エルフの狩人娘ヨヨイ
ちょうど街を出る際に、アーチ状の門のところで1頭の馬車とすれ違った。
「止まれ、荷台を拝見させてもらう」
武装し槍を装備した門番の一人は、馬車の荷台にかけている白い布をめくった。
「酒と大地の実りの町ローローで仕入れたワインとラム酒、小麦粉ですよ。酒類は酒場に卸しに行きます」
「書簡を」
「ふむケッペル商会の者か。いいだろう小銀貨1枚だ」
「どうぞ。これから酒を卸してから、一杯やる予定ですよ」
「たまに商人が羨ましくなるよ。我々は勤務中に飲むワケにはいかん職だからな」
「ハハハハ。確かに酒がはいっては、危なげな賊や禁制品がうっかり通過しかねませんもんね。しっかり頼みますよ」
なんて、やりとりが偶然にも聞こえていた。
商人の男は随分とこんな、やりとりに手慣れていたように見えた。
おそらく商人は、街に出入りするごとに税がとられるのだろう。
これから商人をやろうて俺だ。
何らかの対策が必要だな。
待てよ、実質無限のスキル『アウト』がある、持ち込み放題じゃないか。
何の心配もいらんな。
疑念はすぐに氷解した。
ところで、ヨヨイは何で離れて歩いてんだ?
一定の距離を保ったまま、つかず離れず。
これから向かう先は、アルフレンドを南下した先にあるという森だ。
距離は街から約2キロほどだから、そう遠くもない。
イレアさんの頼みで、俺も狩りの手伝いをすることになったけどさ。
美人だが、極度の人見知りな美人のエルフ娘ヨヨイ。
背中には細長くて丸い筒に入った矢束と、手には背格好に不釣り合いのけっこう大きめの弓。
それと弓を引くための皮手袋。腰元に携帯してる1本のナイフ。
格好だけは堂に入ってるというか、狩人みたいな雰囲気あるんだけど肝心の本人がね……。
ヨヨイは俺の後ろの方から、10メートルぐらい離れて歩いてきてる。
後ろを振り返る。
ササッ。
ヨヨイは木の後ろに姿を隠し、顔だけひょこりと出している。
……おいおいおい。
借りてきた猫かよ、缶けり鬼ごっこやってんじゃねーんだぞ。
ずっとこの感じで、家から森までの往復じゃさすがに俺が耐えがたい。
向こうは私に話かけないでくださいオーラを、全身から出してるし。
それより何よりだ!
「あのさー」
「は、はいっ。なんでしょう」
「そもそも森までの道分からないから、前の方歩いてもらえる?」
「たっ……確かにそうですね!」
だだだだだだっ!
猛ダッシュで俺を追い越して、前の方へ行くヨヨイ。
うん、なんだ、その。
さっきと全然距離変わってねぇよねコレ。
何かきっかけでも作らんと、無言のまま一日が終わりそうな気がする。
う~ん。
俺はトークの達人でもないしなあ、どうしたものかこの状況は。
とりあえず転んだフリでもして、気を引いてみるとか。
我ながらしょうもない案しか出てこない。
いや……ハンドスプリングでもやってみるか。
前方宙返りの手をつくバージョン。
昔はできたから、できるだろ多分。
勢いつけて、とりゃああああああ!
ドサっ!
あっ、いてぇえええ!?
足から綺麗に着地するはずが……失敗した、失敗した、失敗した、失敗した。
背中から地面に派手に落下。
か、かっこわりいぃいい……頼むから気づかないでくれ。
これじゃ俺、ただの一人プロレスで自爆した格好悪い人じゃん!
……チラっ。
やべえ、めっちゃ見てるよ……あ、意外。
すげえ勢いでこっちに走ってきた
「だ、だ、だ、大丈夫ですか? 派手に転んだようですけど」
「……そ、そうそう! あはははっ! 転んじゃってね派手に! 何でこんなことろに石あるんだろうねー」
「い、石、見当たらないですけど……」
「あっれーおっかしいなぁ……転んで石が、どっかに飛んでいったのかなぁ」
言い訳が非常に苦しい。
なんとか話を誤魔化そう。
ん? あの左右にニョロヨロと、高速でこっちへ向ってくるのは何だ?
「へ、ヘビだ! 危ない!」
体長は1メートルぐらいありそうな、茶色い色のヘビだ。
ヘビの動く速度は予想以上に速く、ヨヨイの背中にまで迫ってきていた。
噛みついてきそうな気配、予想は的中した。
身体をしならせたムチのように使い飛びかかり、無防備なヨヨイの背中に牙を向けようとしている!
俺は確実に、ヨヨイが噛まれると思った。
だが――ヨヨイは視線を少し後ろに向けると、ヘビの頭を空中でキャッチし地面に叩き付ける。
そして、流れるような動作で、一瞬の迷いもなくナイフをヘビの首元に突き刺し仕留めた。
ひぃっ!? 一瞬でヘビを仕留めた!。
何……今の超反応!?
どう見ても、普通の人の反応じゃなかったぞ。