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へんてこな精霊

 

 こけっこっこー!

 ニワトリの鳴く声が聞こえる。

 それとカーンカーンと、甲高い鐘の音が遠くから聞こえる。


 んー今……何時だよ……朝っぱらからうるせえな。

 寝てる人もいるんだから、鐘なんか鳴らすんじゃねえよ迷惑な。

 昼からにしろ昼に。

 俺の活動時間は昼からと相場が決まっている。


 木枠の窓の隙間から朝日が零れてくる。

 ということで俺は布団にくるまり、寝る。



 ギィギィという鈍い音がした。

 誰かが部屋のドアを開けたようだ。


「おーい、おっちゃん起きろ、もう6時だぞ!」

「うーんあと5時間は寝かせてくれー……ごぉおおお」


 ユーリがどうやら俺の身体を、布団ごとゆさぶってるようだ。

 なんという迷惑行為、でも起きたくなーい。瞼が開かなーい。


 そういや何年振りだろうか、ベッドでまともに睡眠とるのは。

 良質な睡眠を体が欲しがっているようだ。

 布団から離れたくない、今の俺はこたつがあったら気合で、こたつごと移動するだろう。




「さっさと起きろ!」


 ん……ん? んんん?  ンーンー!?

 い……息がぁ! 息が出来ん!?


「ぶはぁあああ! こ……殺す気か!」


 息苦しさを感じガバーっと起き上がる。

 ユーリが俺の口と鼻を手で塞いでたようだ。


「ようやく起きたな、ピットだってもう起きてるぜ。昨日、農作業手伝うって言ったのはアンタだろ」


 そーいえば……確かにそんな事言ったな俺。


「顔洗ってきなよ外の井戸に水がるから。それと裏の小屋の方に、ニワトリがいるからエサあげて来てくれよ」


 と、謎の小袋を渡される。

 手の感触からしてこれは粉だな。


「これ何入ってんだ?」

「魚の身や骨とか砕いたヤツさ。じゃあ頼んだぜ……そうそうこれイレアさんからアンタにって。アンタの服は目立つからな」


 ユーリはそう言い、俺のベットに服を置いて去って行った。

 キトンの服か。やけにヒラヒラしてんなー。

 いかにも中世て感じの無地の灰色の服とヒモ。

 このヒモが多分、ベルトの代わりだな。


 しゃーねえな着替えるか。

 そういやこの時代には下着はないんだろうか……?

 まさかユーリやイレアさんの服の下は、ノーパンではあるまいな!?


 ……すげえ気になってきたけど、先にニワトリにエサやってくるか。


 ニワトリ小屋はすぐ孤児院の裏にあった。


 バサバサバサッ!


「うおっ!?」


 小屋を開けると同時に、小さな影が俺の頭を飛び越えたと思ったら、ニワトリじゃねーか。

 びっくりさせやがって。

 意外とけっこうジャンプ力あるんだなニワトリって。


 関心してる場合じゃない。

 ニワトリ小屋は、白いチキン達の楽園ファンキー・モーニングと化してる。

 回るように飛んだり跳ねたりと、えーと……全部で15羽かな。


 クソっ、完全に放し飼いじゃねえか。

 ちゃんと個別の小屋に入れとけよ。


 うーん、どうやって捕まえよう。


「おはようございます。主様」

「うぉっ!? チョコレーかいつからそこに!」


 いつの間にか俺の肩にいる!?

 ダンボールの精霊チョコレーがお辞儀をし、大きなシルクハットを思わせる帽子を脱いで言う。


「急に出てくるとビックリするから今度からは、出てくる前になんか言ってから出てきてくれよ」


「かしこまりました主様。ところでニワトリ達と、朝から追いかけっこですか主様?」


「これが遊んでいるように見えるのかっ! 捕まえようとしてるんだよこいつめっ! 大人しく捕まれっ!」


 終わらん鬼ごっこをしている気分だぜ。

 ニワトリ乱舞で、白い小さな羽が小屋にはためく。


「コホン。では、私めにお任せください主様」


 チョコレーは似せようともしてない、ニワトリの声真似を何度かする。

 ピクリと動きを止めたニワトリ達が一斉に、飛び立ち小屋に戻っていった。


「いったい何をしたんだチョコレー。お前ニワトリ語とか分かるのか?」


 素朴な疑問である。


「これでも私は精霊ですから。知能のある動物の言ってることならある程度は理解できます、主様や動物に私の姿は見えても、普通の人間には見えないことでしょう」


 へぇー普通の人間には姿が見えないのか。

 急にこの超ダンボールと名乗る自称精霊チョコレーが、高性能なナビゲーターに思えてしまう。


 さーて、ほんじゃ畑に行くかぁ。


「あーおはよーアッちゃん」


 ピットが元気そうに手を振っている。


 アッちゃん?

 アツトだからアッちゃんてことかな。


「よう来たな。おっちゃんは鍬をもって、こっからザックザク鍬を入れてくれ」


 ユーリが額の汗をぬぐいながら言う。

 ここで選手交代てところか。

 そこまで広さはないか、大きさにして広さは12~13畳ぐらいってとこかな。

 重労働てほどではないか。



「おう。ところで、こここでは何育ててんの?」


「玉ねぎ、じゃがいも、キャベツてとこだな。こっちの畑は休ませてるから鍬は入れなくていいぜ」


「三圃式てやつか。季節の野菜ごとに畑を使って、どれか一つを休ませるんだよな」


「そうだな。堆肥とかももちろん使ってるけど、季節全部に畑を使うと野菜が育たないからさ。休ませてんだよ」


「なあチョコレー。なんかいい肥料とかないかな、年中畑使えるようになるやつ」


「主様のレベルだとレベル2以上の物をランダムで召喚するのなら、相当な運と時間を要するので現実的とは言えませんね。それよりなら細かくした牡蠣の貝などはいかがでしょう」


「使えるのかそれ?」


「ええレベル0の召喚ゴミですから。牡蠣殻の貝などは高温で焼いた物を、漢方薬の成分として使ったりもしておりますし、牡蠣の貝に含まれるミネラルやカルシウムは大いに土壌の改善をしてくれることでしょう」


 ダンボールの腕をくねくねさせながら、説明するチョコレー。

 なるほど。良く分からんが肥料になるらしい。

 それにしてもこのダンボール精霊、間違いなく説明好きと見た。



「じゃあ召喚するか、ダスト!」


 例の如く白い煙とポンっと軽快な音のあとに、牡蠣の貝ガラが頭上から、ドサドサドサッと落ちてきた。

 そして山盛りの牡蠣の貝ガラが足元に溜まる。


「うぉっ! また昨日の変な魔法か!」


 すっげえ驚くユーリ。

 いい加減に慣れてもいいと思うんだが。


「……既にバキッバキに砕いたあとじゃん。これ」


「そうですね」


 我関せずと言った一言。


「拾うのが手間じゃねかーかオイっ、どうしてくれんだこれ!」



「ねえアッちゃん。そのかたに乗ってる変な虫はなーに?」



 ん? 虫って、チョコレーのことか。

 ピットには見えてるのか?

 どう見てもピットの指し示す指は、チョコレーを指しているぞ。


 出来るだけ、小声でチョコレーとやりとりしてたのだが。


「チョコレーお前の姿さ、見えてないかピットに?」


「どうやらそのようですね。そこの少年、私は虫などではありません。偉大なるゴミの主神マヨラー様に仕える序列にして第三位、超ダンボールの精霊チョコレーと申します。以後お見知りおきを」


「うわーすごーい、虫がしゃべったー!」


 両手を上げ、ぷんぷんした感じで、虫じゃないアピールをしてるが声に迫力が全くない。

 ピットは虫が喋ったと大喜びで寄って来て、チョコレーをつまみ上げた。


「こら離しなさい。私をなんと心得るか」


 背中をちょいと、ピットの小さな指で摘みあげられるチョコレー。

 そして羽を捕まえられたトンボみたいに観察され、空中でじたばたしている。


 ダンボールなのに、皮みたいに背中がみょーんて伸びるのか。

 うーん、超ダンボールとはいったいどんな素材なのか……?


 世の中は、不思議なことでいっぱいである。




「すごーい喋れる虫さんだー」


「ピット、こいつは虫じゃなく精霊で俺の知り合いなんだ、離してやってくれ」


「ふーん虫より偉いんだ。わかったー」


 ピットに解放され俺の肩へと戻るチョコレー。



「ふぅ、まったく失礼な少年ですね。今後、私の半径3メートル以内には許可なく近寄らないでいただきたい」


 どうやら怒ってるようだが、やっぱり声に迫力がまったくなく、愛想を振りまくマスコット人形が喋ってるようにしか見えない。これでは少年のピットに何を言っても、逆効果でオモチャにされそうだ。



「なあなあ。さっきから何の話をしてるんだよ2人でさ?」


 どうやらユーリには、チョコレーの姿と声が分からないようだ。



「そ……そこの肩に乗ってる精霊のことです」


 おっ?


 いたのかよ美人のエルフ娘!

 まったく気づかんかった、なんたる存在感の薄さだ。

 この子ならどっかの建物に、スパイ任務の潜入捜査とか楽々に出来そうだ。


「い……いえ、何でもありません、はいっ!」


 堆肥の裏からひょこっと出てきて、ひょこっと隠れる。

 どんだけ人見知りなのかこの子は。


「はー。精霊なんて本当にいるのかぁ、ちぇっ、私だけに見えないなんてなんかズリーぜ」



「だいたいの人には精霊の姿は見えないから仕方ありません。主様を通して通訳すれば言葉を通わせることも可能です。しかし少しずつ意識を通わせることによって、認識も変わり認識の変化は観測の結果に変化を与えます。伝言をやりとりすれば、私がいずれ見えるようになると思いますよ」



 うん?

 何言ってるのだチョコレーは。

 全然分からん。サッパリだ。



「なあ精霊は私に、何て言ってるんだ?」


「えーといずれ見えるかも、だってさ」



 農作業を終えた俺達は孤児院へと帰宅した。

 牡蠣の貝殻は、スキルの『アウト』で楽々回収したのを畑に撒いていった。


 案外このスキルは便利かもしれん。

 さっさとレベルを上げ、合成スキル『ミックス』とやらを使ってみたいもんだ。



 ほんで飯時前に、イレアさんに依頼を受けた。


「えぇええー!? エルフ娘と狩りぃいいい?」


「はい。そうです、いつもヨヨイちゃんにお願いしているのですが、何分女子一人で動物の肉を運ぶのは骨が折れますから」


 エルフ娘の名はヨヨイというらしい。

 狩り? あの人見知りっ子に、そんなこと出来るんかいな。

 疑問は残るが、とりあえず俺は了承した。





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