いざ森へ狩りへ
ヨヨイはヘビの頭をナイフで落とし、腰元へナイフを戻した。
「これは、毒のあるヘビではありません。普段は大人しい種類のヘビですが、ともかく食費が浮くのは助かります」
「た、食べれるのヘビ?」
「見た目によらず、けっこう美味しいんですよ」
と笑顔を浮かべ、ヨヨイは言った。
やっぱり美人だ。
ただの人見知りな草食系な娘だと思ってたが……。
1秒こそこいらでヘビの攻撃をかわし仕留める、ヨヨイは普通ではない。
「しまった……忘れてしまいました。獲物を入れる袋、とりあえず首に巻いときます」
……とりあえずで首にヘビを巻くのか。
マフラーかストールでも、ファッションでつけるみたいに平然としてるヨヨイ。
そういや『ボックス』に入れりゃあいいじゃん。
中に入れたものは腐らないし変質しない性質を持ち、プラスチック爆薬の火力にも耐久性を持つ『ボックス』。
「ちょっとヘビを貸してくれ」
「この場で食べるんですか?」
「……いや俺は食べる気ないけどね。首に巻いてたら邪魔になるだろ」
「ボックス!」
世界地図みたいな模様の、トランクケースがたちどころに現れた。
これの中にヘビを入れてっと「アウト!」
ケースはこの場から、すっと消えていく。
これでケースを持ち運ぶ必要もない。
実質小型と大型の、4次元ボックスを持ってるようなもんだな。
「き……消えた」
「これで持ち運ぶ必要もなっ……」
「ヘビどこにやったんですかヘビ! 貴重な食糧ですよ!? どうしてくれるんですか!」
ヨヨイが俺の肩をガタガタと本気で揺らしてくる。
何か……想像してたキャラとだいぶ違うぞ。
「おっ……落ち着け! いつでも出せるから!」
俺は能力をかいつまんで説明する。
「便利ですね。その能力、エルフ族の魔法でも聞いたことがないです」
「ヨヨイは魔法使えるの?」
「私は魔法はからっきしで。エルフ族は基本的に男の人が弓矢が得意で、女の人が魔法が得意なんですけど、私は弓矢以外はダメでして」
と苦笑いしながらヨヨイは言った。
てか本当に魔法あるんだこの世界。
「魔法てどういうのだ、やっぱり火とか水とか出したりするのか?」
「火、水、風、土の4大元素を司る魔術と、精霊の力を借り行使する精霊魔法。魔術は他に術式があり攻撃魔法主体の『ヴィジョン派』補助と回復魔法主体の『リネン派』という、大きく分けて2つの流派の術式があるんです。私には関係のない話ですが」
と言い、肩を落とす仕草を見せるヨヨイ。
若干、落ち込んでるように見える。
そういや、いつの間にか普通に話をしているぞ。
景気づけに何か食糧でも出すか。
確かレベル1なら金額までは、自在に商品選べるんだな。
久々に甘い物でも食いたいな、アイスなんかいいな。
「ダスト!」
2回ほどレベル1の食糧を召喚する。
恒例のポンッという、軽快な音が2つする。
俺が召喚したものはアイス、雪の大福。
もちもちした餅の中に、生クリームを入れた食感が美味しいアイスである。
やっぱり微妙に、賞味期限過ぎてんだろうなぁこれも。
俺には賞味期限なんて、腐ったものでもない限りまったく問題ない。
「ほい、これあげる」
「何ですこれ? 冷たい……とても不思議、見たことない物です」
さっと袋を開け、雪の大福をほうばる
はぐはぐはぐ、うめえぇ!
しつこくなく上品な甘さで食べやすい。
俺が食べたのを見て、意を決したように一口つけるヨヨイ。
その後は、頬を膨らませて一気にほうばる。
「うん……冷たくて美味しいですね、革命的な味です! 夏にアルフレンドでも流行ると思いますよ、これは」
気にいって、いただけたようで何よりだ。
流行るといっても、回数に限りがあるしとても大量には仕入れることはできない。
食料は、やっぱり自分用にするべきだな。
「アツトさん森はこっちです。もうすぐつきますよ」
「おう」
木立が密生していて、豊かな木々の香りと野鳥のさえずりがする森の中へと足を踏み入れた。
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――――
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森から少し離れた場所。
アツトとヨヨイが、森の中に入ったのを確認すると見計らうように話を始める者がいた。
1人は頭をすっぽり隠すように、布のターバンを頭に巻いた老人。
もう1人は軽装で、長めの顎ヒゲを生やした剣を帯刀する男だ。
「今回は楽な商売だ。我々の出番もないかもしれんし経費も向こう持ち、エルフの娘1人と中年の男1人。毎回こうだと、俺達傭兵も有難いね」
「ヒョッヒョッヒョ。どうかのう、真後ろから一瞬で、ヘビの攻撃を避けるぐらいの娘じゃ」
「ほう。あの娘見た目によらず、そんな芸当ができるのか」
「エルフ族の娘は魔法を使える者が多いと聞く。もし魔法が使える者なら」
「返り撃ちにされるのはこちらだということか。やれやれ、たまには命のかからない仕事がしたい。そう思わんか? ヘビ使いのゴンザさんよ。アンタがいるのは心強い」
「少々脅かして捕えるのが今回の目的、我々はあくまで支援じゃ。楽なとこで見物させてもらうだけじゃよ」
そう言い2人の男達は、森の中へと消えて行った。