表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/42

遠距離パフォーマンス攻撃土下座

 

 目の前で威圧するように、腕組みをするこの男。

 筋肉隆々としてて、まるで商人というよりプロレスラー。


 俺が演出した店屋を、大きく目玉を開いてギョロギロと見渡す。



 一体全体何の用なのか。

 プレッシャーを感じるから、さっさと回れ右して視界に入らないどっか行ってほしい。


 ユーリが警戒するような、素振りで俺の耳元で囁く。

 大男を見上げながら、若干の緊張を含んだ声。


「ドフォール商業組合は、毛織物や武器を扱うアルフレンドで最も大きい商会だよ。傭兵団とも契約してるし力のある商会だ。揉め事起こすなよ」



「で……どうなんだ? 許可がないなら商人の世界の習わしで、それなりの罰を受けて貰うが」



「……罰とはどんな内容なんだ?」


「勝手に許可なく営業した者にはミル銀貨10枚の罰金が科せられる。払う金がないというのならちょいと商会まで来てもらおうか」





 う~ん参ったな。

 罰金を払えと言われて金を失うのはイヤだ。

 というか現時点で銀貨10枚もの金はない。

 ない物を用意するのは不可能だ。

 ユーリに借りるってのもな……俺とは初対面同然だし。



 クソっ……喉元へ刃を突きつけられてる気分だ。

 相手は大手の商業組合。いきなり異世界に来て揉め事は起こしたくねえな。


 やるか……アレを!



 俺はラグの上で姿勢を正し、折り目正しく座り両手を地面へつく。そして頭は地面へ低く。


 すなわちこの格好、DOGEZA(土下座)なり!



「何を……している?」


「ははーっ、お代官様ーっ! これは我が国の古来より伝わるDOGEZA(土下座)という伝統技でして、これを見た相手は良心を揺さぶられるという遠距離パフォーマンス攻撃の一種です! 営業許可はありません!」



 俺は謝りながらも、両手に地面の砂を掴み隠す。

 この大男が殴りかかってきたら、砂を目にかけ目潰しした後に、ビール瓶で頭をゴッツンしてやろう。



 その後、全力で逃げると。

 やり過ぎかな。

 まっ見た目プロレスラーだから死なんだろ。



 姿勢はそのまま、目線は後ろをチラ見。

 ……そういや瓶やグラスは完売だったけか。

 作戦変更、視界を塞いでから金的を蹴り上げて退散だな、うん、これでいくか。



「身なりからして、この国の者ではないようだな。営業許可のことは知らなかったと見える。だが、知らないでは通らない。この辺りはウチの管轄下でな。営業許可を貰わないと、ここで商売は出来んぞ、それに……何やら不思議な物を売っていたようだが、扱う商品にも権利がいるのだぞ」


 うへぇ〜めんどくさっ!

 心の中でツバを吐き、ついでにガムも吐き捨てる。


 例えば塩売るなら、塩を扱う許可しか下りないってことか。

 このドフォール商業組合にお金を払ってさ。


 現代でいう独占禁止法の枠を外し、一部商品を商業組合ことギルドで独り占めなんてのが、まかり通ってしまうってことかこのアルフレンドでは。




 ……待て、待て、待てよ。

 そもそもペットボトル売るとしたら、いちいちペットボトルの説明して、仕入れ産地とかも答えなきゃいけないのかな。


 想像以上に面倒だな。

 で、結局俺はどうしたらいいんだよ。

 こんだけ頭下げてんだから、さっさと去るがよいわ。しっしっしっ! あっち行け!

 悪いがせっかく手にした金だ、縁もない相手にはビタ一文も払いたくない。



「まあまあ、この方は最近こちらに来たばかりですから。どうかコレで」


 イレアさんが懐柔するように、ミル銀貨1枚を大男に差し出した。


「フン、街の貧乏孤児院の者か。これが金貨だったら見て見ぬフリをしてもいいが、まあ貧乏孤児院の出せるのはこんなものか」


 この野郎……調子に乗りやがって。

 そっちがそんな態度なら、こっちにも出方がある。


「ははっー! お代官様ーっ! 何卒、何卒、御容赦をー!」


 わざと無駄に大声を上げる俺。


「おい……声が大きいぞっ、それにオダイカンとは何だ?」



「ドフォール商業組合の人が、商人を虐めてる」

「やり過ぎだろ。大手だからって都市商人を追い込んで」

「ママ〜体の大きい人がイジメしてるー」

「しっ。大きな声を出すんじゃありません」



 そうだ。

 もっとやれ、もっと!

 この大男を責めて責めて、良心の呵責に耐えれなくなるまで追い込め!

 うっひゃっひゃっひゃっ!

 あ〜少し面白くなってきた。悪ノリしてやろ。



「ははっーお代官様ー! 何卒、命だけはお助けくださいー! 営業許可のことを知らなかったのです。私には故郷に、帰りを待つ妻と生まれたばかりの娘がいるのです」(大嘘)




「命をとるって…やり過ぎだろドフォール」

「生まれたばかりの娘さんいるんだし可哀想だろ、許してやれよ」

「ドフォール商業組合の物は、買わんようにしよう」



「きっ……貴様、何を適当なことをっ!?」



 慌ててる慌ててる!

 うっひゃっひゃっひゃ!

 あー笑い堪えて片腹大激痛だぜ!



「両手両足を千切り、ファラリスの雄牛の刑だなんてあんまりだぁああ! お代官様~どうかお助けを!」



 俺の、嘘、大げさ、紛らわしい演技でいつの間にか人だかりが出来ていた。

 ざわざわと動揺が見物人にも広がり、ドフォール商業組合の大男は野次馬達から批難を受けている。


 最早、この場の力関係は逆転。

 頭を下げる俺が王で、見下ろす立場の大男のアンタが罪人だ。


 ドフォール商会にイジメられ、頭を下げる弱者で可哀そうな俺と。

 強力な権力を持ち、弱者をいじめるドフォール商会の大男。


 さて、客はどちらの肩を持つかといえば、弱者の肩をもつものが相場だ。


  くっくっくっく……さてどうする?

 権力をかさに俺を罰するか?

 それとも自分のプライドを優先し、店の看板に泥を塗るかい?



 理不尽なまでの差。

 もはや勝負は決したと思うがね。



「くっ……こ、今回はこれで許してやる! 代わりにこれ1個貰っていくぞ」


 くくくっ勝った! 俺の勝ち!



 慌てて人を掻き分け、大きな背中を丸めて、逃げるように去って行くドフォール商業組合の大男。さすがというか、ちゃっかりライター1個パクっていきやがった。


「いやーお騒がせしてすみません。せっかくなんで見て行きませんか? これはライターと言ってですね、こうやってボタンをポチッとすると、簡単に火がつきます」

 


「なんでえ!? 何コレ!?」

「どういう原理なんだ!?」

「こ、これはもしや火の神イフリートのアーティフクト!?」

「アーティフクトだって!?」



 火の神? 

 ただの使い捨てライターなんだが。

 盛大に勘違いしてるみたい、まっいいか。


「使い捨てではありますが、このライターが今ならミル銀貨2枚のところ、1枚で販売しております」



「うおぉおおおおお!」

「俺、買うぞ!」

「はいはい。一人ずつ並んで並んで」


 手を鳴らして客を誘導する。


「お、おい。アンタ、さっきそのライターだっけ。ミル小銀貨1枚って言ってたじゃないか」


 ユーリが耳元で呟く。


「値上げした。売れる時に売るのは、常套手段だ」


「それに、売ったらダメなんだろ本当は」


「今日ぐらいはいいだろ。あれだけ言われりゃ、あの大男も今日は来ないさ」


「たくましいなオッチャン。謝るだけで、ドフォール将棋組合の人間を追い払う人間とか初めて見たぜ」


「よせよ照れるじゃねーか、はっはっはっ!」


「いや、別に褒めてねーから」


 ユーリは手でがぶりを振る。

 やや呆れというか白けた表情。


 俺は転んでも、タダでは起きない主義だからな。しかし、販売ルートは考え直した方がいいな。商品一個一個に利権料とか払ってたら、とても商売にならない。


 あと、スキルのボックスの能力とかも試してみるか。

 何はともあれ、食いっぱぐれることは、無さそうだ。

 今日は俺なりに考えて、良くやった方だと思う。


 ふぅ、とにかく俺自身に今日はお疲れさんっと。

 もうすぐ沈む夕日を見ながら、心の中で呟く。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 将棋組合www
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ