現れた夜闇の来訪者
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まほ学 第6話
「お前が求める物は何だ?皆に誇れる名誉か?世界の頂点に君臨する王の椅子か?それとも全てを支配する力か?」
そう問いかけるのは血よりも濃い赤の裏地に夜の空よりも深い黒のマントに身を包む少女。月夜に光る海よりも深い蒼の瞳とどの星よりも白銀に輝く髪を靡かせる。
「僕が求めているのはそんなものじゃないっ!僕が欲しいのは力だけどそれは君の言う支配する力じゃない!みんなを守る力だっ!」
「守る力か………では始めようか。ここからは言葉など不要。これから始まるのは自らの力と誇りを賭けた決闘だ!」
対立する2つの力。賭けるのは己の誇りと力。何故、こんなことになったのか。それはこれより4日も前の事。
レナちゃんが転校して来た次の日。早朝のシーナさんとの修行の場にレナちゃんが参加していた。そして何故か向かい合う様に座らされていた。
「あの〜シーナさん?何でこんなことになってるんですか?」
「ん〜っとね〜。レーちゃんに頼まれちゃってね。今日からはレーちゃんも参加することになったんだよ。」
「よろしくお願いしますアル君。」
そう言うとレナちゃんはぺこりと頭を下げる。それにつられて僕も頭を下げた。
「それじゃあ早速だけど今日はこれをするんだよ。取り敢えず私がすることをちゃんと見ててね。」
と言って取り出したのは拳大の魔法石。だけどこれは完成された魔法石ではなく『魔力』の一切込められていない空っぽの容器。そもそも魔法石は特定の鉱山から発掘され政府直属の魔導士が魔力を込めて完成する品物。それをなぜシーナさんがこんなにも大量に持っているのか疑問はあったがあえて口には出さなかった。シーナさんはそれを手に持ったまま目を閉じると原石が光り輝き外殻が剥がれ落ち中から金色に光る石が現れ黄金にも似たそれを僕達の前に置いた。
「これは原石に自分の魔力を注入して作り上げた魔法石だよ。今からアー君とレーちゃんにはこれをしてもらうからね。必要なのは精密な魔力コントロール、原石に自分の魔力を注入し過ぎると粉々に砕けちゃうけど逆に注入しなさ過ぎてもその魔法石は輝かないからね。原石はここに一杯あるから頑張ってみよ〜っ!」
「頑張ろうねアル君。」
「う、うん。」
僕達は原石を1つづつ手に持ち魔法石作りに入る。僕は目をつむり自分の中にある魔力を腕に流し、腕から手に、手から原石へと魔力を流したが一瞬で粉々に砕けてしまった。
「うわっ!」
「やっぱりね〜。アー君の場合、魔力は人並みにあるの。それをうまく使えないだけでそれ以外は誰とも変わらないはずだよ。魔力を一度に流し込むんじゃなくて、空のコップに水を少しづつ少しづつ次いで満タンにするイメージでやってみて。」
「はい。」
僕はもう一度原石を手に取り集中した。だけどその後どれだけやっても僕は魔力不足な出来損ないの魔法石か注ぎ過ぎて砕けた不良物だけが増えていった。
「で、出来ました〜っ!」
「ええ〜!」
「おお〜。やるねレーちゃん。」
「はい!シーナさんが言ってた通りにやったら出来ました!」
僕の隣でレナちゃんが魔法石を完成させていた。それも一、二度の失敗だけで見事な魔法石を作り上げていた。
「うんうん。それでレーちゃんの魔法石の色は………」
レナちゃんの持っていた魔法石を眺めながら黙り込んだシーナさん。僕も覗き込む様に見ると透き通るほど透明だった。魔法石はその色でどの属性かわかる。例えば赤なら火属性。青なら水属性。緑なら風属性。オレンジは土属性。黄色は雷属性。だけどレナちゃんのは場合、それは透き通るほど透明だった。
「……やっぱり未分類の特別な魔力みたいだね。つまりレーちゃんのその魔力は属性不定のウルトラでスーパーな魔力って事になるねぇ。ちなみにレーちゃんはどの属性の魔法が得意なの?」
「えっと私は風属性の遠距離魔法です。」
「なら次のステップに移ろうか!今度はその属性不明のウルトラでスーパーな属性と風属性、つまり無色透明と緑色の魔法石を作ってね。やり方は魔法を使う時と同じだよ。」
「と言う事はその属性の魔法を使う時と同じ様に理解して操作しなくちゃいけないって事ですか?」
「そうだよ〜レーちゃん。自分の中にある魔力の属性を理解しなくちゃいけないんだよ。レーちゃんの場合、普段何気なく使っている魔力は緑の風魔力。だけど今してもらったらウルトラでスーパーな無色透明の特別魔力だった。ならそれぞれの意識を持ってすれば別々の2色魔法石が作れるはずだよ。私の場合は人間と違って魔力の種類が多いの。天界に住む者しか持てない光属性。それに加えて雷属性、少しだけだけど風属性。だからこうやってっと………。」
とシーナさんは原石を3つ手にするとすぐに外殻がヒビ割れ姿を見せたのは金色と黄色、緑色の3つの魔法石。
「こんな風にする事もできるよ。だから自分の魔力の属性を理解しているだけで魔法は自然と上達するのだっ!」
「「おぉ〜。」」
「それじゃあ各自修行再開!あと1時間だけやったら学校にいかないとだからね!」
「「はい、わかりました。」」
僕は原石に魔力を注入して魔法石を作り出す修行。レナちゃんは特別な属性と風属性の2つの属性による2種類の魔法石を作り出す修行が始まった。この後修行が終わりシーナさんの金色の魔法石とレナちゃんの無色透明な魔法石は砕けてしまった。何でも原石の方が魔力に耐えられないそうだ。
1時間後。結局僕は原石を魔法石に変える事は出来なかった。レナちゃんもそれぞれの属性の魔法石を作り出す事はできなかったみたいだ。段々修行が難しくなってきた。それだけ僕が成長している事を実感させてくれて僕は嬉しかった。レナちゃんとの修行が終わり学校支度を済ませて木々が並ぶ煉瓦造りの通学路をゆっくりのんびり歩いている途中ブレア君と合流した。
「おっすアル、レナ。今日もシーナさんの所か?」
「うん。今日は魔法石作りで魔力コントロールの修行をしたんだ。」
「中々難しい事してんだな2人共。まあ俺はそんな小難しい事は苦手だからシーナさんの修行に行かないんだけどな。」
「ブレア君も来たらどうですか?魔法石を作るの楽しいですよ。こお、魔力を原石に注入する感じが……。」
「おいおい、それの何処が楽しんだよレナ。」
レナちゃんとブレア君が僕を挟んで話している。よく考えたらこんな風に話して学校に行くのは初めてかもしれない。友達とこんな風に登校する日が来るなんて夢みたいだ。
「おっ!そう言えば聞いたかアル?」
「何を?」
「それがよ!この通学路で夜な夜な怪奇事件が起こってるらしいぞ!何でも被害を受けた生徒、みんなが魔力を根刮ぎ取られて衰弱してるみたいだ。そんでみんながみんな口を揃えていうんだってよ赤の裏地の真っ黒なマントに身を包んだ奴にやられたってよ。」
「それって………ゲイルさんのあのマントにそっくりだね。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
嫌な予感がした。いやいや、そんな事はないと心の中では分かっている……分かっているのだが……もしかしたらゲイルさんだったらやりかねないと思ってしまう自分がいるのだ。
「ゲイルさんがそんな事するわけねぇだろ本当に何言い出すんだよアル、はははっ。」
「そうだよね。そんな事あるはずないよね。だってゲイルさんは魔王だけどそんなに悪い人じゃないしね。絶対ないよね。」
僕達は校舎の隅の隅に設置されているGランク専用の教室に到着し扉を開くとそこにはあの人が待っていた。
「何が絶対ないんだ?」
教卓の前に立つエマ先生と僕の机の上に座り腕を組んでこっちを睨むゲイルさんがいた。
「ひぃ〜っ!!」
「何だアル!そんな声あげやがって!もしかして……お前もあの事件が俺様だと思ってんの!!」
「「えっ?違うんですか?」」
僕とブレア君が息をピッタリと合わせてゲイルさん言うとゲイルさんは体を震わせて僕達に叫んだ。
「ちっっがぁぁぁーーーっう!!俺様はそんなことしないっ!俺様は魔界の王だぞ!そんな卑劣なことするわけないだろうがっ!」
「だったら誰なのかしら?教えてもらえますか魔界の王様。」
と腕を組んで横目でジトッとした目線を向けるエマ先生。
「だからさっきも説明しただろうが!俺様が魔界からこっちに召喚ことであっちの様子がわからないってよ!それに思い当たる節はあるから心配すんなっ!」
「だから!また言わせる気ですか私に!あなたはアル君のところに自分で召喚んでしょ!そのまま言い逃れして自分のせいにしたくないだけでしょ!」
「違うって言ってんだろうがエマっ!いい加減わからねぇことばっか言ってっと絞めるぞゴラッ!」
「やれるもんならやって見なさいよ!私があんたに勝って魔王になってあげるわよ!」
と2人は火花を散らしていた。僕とレナちゃんはアワアワしている隣で目をキラキラさせ笑うブレア君。
「いいぜわかったよ!!だったら俺様の弟子のアルとブレアに無実を証明してもらう!」
その瞬間鋭い視線が僕たちに向けられる。それはまるで獲物を見つけ殺気を放つ獣。そして僕達はその獣に睨まれた獲物の様な立ち位置となっていた。
「お前らいいか!俺様のマントに似た物を身につけたクソ野郎をとっちめて俺様の前に連れて来いっ!これは王の命令だ!断るなんてそんな馬鹿げた選択肢は一切無い!!」
「え〜っ!そんな無茶過ぎやしないですかゲイルさん!」
「そうですよゲイルさん。それに今日の修行はどうするんですか!」
「そんなもん後回しだ!とにかく犯人を捕まえるまで帰ってくんなっ!」
と僕とブレア君は教室から追い出されてしまった。その後続いてレナちゃんも追い出されてしまった。
「どうするアル。」
「どうしましょうアル君。」
「どうしよう……。」
突然のことに頭は回らず案と呼べる様なものは出てこず僕が肩を落として無駄なことを理解しつつも考えているとブレア君は立ち上がって言った。
「まぁ、こんな所でウダウダ考えてるより行動だぁ〜!!」
「「おっ、お〜!」」
ブレア君は拳を突き上げ僕らを先導する。それに続いて僕とレナちゃんが拳を上げた。ブレア君はやっぱり凄い人だと再確認する僕だった。
「やっぱり日が落ちた後の学校って妙に静かで怖いなぁ。」
僕は学校一広いAグランド付近を杖を片手に太陽が落ちた煉瓦造りの道をランプで照らし歩く。犯人が夜にしか現れないという事で僕達は太陽が落ちるのを待ち夕方から寮の門限までの時間、ゲイルさんの修行の時間を使って探しているのだが、広い学園の何処を探せばいいのか見当も付かずただ校内を歩き続けブレア君と鉢合わせる。
「どうだアル。何か気になる事とか変な奴とか会ったか?」
「ううん。全然ダメ。」
「俺もダメダメだったぜ。ほんとにどうすりゃあいいのか全然わからねぇな。」
「そうだね。」
「そう言えばレナは?」
そうブレア君が僕に問いかけた瞬間、悲鳴が聞こえる。
「きゃぁぁぁぁぁっ!!」
「「!?」」
悲鳴がするのは校舎の方向。僕達は急いで校舎に向かい、そこで見たのはレナちゃんを抱きかかえ血よりも濃い赤の裏地に夜の空よりも黒いマントで身を包む少女。外灯の火で光る海よりも深い蒼の瞳と白銀に輝く髪を靡かせ、うっすら見えるその口元には赤の雫が垂れていた。
「レナちゃんっ!」
それを目撃してすぐに体当たりする勢いで走って行ったがあっさりと『上』に避けられ空中に静止し、僕の事を見下して微笑む。
「アル君そこから離れなさい!『契約されし風精。15の矢となりて敵を撃て!』『風精の矢』」
僕の背後から発せられる声はエマ先生だった。僕は急いで横に飛び退くと『風精の矢』がその少女に向かって行った。全矢命中した様に見えたが少女との間に魔法壁が展開しており身を守っていた。
「まだよ!『捕らえよ。空の牢、我が敵を捕縛し封じよ』『風精の縛手』」
すると少女の真下から竜巻が発生し少女を取り囲むように球体を形成していく。
「大丈夫2人共!」
「何でエマ先生がここに?」
「それは後よ今は目の前の敵に集中しなさい!」
「おうよ!だけどな先生。」
「まだレナちゃんが捕まってるんです。」
「大丈夫よ!あれは捕縛する為だけの魔法だから人体には何の影響もないわ。レナさんは無事よ。それに……」
エマ先生が何かを言おうとした時に竜巻は引き裂き少女は笑みを浮かべて現れる。エマ先生はそれを見て次の行動に出ようとした、その時だった。
「『凍てつく心臓。一雫の血液さえも凍り、雪の様に舞い散り降り注ぐ。自らの時を静止させ、美しき氷の中で闇に抱かれ永遠の眠りにつけ。』『氷の眠り姫』」
少女がレナちゃんを片手で抱きながらもう一方で指をパチンと鳴らすとエマ先生は足元から氷付けにされてしまった。あまりの早さにエマ先生はなす術なくその場に縛られた。
「この私に逆らう者が居るとはな。どれほどのものかと期待したがこの程度か。……ならお前達はどうだ?」
とレナちゃんを抱きかかえたまま近づいて来る。僕は身動きできないほど体を震わせていた。そして少女が僕に手をかけようとした時だった。
「俺の親友に手出ししてんじゃねぇぞっ!『拳に宿れ炎。轟々たるその姿と力で敵を撃つ我が力となれ。』『業火の爪』」
ブレア君の両手に炎と呼ぶには荒々しい物が灯り少女に殴りかかる。だが魔法壁がほぼ反射的に展開されブレア君の拳は届く事はなく魔法壁と擦れ火花が散る。ブレア君が少女の気を逸らしているのにも関わらず僕は動く事ができなかった。少女の展開する魔法壁に乱暴に攻撃を続けるブレア君が口を動かす。
「今だ。逃げろ。」
ブレア君の好意を無駄にする事なんて出来なかった。だけど僕は友達を置いて逃げる事も出来なかった。だから僕は少しだけわがままになった。
「『契約されし雷精よ。10の矢となりて敵を撃て。』『雷精の矢』」
杖を構える僕の周りに雷が集まり球体を形成していくその数10個。僕が今まで出した事がない数だ。僕はそれをブレア君の横から放つもやはり反射的に魔法壁が展開され攻撃を邪魔をする。
「何してんだアル!」
「ブレア君の行動を無駄にしたくなかった。けどブレア君もレナちゃんも置いて逃げるなんてもっと出来ないよ。……だから僕は2人と一緒に逃げるのを選ぶよ。」
僕がそう言うとブレア君はやれやれといった顔で僕を見たがうっすらと笑った。
「なら…まずはレナを助けるぞ!」
「うん!!」
「目障りなガキだ……だが敵わぬとわかって私に挑むのは面白い。少しだけ付き合ってやろう……もちろん力を抑えてな。」
少女はレナちゃんを地面に置いて掌を片方づつ僕達に向けるとスペルを唱える。
「『契約されし氷精よ。50の矢となりて敵を撃て。』『氷精の矢』」
少女の放った氷の矢は容赦無く僕達に向かってきた。魔法壁を展開するがそれは簡単に魔法壁を破壊して僕達に襲いかかる。ブレア君はうまく避けたようだったが僕は正面から受けてしまい後ろに飛ばされた。
「『柱の囲。雪の結晶よ、我が物を捕らえる鳥籠となり、永遠の虜とせよ。』『氷柱の檻』」
地面に寝かされたレナちゃんを取り囲む様に氷柱が出現し鳥籠のようになった。
「この娘を取り返したいのだろ?この檻を破壊したければこの私を倒せば解く事ができる……それにこれでこの娘が傷つくことはなくなった。さあ、思う存分暴れるが良い!」
少女は両手を広げ薄気味悪い笑みを浮かべるとそれにつられブレア君が大笑いする。
「ははははははははははははっ!!それはありがてぇ話だ。レナが居たら全力でお前に攻撃できないからな。感謝してやるよガキ。」
「誰をガキと言うか。私からしたらお前など赤子同然なのだぞ?」
「はっ!そのちんまりした身長と胸で何言ってやがる。そんな事言えるのはたわわんと実った胸とすらっと伸べた身長を手にいれてから言うんだな!」
2人共が相手の事を見下して頭にきて言い返している。まるで子供の喧嘩だ。だけどここから先はそんな遊びの様な喧嘩では済まなかった。
「『燃える大地。赤々と燃え上がる血潮よ、全てを赤く染め支配せよ!今ここに我が名を刻め!』『大地の怒り』」
「『凍る空。身も凍る世界で踊れ。その白く透き通る化粧で敵を染めよ。』『空の雪化粧』」
ほぼ同時に唱えたスペル。ブレア君は火の灯る拳を地面に叩きつけると地割れと共にそこから炎が噴き出す、少女は片手を体の前に突き出すと雪が舞う様に放たれ、それが通った道は真っ白に化粧されたように凍りついた。正反対の属性魔法がぶつかり合い爆発する。真っ白な煙が当たり一面を覆い前が見えず僕は何もすることができなかった。だけどブレア君も少女もそこの煙の中で拳と手刀を交えていた。その攻防は激しいが何処か両者共に繊細に見えた。ブレア君があの少女を相手にしている間に僕は僕に出来ることをした。今のこの状況でブレア君ほどの戦闘技術がある訳じゃない。だから僕が加勢すれば足手纏いになるだけ。なら僕が出来ることはブレア君があの少女を相手してくれている間にレナちゃんをあの檻から助け出すんことだ。僕は杖を片手にレナちゃんの捕まった檻まで走った。そしてそれに触れようとすると指の先が凍った。
「っ!……だ、大丈夫、痛くない。見た目よりも頑丈だけどこれなら壊せる。『あれ』なら壊せる!」
僕は左手で拳を作り、右手で持った杖を構えスペルを唱える。
「『契約されし雷精よ。5の矢となりて敵を撃て。』『雷精の矢』『僕の左手に配置、固定せよ。』」
僕は魔力のコントロールが全くできなかった。だけどシーナさんとの修行でやっと最低限の人並みが出来るようになった。僕の左手に『雷精の矢』を配置し、固定することで僕のパンチ力に『雷精の矢』の威力を上乗せする事が出来る。これならこの檻を壊す事が出来るかもしれない。単発では効果はない、だからと言って僕のパンチじゃ壊れない。だからこそ両方を組み合わせ檻を全力で殴る。……だけど壊れない。雷と冷気が拳と檻が接触する部分から吹き出る。
「まだ…まだ!『契約されし雷精よ。10の矢となりて敵を撃て。』『雷精の矢』『僕の左手に配置し、固定せよ。』」
僕の拳の周りには『雷精の矢』が計15本。何度も何度も殴っていくにつれ少しづつ檻にひびが入るものの壊れる気配はなかった。
「くそっ!何で壊れないんだ!」
時間が経つに連れて僕の方に問題が出てきた。魔力の配分ミスだ。この15本に大量の魔力を注ぎ込みすぎて『雷精の矢』を作り出す事が出来ず矢を維持出来ないほど魔力が低下していた。それに加えて僕の左手も『雷精の矢』の威力と檻の守りに耐えられなくなっていた。段々意識が遠のいてくる。僕は友達の1人も助ける事が出来ないのか。そんなの嫌だ。だけど僕の体は言う事を聞かなくなってきている。あと少しで檻を破壊できるところまで来ていたのにも関わらず僕の体は力が抜けて膝から崩れた。
「よく頑張ったねアー君。後は私に任せて。」
そんな声がした瞬間、目の前のレナちゃんを閉じ込めていた檻が粉々に砕け散る。目の前に現れたのはシーナさんだった。
「アー君。レーちゃんの事頼んだよ!」
「は、はい。」
そう言ってシーナさんはあの少女のところに走り出した。
「とりゃっ!!」
ブレア君と少女の攻防の間に飛び蹴りをいれて割り込むシーナさん。少女はガードしたがすぐさまシーナさんから距離を取る。
「えっ!?シーナさん?」
「お前は……『シーナ・サクスベット・ハーディングレー』!何故『女神』のお前がここに居る!?」
「あれれ?そこまで知っていてなんで逃げないのかな?」
「何故お前がこの世界にいるのかはわからないが、私の邪魔はさせん!」
「色々聞きたい事が一杯あるけどその前に私の可愛い可愛い弟子達をイジメたからにはみんなのアイドル、シーナちゃんが貴方に罰を加えます!覚悟しなさい!」
「はっ!小娘が私に勝てると思うのか!お前など私の『闇』で捩じ伏せてやる!」
「はいっ!!!そこまで〜っ!!」
火花を散らす2人の丁度真ん中あたりに降り立つゲイルさん。
「シーナ。すまないが下がっていてくれるか?これは『俺様の世界』の話だ。お前はアル達の方を頼む。」
「……わかったよルー君。ブーたん行くよ。」
「えっ?!お、おう。」
ブレア君とシーナさんはゲイルさんを置いて僕達の方に。そしてゲイルさんは少女と対面する。その後ろ姿は怒っているように見えた。
「大丈夫アー君。」
「は、はい。それよりレナちゃんが。」
「命には別状はないけどやっぱり魔力を吸われてるみたいだね。」
「それって大丈夫なんですか?」
「魔力が回復すればね。何日か安静していれば大丈夫だよ。」
「良かった。……それよりゲイルさんは?」
「ん〜っとね。ルー君が自分に任せろって言ったから、ルー君に任せておけば大丈夫だよ。」
「そうですか……。」
僕はそう言ってゲイルさんの事を見る。ゲイルさんも少女も一言も口を開かずに睨み合い互いを威嚇しあっていた。
続くよね!