神経がよさそうだななんて思う。


「そうかなぁ チチの好みはよくわからないよ。」


チチは少年に向かって話す。


「それにね・・助けてあげたらお礼とかもらえるかもしれないよ?」


「助けてあげたいだけなんでしょ。本当にチチったら、お人よしなんだから」


「へへへっ」


照れくさそうに、頭をかくと、少女と少年は自分を引き上げてくれた。

汚水よりは、少しはまし程度の水をぶっかけられて、体を洗われる。


おもったより、ダメージが深刻だったようだ。

そのうち気を失ってしまった。


次に目が覚めたのは、スラムの小さな小屋の中だった。

早朝に落ちて、今は昼過ぎだろうか。

太陽が高い位置に見える。


ぼろぼろの壁からは、外の景色が覗いて見える。

体内のナノ装置が、体の修復を終えたようだ。

体を動かすことが出来るようになっていた。


寝かされていた、室内を見渡す。

2M四方くらいの小さな小屋。

壁にいくつかのコップや歯ブラシなどが掛けられている。

あとは、ロープに水洗いされただけの洗濯物が干されており、それ以外何もない。


どうしたものかと、考えていると、少女たちが戻ってきた。


「おぉ 生きてるねぇ 随分頑丈な兄ちゃんだ。」


「やったぁ これでお礼がもらえるよ」


・・・どうしたものだろう。


「とりあえずさ、助けてやったんだし、礼くらいしろよな」


少年が頬をぺちぺち叩きながら話す。何か答えないといけないな。


「あぁ 私は惑星連盟の使者テラ=カッコイイだ。母星と連絡がつけば如何様にも礼をしよう」


言ってから、それが不可能だと気が付く。

おそらく、母星からの助けもこまい。

慌てて言いなおす。


「すまない、今は礼が出来るものが何もない。助けてくれたことには感謝する。」


少女たちは顔を見合わせている。


「頭打ってるのね、だいぶおかしなこと言ってるし。」


「なんだよぉ。みんな金持ちだっていってたのに、はずれじゃん。」


「でも、生きてたんだし、悪い人じゃなさそうだし、よかったじゃない。」


「チチってば、そんなことばっかり言ってたら、そのうち外人に攫われててしまうぞ。」


「・・・」


黙って聞いていたが、どうも自分は、この星の外国人だと思われているようだ。

惑星連盟のことは伏せておこう。

いったところで、今更どうにもならない。


「何か労働で返すよ。それで勘弁してもらえないか。」


少女たちはびっくりした顔をして、こちらをマジマジと見る。


「ん~半裸の兄ちゃんに出来る仕事かぁ。あたしらじゃ思いつかんね」


「リュートちゃん、お爺さんに相談したら何とかなるかもよ?」


あぁ、少年はリュートというのか、楽器の名前だった気がするな。


「なかなかいい名だな」


思わず口に出してしまったようだ。


少年は照れて、バシバシと叩いてくる。

日焼けした肌に、痛みが走る。


「よせやい、兄ちゃん、照れちまうぜ。」


そういうと、少年はニヒヒッと笑った。



少女たちに連れられて、スラムを歩く。

靴も奪われたようだ。

歩くたびに、足の裏に異物がこびりつく。

不快だが、今は仕方あるまい。


少女が気が付いて、ビニール袋を何重にも巻いて足をくるんでくれた。

豊かな胸には、優しさがいっぱい詰まっているのだろう。

礼を言って先に進む。


スラムの中では、すこしましな住宅の前につく。

入り口では人相の悪い男が、見張りをしている。


少年が声をかけると、顎で中に入るように言ってくる。

廃材で組まれた部屋の中には、安っぽい長椅子が置かれており、その横で扇風機が回っている。


老人がひとり、その椅子に座って、本を読んでいる。

少年が近ずくと、ゆっくりを顔を上げた。


「なんじゃ 汚い外人なんぞ連れてきよって」


少女たちが、口々に事情を話す。

どうも、自分に仕事を世話してくれるらしい。


「そんなもの 大使館にでも捨ててこいっ」


そう、老人に一喝されて追い出される。


少女たちは済まなそうに、こちらを見上げる。


「ごめんよ。仕事みつけてあげられなかったよ。」


少年の目には涙が溜まっている。

後ろで少女もうつむいている。


二人の頭を撫でて、答える。


「いいんだ、ありがとう。」


ふと疑問に思い、少女たちの仕事を訪ねる。

娼婦町の雑用や、ごみ拾いをして生計を立てているそうだ。


ゴミ拾いを手伝って、彼女たちの役に立ってからここを去ろう。

行く当てもないが、死ぬ前にそれくらいやってもいいだろう。


「なぁ ごみ拾いを手伝わせてくれないか。」


二人に手を引かれて、ごみの山に向かうことになった。


ゴミ拾いの仕事とは、清掃かと思ったが違った。

ゴミの山から、使えそうなものを集め、先ほどの老人に売っているそうだ。

悪臭のなか、苦戦して彼女たちに従う。


幾つか壊れた電気製品を見つけるが、そういったものは金属が少なく、売り物にならないらしい。

彼女たちのより分けたゴミを、拾ってきたぼろぼろの袋に詰める。


なかなか良いものはないらしい。そのうち手元が暇になってくる。

手伝いたくても、彼女たちの探している価値のあるゴミが自分にはわからない。


先が丸まって捨てられた工具を使って、手元に落ちていた電化製品の、断線などを修理してみる。


「これ、なおったんだけど売れないかな?」


少女たちは振り向いて、邪魔をしないで欲しいとばかりに睨んでくる。

あぁ、邪魔しちゃいけないな。

せめて、あの家で使えそうなものをいくつか直しておこう。


暇にかまけて、冷蔵庫、洗濯機、照明器具、電気コンロを直す。

廃材同士の使用できそうなところを、共食い整備していくようなものだ。

あまり見栄えは良くないが、夕方を迎えるころには、結構な数が治っていた。


「兄ちゃん、ちゃんと働かないと、御飯がたべれないぞ」


いつの間にか夢中になってしまったようだ。二人が腰に手をあてて怒っている。


「あぁ、つい直すのに夢中になってしまって。すまない。」


「え?直したって、本当に?」


二人はどうやら冗談だと思っていたらしい。


「コンセントがあれば、動作も確かめられるんだけど。」


二人の小さな小屋には電気がない。

より分けたゴミと、幾つかの修理品をもって、老人の家に向かう。


こちらの顔をみて、老人はかなり険しい表情をした。

室内なのに、唾を吐いた。

見張りの男なんて、今にの殴り掛かってきそうだ。

でも、好きにすればいい。


もう、死ぬ覚悟なんてできているのだから。


老人は、少年の話を疑いながら聞いている。

機械の修理ができたと聞いて、一応試してみることにしたようだ。


ラジオからは、音楽が流れる。

卓上ライトは明かりをともし、コンロは赤々と光っている。


老人は、見張りに声を掛けると冷蔵庫を取りに行かせたようだ。

少年が付いていく。


「おまえさんは、修理を仕事にしとったのか?」


幾分棘が取れたようだ。

修理工なんて仕事は、惑星連盟にはない。が、嘘も必要だろう。


「えぇ、修理は好きなんです。得意とは言えないかもしれませんが。」


運ばれてきた、小型冷蔵庫をコンセントにつなぐ。

ブーンと音を立てて、コンプレッサが稼働する。


老人は、アメリカドルで20ドルほどを突き出して、少年に握らせた。

少年は、ドル紙幣を掲げて眺めてから、慌てて靴の中に隠していた。


「また何かあったらもってこい。」


見張りに追い立てられるようにして、家をでる。

三人で、ぼろぼろの雑貨屋で、食料品を買う。

どう見ても、中古品だろう、汚いスニーカーを一足投げて渡される。


早速履いてみると、二人はニヒヒッと笑った。


二人の笑顔を眺めながら、小さな小屋に戻る。

こうして、太陽系第三惑星到着の最初の日が終わった。


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