だが勇気ある一歩
まほ学 第2話
突然現れた2人。この対象的な2人は今も何も言わずに僕の事を頭の先から足の先まで観察するように見ている。その沈黙の中僕の部屋のドアが勢い良く開いた。
「大丈夫かアル!」
「大丈夫アル君?」
「はっはい。」
「良かったぁ〜……。」
「…………。」
「…………。」
エマ先生とブレア君が2人の事を見つけてそのまま固まっている。それを見て黒髪の男性は2人をジッと睨む。金髪の女性はそんな3人を交互に見て不思議そうにしている。その中で僕はこの状況を理解できずに唖然としている。沈黙が少し続いた後目つきの悪い黒髪の男性は言った。
「アル・サクシード・レジェットハート。お前の想いに応えて来てやったぞ。感謝しやがれ!」
と大声で怒鳴るように言うとそれに続いて手をぽんと合わせ金髪の女性がこう言った。
「私も君の願いを叶えに来たよ!」
この状況が上手く飲み込めていない僕はエマ先生とブレア君の顔を見るが2人も何が何だかわかっていない顔をしていた。
「仕方ない……俺様のことがよくわかってないようだからな、自己紹介をしてやろう!俺様の名は『ゲイル・ナーディス・レバナート』。第9代目『魔王』だ。」
「私も自己紹介しゃうよ!私の名前は『シーナ・サクスベット・ハーディングレー』、『女神』です!」
2人が何を言っているのかわからない。だけどそんなこと今の僕にとって問題ではない。問題なのは僕が行った魔法『禁忌・願い櫓』が発動していないことだ。自分の望む物を手にする代わりにそれ相応の対価を支払うと言う魔法のはず。僕は対価らしき物を支払った様子はなく望みが叶った様な様子もなかった。やはり失敗だった。そんなことを考えている時僕の目の前にいる二人は何やら話し合っていたが内容が頭に入ってこなかった。
「そんなわけでまずは契約内容を確認してもらう!『その1:お前の強い想いは俺様が絶対に叶える。』『その2:俺様の言う事は必ず聞いてもらう。聞かなければその時点で契約を破棄する。』『その3:出来ない、無理だなんて言う弱音を吐かない。』『その4:この契約の対価として俺様の跡取り、即ち『魔王』の後継者になる事、これについては異論は認めない。』以上だ。何か質問はあるか?」
「3まではわかったが最後の『魔王』って何なんだよ?」
と正気に戻ったブレア君が質問すると何言ってるんだこいつと言わんばかりの顔をして見せた後彼はこう言った。
「ん?ああ、そういう事か。もう一度言うが俺様は『魔王』だ。こことは理の違う世界の『魔界』に住む悪魔達の王、絶対の支配者だ。」
とうとう頭が回らなくなってきた言っていることが理解できない。何故『魔王』が僕の所に現れたりするのか。そもそも魔王なんてただの伝説で子供を脅かすためのネタに過ぎないのが僕達の世界では真実だ。
「だから俺様は『魔王』だ!理解できないか?ならお前等こっちにいるのはな……」
「みんなのアイドル!『女神』様だっよっ!」
と明るく振る舞いながら彼女がポーズを取る。その行動に反応できなくなった頃彼が訳も分からない話を進める。
「それじゃあアル・サクシード・レジェットハート。俺様の後継者になれ!」
「ずるいぞぉルー君!その子は私の後継者になってもらうんだから勝手に話を進めないでくれるかな。」
「急にそんな事言われても困ります。」
「そうだよね〜。私とルー君、つまりは『神様』か『魔王』か選べっていうんだもんね〜……けど君にはちゃぁ〜んっと選んでもらわないといけないんだからね!さあさあ、どっちを選ぶ?」
「ぼっ僕は……どっちの後継者にもなりません!早く帰ってください!」
と僕は少し大きな声で2人に告げる。断るのは当たり前だった。突然現れて『神様』か『魔王』かどちらかの後継者になれなんてふざけているにも程が有る。そもそも僕は禁忌の魔法を使用して生まれ変わるはずだった。なのにそれには失敗しおまけには変な2人組まで現れる。思考がめちゃくちゃだ。そして考えるのを辞めることにした。僕はこんな現実を無視して『やっぱりダメダメで出来損ないで未熟ななり損ないの魔導士なんだ』と自分に言い聞かせるように小さく呟くのだった。2人に背を向けて何も言わずに部屋を出ようとした。すると彼は僕を呼び止めてこう言った。
「お前にこれだけは聞きたい事がある。お前が無視しようと現実を拒否しようとお前には受け止め応える義務がある。」
「……わかりました何が聞きたいんですか?」
「俺様が聞きたいのは一つだ。あの時のお前の想いは嘘だったのか。」
「………。」
嘘じゃない……って言ってしまったら楽になれると思った。素直にそう言えばいいのに僕の口が……僕自身が言ったのは全く違うことだった。
「あの時は……必死だったからあんなこと想ったけど貴方達にはわからないでしょうけど僕は……今のままが1番いいんです。」
「………違うな。お前は今、自分を『殺した』。そこまでして自分を偽ってどうするんだ?」
その声は僕の耳に『偽り』という言葉が聞こえ心に響く。内にいる僕が外に出ようとあがいてる様な感覚があった。
「偽ってなんかいないですよ。僕は今のままがいいんだよ。現に僕は今笑っているじゃないですか。」
「何でお前はそうやって自分から可能性をつかもうとしない。自分を殺してまで本音を奥に閉じ込めようとするんだ?自分に自信がないからか?自分が未熟だからか?……魔導士として出来損ないだからか?」
「………。」
僕は何も言わなかった。言ったことで全てが自分への言い訳にしか聞こえるようになっていたから。
「そんな事を隠して押し込めて殺してお前の本音は何処にある!お前の心は何処にあるんだ!!」
息を荒らげて叫び続ける彼の言葉は確実に僕の胸を締め付けている。
「ルー君。そのぐらいにして後は私に任せて。」
「……ああ。」
と彼女が彼と入れ替わるように僕の前に立った。
「私は君が『自分を変えたい』って想い続けた理由を知ってるよ。2人の為に努力して頑張ってるのも知ってる。自分の為に頑張ってくれる2人に応えようって自分に言い聞かせて頑張る源にしてるのも知ってる。」
「何でそう言い切れるんですか?そんな観ていたように言って僕の事を知ることなんて出来ないですよ。」
「ちっちっち〜。私をバカにしてもらっちゃ困るよ、私は女神様だよ。いろんな人の心の声がわかるんだよ。それに観ることを出来るんだよ。」
「………。」
「それでね。君が今頑張らないといけないことが分かる?君が今頑張らないといけないのは君の心に正直になることだよ。まあ頑張ってすることじゃないけどね………けど少し頑張るだけで君は君が望んだように変われるんだよ。私達はその手伝いをするだけ、最後の最後に自分を変えるのは君自身だよ。だから今君の本当の想いを私達に聞かせてくれないかな。」
彼女の真っ直ぐな言葉に僕は今なら素直に自分の想いを言えるような気がした……だけどまだ僕の本音は殻を破れずにいる。少しの後押しで顔を出すところまで来ているんだ。そんな時僕の奥の方から声が聞こえた。
「"たったその一歩を踏み出すだけで人は変われるんだよ"」
と。他の誰もが小さな一歩だというかもしれない。だけど僕にとっては大きな一歩を踏み出す。
「僕は……自分に自信がないです。魔導士として出来損ないでも出来る事を少しづつ頑張ってきたんだ。ブレア君もエマ先生も僕なんかに一生懸命になって助けてくれたんだ、それでもうまくいかない事なんていっぱいあってその度に嫌になって何処か逃げ道を探してた……そんな自分が嫌だった。努力が報われないなんて嫌だった。2人の協力が無駄になるのも嫌だった。だから……もう逃げ道を探すのは嫌だ。だから僕の想いは…願いは一つだけ。」
僕は顔を上げる。どんな顔をしているかわからない。もしかしたら不恰好な顔をしてるかもしれない……だけど僕は言うんだ。自分のこの胸に秘めてきた想いを……。
「『2人の為にも自分自身の為にも強くなりたい。逃げ道を探し続ける弱い自分を変えたい』っ!!」
僕は大声で僕の想いの丈を叫んだ。すると彼はニッコリと笑ってこう言った。
「ちゃんとここに届いたぞお前の想い!後継者とかそんなもんどうでもいい!俺様はお前のその想いを叶えてやるっ!」
そう言うと拳を突き出す。僕はそれに応えてその拳に僕の拳をコツンとぶつける。すると彼女が僕の近くまで来て僕のことを抱きしめる。
「私も君の本当の想いを聞けたから君の願い叶えちゃうもんね!ルー君の言うとおり後継者とか無視してバリバリ鍛えてあげちゃうもん。」
「よっよろしくお願いします!」
僕はちゃんと一歩前に踏み出せたかな?と心に問いかけると……。
「"もちろん。君は自分を変える為の一歩を踏み出す事が出来たんだアル・サクシード・レジェットハート。僕の……。"」
そんな事が聞こえた気がする。空耳だとしてもそれは僕の一歩を踏み出す勇気をくれた1人だからその声はまだ僕の耳に残っていた。
「アル……その……ごめんな。お前がそこまで悩んでた事に気付けなくて。」
とブレア君が頭を下げた。
「そんな事ないよブレア君。僕は感謝してるよ。いつも側にいて助けてくれたじゃないか。僕はブレア君の事頼りにしてるよ!エマ先生も僕をいつも助けてくれてありがとうございます。これからもよろしくお願いします。」
と言うとエマ先生は慌てて目をこすり笑ってこう言った。
「わかったわアル君。私も前よりももっと協力していくわ!私にできることならなんでも言いなさい!」
「ありがとうございます!」
ここから僕の新しい一歩が始まる。エマ先生とブレア君と僕の真実を見出してくれた二人と共に。
ちなみに僕の行った魔法『願いの櫓』は発動する前にゲイルさんが破壊したそうです。
続く……。