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進撃するふざけていると許さんゾウ

 

「買わないで良かったの?」とパエリア。


「いかにも胡散臭い婆さんだったし、本当にあの売り物でゾウを抑止できるか怪しいからな」


「完全に抱き合わせ商法でしたね。売れない奴隷を奴隷につけて売る商法にそっくりです」


 と、自身の回想らしき例え話を出すアシル。




「それはリアルの話かな」と若干の苦笑いを含むルクスが言う。




「機嫌悪いと突進してくるゾウか。何でこの国では放置してんだ? 街道なんだろこの先も一応」


「許さんゾウがいるとこは旧街道らしいよ。街道はぐるぐる迂回するから、かなり時間かかるみたいね。これ以上の時間のロスは避けたいとこだね」


 もう一度地図を取り出し、顔に近づけながらパエリアが言う。


「俺も同感だ。中には襲われない旅人もいるんだろ。運ゲー要素は高いが、刺激しないよう慎重に進めば問題ないと思う」



「しっかし変な名前だよな。ふざけていると許さんゾウって」



 同意を求めるようにルクスが言う。


「私、名前だけは知ってます。ムシバミ諸島との戦争時に使用されたゾウだそうですが、戦争が終結してコストがかかりすぎるっていうことで、野に放たれたいきさつがあるそうです。正式名称はディアリーエレファント。ふざけている旅人を見ると襲いかかってくることから、ふざけていると許さんゾウと呼ばれるようになったそうですよ」



 と博識ぶりを披露するアシル。


 そして無事に旧街道の道路へと俺達入った。

 放置された道路だけあって、石畳はヒビが入っていたり、欠けていたり、でこぼこになっていたりと、とても馬車などで通るには悪路としか言いようがない。



 人通りも少なく、赤いフードを深く被った人や、他から観光で来たような地図片手にキョキョロしてる人くらしか見当たらない。


 というか、赤フードの人に許さんゾウのことを聞いてみるか。

 向こう側からやってきたようだし。


「すいません。ちょっとお尋ねしたいんですが、今あちらから来ましたよね」


「ああ。それが何か?」




「許さんゾウについて聞きたいんですが、襲われない方法と知ってますか?」


「なら簡単なことだ。ゴミを捨てたり、カップルでいちゃついたりしないことだ。それから靴紐がほどけたままで進んだりしない。俺は何事もなく街道を抜けてきたぞ」


「そうですか、ありがとうございます」


 赤フードの人は急いでるようで、早々に話を切り上げ去っていった。


 なるほど、なるほど。要するに許さんゾウに構わず、気をつけて進めってことな。

 てか靴のヒモって!? 姑より気になるとこ細かいな!

 やっぱ許さんゾウの機嫌次第じゃねえか!




 未だ許さんゾウの姿は見当たらない。

 

視界に映るのは、ボロボロの姿で稼働してる水車小屋と、ちょっとした底の浅い川、ポツポツと生えてる木くらいしかない。




「アツトさん。あれ出してよ板チョコ、甘いもの食べたい」

「じゃ、俺うすしおポテチで」

「えーと……私はこの先日いただいた、じゃがりこーんのサラダ味とかいうのを、あ! 出来たらでいいんです」


 とまあ、こんな風に急にお菓子タイムをねだられる時もある。


「お前らなぁ。言っとくが、俺は何でも要求したものを出す猫型ロボットじゃないからな」


「まあ、いいじゃない減るモンじゃないし」


「一応スキルのストックは減ってんだけどね。 ダスト!」


 適当にビニール風呂敷を出してお菓子休憩をしてから、また進んだ。



 ようやく許さんゾウが目に入った。


 でけえな。存在感がすごい、3メートルくらいあるんじゃないか?

 目が大きくて少し赤みががっている、それにあの身体の模様……というか落書きみたいに見えるんだが。


 だって、身体に墨で書かれたような線が入ってて〇×とか描かれてるやつがいるぞ。

 あれ〇×でやる陣取りゲームだろ、しかし許さんゾウに落書きしたアホがいるのか!? 考えられん!


 中には普通にまだら模様のような、生まれつきと思われる模様のゾウもいるが、全員が何らかの模様があるように見える。


 とりあえず、今のとこは俺達を気にしてる様子もないし、大人しく水浴びをしてたり、木の上の草を食べてたりと、至って普通のゾウに見える。


「ルクス。これ持っとけ、爆竹とライター、それに煙玉の効果があるガチャガチャカプセルだ。使い方は分かるな?」


「分かるけど師匠。これをあいつらに使ったら怒って、とんでもないことになるんじゃ?」




「もし、襲われた時の為にだ。ともかくここから、慎重に慎重に会話もせず行こう。やつらが何でキレるのかサッパリ分からん」



「了解」




 ふぅー……。

 いつ暴発するか分からない時限爆弾の中を進んでるようで、旧街道の景色と空気は爽やかに感じるが、どうにも気が重い。とにかく、抜き足、差し足、忍び足の精神でここを通りすぎるのだ。



「いてっ!?」


「なーにやってんだよお前、バナナの皮で滑るとかギャグかよ」


「クソっ! なんでここにバナナの皮が落ちてんだよ」


「誰かかが食って捨てたんだろ」


 ……なんて能天気な会話は、俺達の後ろの方から聞こえてきた。

 距離にして30メートルくらいだろうか。


 もう誰が何を言わなくても、嫌な予感がしてしまう。


 明日の天気を予想するより簡単にだ。

 俺達全員が引きつった顔で、お互いの顔を見た。


「アシル。確か耳がいいはずだったと記憶してるが、どうして後ろに人がいると注意してくれなかった」


「さっき一言もしゃべらないで進もうって、打合せしたじゃないですか。ところでマズイですよ……ゾウ達の足音の気配が一気に止まりました」


「あれには私でも、勝てる気しないなぁ」なんてパエリアがのんきに言う、



 やめてよねそういう脳筋思考。

 前言撤回、パエリアは事態をちゃんと把握してないようだ。


 おそるおそる、俺は後ろを振り返ると、許さんゾウ達がこっちの方をじっーと大きな目で見ている。


 そして目の色が少しずつ赤くなり、額に分かりやすいくらいの青筋を立てて!


 つっこんできやがった!!!!!




「逃げろ!!!」


 俺が逃げろという前に、ルクスとアシルは全力ダッシュ!


 それを見て遅れてパエリアも逃げる動作に入った。



「うわぁあああああああああああ!」


「たっ助けてくれぇえええええ!



 あの警戒心の薄い若い男2人組は、俺達の方に向かって逃げてきてる。


 迷惑だから、こっち来るんじゃないよ!


 助ける? いや無理だ! 命がいくつあっても足りない!


 自分たちの命が優先だよ、そりゃ!


「どわぁああああああ」


 恐ろしそうな悲鳴を上げて2人組は吹っ飛ばされた。


 その後、踏まれたりはしてないから、運が良けりゃ生きてるだろ


 怖いから、つい後ろを見てしまったが……何でまだ追ってきてるの? 


 ホワイ!? どうなってるの?


 明らかに俺達を標的にしているようだ。


「だ、ダスト! ダスト! ダスト!」


 俺は許さんゾウを防ぐために、自分の背後に工事用のカラーコーンと、縞模様のフェンスをバリケード代わりに配置したのだが――



 ガシャン! ガラン! 


 と無慈悲にも、工事用の備品達が軽々吹き飛ばされた。



「クソっ! 地の果てまで追ってくる気かよ!」


 焦るルクスは走りながら、器用に爆竹に火をつけ勢い良く投げつけた。


 旧街道に、爆竹の爆ぜる音が響き渡った。


 許さんゾウは爆竹にひるむ様子も見せず、益々スピードを上げた。

 足音をドスドスドス響かせながらこっちに突進してくる。



「師匠! やつら余計に怒ってるように見えるんだけど!」


「はぁ……はぁ……その……ようで!」



 やべえ、もう息持たねえぞ!



「私も……ルクスとかアシルほど早く走れないって。も~ドワーフに走る習慣とかないのにぃい!」


 とやけくそ気味で、やや俺の後方からついてくるパエリア。


「その背中のでかい斧を捨てろパエリア、潰されるぞ!」


「やだ!」


「クソっ! ミリーンでもマヨラーでも何でもいいから、この場をどうにかしてくれ!」




 困った時の神頼みだ。


 しかし、以前と違い、誰も出てくる様子がない。

 マジ詰んだのでは?


 と俺が諦めかけた時に――


「やあ主様。ごきげんよう!」


 と、いつぶりかに俺の肩に現れたやつは、ゴミの神マヨラーに仕える序列第三位の精霊。


 超ダンボールの精霊、チョコレーである。


 なんか喋り方が前と違う感じがする……それにコイツ、アロハシャツとか着てたっけ?


「私を呼びましたか主様? ところでゾウと追いかけっこですか? 何かのトレーニングの一貫で?」


 と俺の肩でくるくる回りながら、能天気なことを言うチョコレー。


「追われてんの! 死にそうなの! 見てわかんねーかな!」


「はっはっはっはっはっ! それならそうと言ってくれれば対処しますと、ええ」


 コイツ、こんなキャラだったっけ?

 どっかで自己啓発セミナーでも、受けてきたのだろうか?


 チョコレーがゾウの鳴きまねをすると、許さんゾウ達の突撃がピタリと嘘みたいに止んだのだ。


 チョコレーは身振り手振りで何かのコンタクトをとると、ゾウ達は進撃をやめ各々がバラバラに散っていく。



「た……助かったんですか?」



 脱力し半ば放心状態のアシルが尻餅をついて言った。


「ええ。早くここから去れと彼らは言っております、もう襲ってくることはないでしょう」



「何で俺達に向かってきたんだ? 何もしてないんだが」


「他の者がバナナの皮で滑ったのが許せないようです。それと主様の体臭が臭いのでフロに入れと言っておりました。最初は我慢してたのですが、どうやら堪忍袋の緒が、バナナの皮をきっかけに切れたようですね」


 全員が俺の方をねめつけるように見た。


「え、俺のせいなの?」


「まあそれだけではありませんが、許さんゾウは戦争に使われた後に、もういらないからといった理由で身体に落書きなどをされたりし、種族全体がどんどん怒りやすくなったそうです。それに落書きが遺伝的に残ったというのも、彼らが人間に対し怒る理由なのでしょう」



「人間にいいように使われて捨てられた、悲しい動物たちの楽園なのね」


 パエリアが神妙な表情で、許さんゾウ達を見て言う。



「それでアツトさん。これからはちゃんとお風呂に入ってよね3日に1回ぐらいは」


「俺も入った方がいいと思うな。人と接する仕事なんだから」


「分かったよ気が向いたら入るよ」



「これで一件落着なようですな。はっはっはっはっはっ!」



 と言いチョコレーはくるくる回りながら、両手に扇子を出し笑いながら言った。


 こいつの路線変更は、いったいどこで開発されてきたものなのか?



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