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マヨラー様からの招待

 

 気がつくと、辺り一面花だらけの見慣れない場所に俺は立っていた。


 芸術の都を目指す道中だった。南西に広がっていた黒くて分厚い雲が広がりはじめ、そろそろ雨が降るんじゃないかと予想してたところ、天と地をひっくり返したような大雨が降り始め、スキルで超ダンボールハウスを出して部屋の中に避難したところだ。


 勝手にダンボールのパーツが1個ずつ動いて、自動で組み上がっていく様子は、何度見ても意図不明の不思議動画を見てるような感覚でシュールな光景だ。組み立ては便利なのに、解体が手作業なのは実に否めない。1時間くらいかかる。今はアシルとパエリアがいるから、以前よりは早く解体できるけど。



 で、そのまま、ダンボールハウスの部屋で寝ていたはずだ。


 なんだねここは?


 足元は背の低い一面色とりどりの花だらけだ。よもぎとオレンジを混ぜたような香りの良いハーブのような匂いがする。薄い霧が辺りに立ち込めていると思ったら、雲が目の前を通過していった。


 どうやらここは、雲の上に近い標高らしい。


 周囲がどうなってるのか気になって探索しようと歩き出す。だが、すぐ歩みをとめることになった。この場所は島のようになっていて、空の上に浮いているのだ。他にも平べったいせんべいのような長い島、他にも小粒に島の大小が浮いているようだ。


 良く良く観察していると、ゆっくりとではあるが、それぞれの島自体が個別に動いてる。

 島同士がぶつかって、クラッシュしたりはしないんだろうか?

 少々、不安である。


 下の方を見ると、ひたすら青と白色の空模様のような空間が広がっていて、地上の風景や海、山などの景色は見えない。



 いったい、ここはどこなのか?


 小鳥の姿は見えないが、小鳥の囀りは聞こえる。



 うーん……多分、夢だな。通常、夢だと自意識ではなかなか気づかないものだが、すんなり夢の中だと受け入れることができた。


 そうかそうか夢か。

 じゃあ寝よう。

 探索するのも面倒だ。


 とその場で横になったら、ポンっという小気味よい音と共にダンボールの精霊チョコレーが現れよった。相変わらずアロハシャツを着ている。そしてグラサンまでしてる。前回はグラサンしてなかった記憶があるのだが、まあ、そんなことはどうでもいい。


「主様。こんなとこで何してるんですか。早くマヨラー様のとこに行きますよ」


 くるくる踊りながらの、いきなりの宣言に俺はとまどった。



「待ってくれ。これ、夢じゃないのか?」


「主様の睡眠中に潜在意識をリンクさせ、こちらの世界に招いた次第です。ですので自意識の稼働領域100%ですが、夢の世界にいることに代わりはありません」


「それにしたって急すぎる。なんの準備もしてないぞ」


「はて? 確か以前、マヨラーと面会の予定が入っていると、私はお伝えしたと記憶しておりますが」


「それって、だいぶ前の話だよな」


「マヨラー様は気まぐれなお方。今日呼んでまいれとのお達しがあったのです。行かないとそれはそれは、大変なことになりますぞ。ハッハッハッハッハッハッ」


 和柄の扇子を出して笑いだすチョコレー。

 いったい何が面白いのか。

 こいつ、しばらく見ない間に、どっかで改造手術でもされてきたんじゃないか?



 ゴミの神マヨラーは毒舌で性格も悪そうだし、行かないというワケにもいかんか。


「マヨラーに会ったら特に注意するべきことは――」



「あーいたいた師匠」


 話の最中にルクスがやってきた。

 同じくこっちの世界に呼ばれてきたようだ。

 ん? ルクスの隣には見慣れない精霊がいる。


 緑色のオールバックの長髪をしてて、雰囲気の柔らかそうな女の精霊だ。いくつもの葉っぱで作られたマントをしている。



「この精霊にここまで連れてきてもらったんだ。師匠がこっちにいるってね」


 チョコレーが和柄の扇子をどこからともなく取り出す。



「主様。ご紹介します、こちらは主神マヨラー様の眷属にして、序列第7位のバジルーナさんです」


「初めましてバジルーナでーす。以後、お見知りおきを。マヨラー様に急に呼ばれてきましたー。眠いです。帰って寝ていいですかー」


 えらくスローペースなしゃべり方だな。なんか、こっちまで眠たくなってきた。夢の中なのに。


「バジルーナさんは心を落ち着かせる香りを放ったり、癒しの能力や風を操る能力をもっているんですよ」



 今までの精霊の中で一番まともっぽい。なんで序列第7位なのか??? ミリーンなんか電気使うのに、下敷きで頭ゴシゴシして電力チャージとか、アホな能力だったぞ。


「なんで序列第7位なの?」


 それとなく本人に直接聞いてみる。




 バジルーナは首をこくこくさせながら、立ったまま器用に寝ている。鼻ちょうちんが風船みたく収縮してる。えらくマイペースな精霊なようだ。



 小動物をめでるような仕草で、しゃがんだルクスが指で鼻ちょうちんをつついてみる。


 パーンと風船が割れたような音がして、ルクスが驚いて尻もちをついた。


「ふぇ? 私もしかして寝てましたかー? このぽかぽかしてる時期はいつも眠くって、ふあぁ……」


「バジルーナさんは時期関係なく、いつもほとんど寝てますけどね。とにかくマヨラー様のとこへ行きますよ。あまりお待たせすると、その場でスクラップにされかねませんからね」


「そんな怖い神様って聞くと、緊張してくるじゃん」とルクス。



「大丈夫です。主様が殴られそうになったら、私はすぐに瞬間移動で逃亡しますからな、ハッハッハッハッハッハッ」


「その時は、真っ先にお前を捕まえて、盾代わりにするから安心しろ」



 そうこしてる内に、案内されマヨラーのいるという建物の場所までついた。

 見た目は、ギリシャとかの神殿に似ていると思った。

 見るからに立派な石柱が、重そうな三角形の屋台骨を支えている。



 入り口に進もうとすると、いくもの花びらが、半時計周りにゆっくり回転しながらひらひら舞い降りてきた。


 さすが神の住まう神殿だな。

 入り口に近づくと、花がひらひら落ちてくる粋な仕掛けをしてるらしい――


 と感心したのだが、よくよく上を見るとミリーンのやつが屋根の上から真顔で、木の丸いバスケットを抱えて、そこから枯れ木に花を咲かせましょう――と言わんばかりに花を投げているのだ。


 手動かい!

 ものすごい呆れた……。



「……何やってんだお前?」



「うるさいわヨ! マヨラー様にこの仕事を仰せつかったのヨ! なんでこのミリーンちゃんがフロンジの為に、花見舎(はなみおけ)の仕事しなきゃいけないのヨ! チョコレーアンタ、これ代わんなさいヨ!」



「私には主様のナビゲーターの仕事がありますから、花見舎(はなみおけ)の仕事を――」



「代わんなさいヨ!!!」


「……はい」


 チョコレーは弱々しくうなずいた。


 相変わらず、序列3位のくせに序列5位より立場弱いな!




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