表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ロッキーロードの矛盾

作者: パルコ

Twitterでお世話になっている、さいこ先生と合作したい小説です!

即興も即興、ワケわからん小説 第589弾です。

 見ているだけでざくざくと聞こえそうな、


でも、それは踏みしめると、柔らかくて甘い匂いがする。



 この女が大嫌いだった。

「あら、永倉さん」

一本に纏めた長い髪を揺らして美人がこっちに来た。研修医や独身の先生たちが見惚れているっぽいが知ったことか。

「ちょっとお時間いい?」


 人気のない廊下には俺とこの女以外は誰もいなかった。女は機嫌良さそうにキツネのような目をさらに細くした。

「忙しいんで手短に済ませてくれませんか? 御堂先生」

「あははっ! そんな怖い顔しないでよ☆ 日々頑張ってる看護師さんを労おうってだけなんだからさ~」

「あなたが邪魔しに来なければ1000倍は仕事が楽です」

睨みつけていても「イケメンって怒っててもカッコいいよねー!」と喜んでいる。すげぇ疲れる。

「で? 本題はなんだよ、京香」



 御堂京香、俺の天敵。

医者になるためにレベルの高い勉強をしたいと思っていた俺は、叔父と祖父の学費援助で、中学から祖父の家で暮らしながら都内有数の進学校に通っていた。そこで俺は学年1位を3年間守っていて、自分を頼って来たクラスメートに勉強を教えたりもした。このまま成績を保てば高等部でも首席になれる……はずだった。


 高等部に進んで初めての中間テストで俺は学年2位だった。その上にいたのは、1-A 御堂京香。

 

 京香は高等部から入って来た外部生だった。しかも中学は田舎のどこにも見られる公立。このふざけた女が中学時代の勉強時間が20分と宣ったときはぶん殴ってやろうと思った。

『永倉蓮二くん、これから戦うことになりそうだね。よろしくね!』

それからは京香が1位を取る度に悔しい思いをした。悔しかった分勉強しても、学校のテストでも全国模試でも京香に勝てない。


 2年の夏、期末テストで俺は初めて学年1位を取った。友達に『すげぇじゃん!』『やったな!』と言われたらやっと京香に雪辱を果たしたと実感して涙が出そうになった。それなのに当の京香は

『蓮ちゃん1位? すごい!』

まったく悔しがっていなかった。京香がどういう考えでそう言ったのかは確かめてないけど、あの時の俺はバカにされたようで、勝ったのに悔しいというわけの分からない気持ちを抱えたまま1ヶ月過ごした。


 京香に勝ったのはそれきりだったけど、それからもずっと京香を意識しながら勉強していた。でも医者を目指していた俺は、春休みに参加したボランティアを機に、医者ではなく看護師になろうと決めた。大学附属の病院で5年働くことを条件に授業料が免除される医科大が地元にあったので進学先をそこに決めて、進路が固まり改めて気を引き締めて勉強しようと決めた2学期、

『御堂は今日も休みか……』

担任の声を聞き流す。


 京香が学校に来なくなった。夏休み前まで来てたのに何でだろうと思って、京香と仲が良かった委員長に何か知っているか聞いた。

『蓮二が地元に帰って看護の学校行くって話したらね、京香信じられないくらい荒れたんだ。蓮二と同じ大学行って、将来も医者として切磋琢磨したかったんだね』

意味がわからなかった。それなのに、どうして俺だったのかも、俺が京香の知らないところで進路を変えたとき、京香が何を思ったのかも聞けないまま卒業した。



 そして、なぜだか今は同じ病院で勤務している。

「で? 本題はなんだよ、京香」

ゴミを投げるように声を出した俺に、京香が見せつけたのはラッピングされたチョコレートだった。

「ハッピーバレンタイン、蓮ちゃん❤」

「なんだよこのゴミ」

「ゴミじゃない! よく見てよ!」

渋々開けるとごろっとした一口サイズのチョコレートが3つ。断面を見ると小さいマシュマロとビスケットがぎっしり詰まっている。

「ふーん、サンキュ」

チョコレートををポケットに閉まって京香に目をやる。16のときから何も変わらない。長くて真っ直ぐな髪も、キツネのような細い目も、考えが読み取れない笑い顔も。

「あたしは必要なかった?」


 16の時から変わらない笑顔で言うから、京香の言葉に遅れて気がついた。ほとんど分泌されなかった唾液を飲み込む音が、やたら大きく聞こえた。

「どうしたお前」

「ん? なんも♪」

京香は「またねー!」と手をひらひらさせて行ってしまった。「また」はいらない、マジで。ポケットからカサッと音がして、音の正体を取り出した。透明袋に入ったチョコレートを1つ摘まむ。小石まみれの道のようで、見ているだけでざくざくと聞こえそうだ。1つ口に入れて噛んでいるとむにむにと柔らかい感触と甘ったるく溶けるマシュマロ。

「あま……」

思ったよりコーティングのチョコレートを噛み砕くのが難しくて顎に力を入れる。バキッボキッとチョコレートを砕いて、少しずつ飲み込んだ。

「それはお前だろうが」




俺がいらなかったのは、お前の方だ。



さいこ先生に書いていただきました!

ありがとうございます!

https://ncode.syosetu.com/n4128eo/『ロッキーロードの歪曲』

↑さいこ先生の作品はこちらになります。

拙作の1億倍素敵な小説です!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ