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パエリアの受難、ふざけていると許さんゾウ

 

 港町ジープ・シーを経由してようやくのこと海路の旅路は終わった。


 これで俺の胃をぐるんぐるん回される船の旅からは当分おさらばだ。


 着いた港は名前もないような寂れた場所だった。

 民宿の宿と雑貨屋と釣具屋、食い物を扱う店が少々あるくらい。


 人は少なかったがおれは金を稼がないといけないのだ。ダストで召喚して売れるものはなんでも売らなきゃな。ルクスやアシルにも手伝ってもらい、食料品や小物を中心に道行く人に声をかけ売った。


 よく売れたのはハサミやガムテープ、調味料のマヨネーズやトマトケチャップ、塩コショウとかの調味料はスキルの残量が空になるほどの爆売れだった。

 皿に入れて味見してもらったのが良かったんだろう。


「全部すっきり売れましたね!」


 アシルが猫耳をピンとはり笑顔で話しかけてくる。


「この反応だと他でも売れそうだな。だいたい元値の5~8倍の売れ行き、上々の結果だ」



「買い出し終わったよ。しばらく街とか寄るとこないらしいからさー、野宿とかみんなできる? アシルはどう?」


 袋いっぱいに、買い出しの中身をつめこんだパエリアが言う。

 肉屋やパン屋で食料品や、他に防風布や香水を買ってきたようだ。


「そうですねぇ、初めてですけど頑張って野宿します」


 ファイティングポーズをとるアシルと比べ、対照的に慣れた感じのルクス。


「師匠の魔法のダンボールハウスがあるから問題ないよな」


「まあな。そこは大船に乗った気でいてくれ。少なくとも雨風はしのげるし外敵からも身を守れる。野営設備をする時間も短縮できるからな」


「詳細は分かんないけど頼っていいのね?」


「そうだな。でラファエロ工房までは、あとどれくらいの道のりだ?」



「えーっとね、この先にあるユニーク街道をつっきって芸術の都カタクリココていうとこを超えたらラフェロ工房ね」


 パエリアは大きめサイズの地図を顔に近づけて言う。なーんか迷子が地図見ながら家への帰り道を探してるように感じた。パエリアは小さいからなぁ。


「ほんじゃ、さっさと先に進もうぜ」



 時間は夕方から夜へと切り替わる時間帯。

 ロウソクの明かりが家々の中に灯され、窓からこぼれる光が目についた。

 そんな時間だった。



「……つけられてますね、さっきから」



 とアシルが口走った。


「えっ!?」


 俺達は口を揃えて同じような反応を各々がする。



「……誰に?」



「それは……ちょっと分かりませんけど。ネモ族は耳がいい方なんです。100メートル先で石を地面に落としても分かるくらいには」


 わーお、そりゃすごい。

 家族のいびきが酷かったりとか、雨の音とかもうるさくて寝れないとか困んないのかね? どう聞こえてるか俺には分からんけど。


「へーすごいわね。夜の時はみんなどうすんの?」


「えっと、夜とは?」


「えっちの時」


「……そこ聞くんですか?」



 パエリアの質問に、明らかに困ってフリーズするアシル。


「えっと……その」


「無理して説明しなくてもいいぞアシル」




 こんな俺達の会話が聞かれたのかどうかは分からない。

 この話をしてる時に、後ろからつけてた奴らは足取りを変え不適に近づいてきた。

 どうにも正体を隠す気とかはないようだ。



「おい嬢ちゃん、袋の中に入っている俺達の晩飯を出してもらおうか」


 とニヤケたツラで言ってきたのは4人組の中に一人だった。

 てかガキじゃねえか! 


 見たとこ16か17才ってとこかな。

 その中の小太りで細目で、鋭い目つきのやつがパエリアに対して言う。


「さっき肉屋とパン屋で食料買うのを見たんだからな。安心しな女のガキに手をあげる趣味はねえ」


 パエリアは盛大にクソデカため息を吐いた。



「いい趣味してるね。手はあげなくとも脅しはするんだ」


「そうだ。大人しくしてれば無事この先に行けるぜ、別に金や命まではとりゃしねえ」


「ドルは素手で皮の盾を一撃で破壊できるくらいに強いんだぜ」


 でたー! お仲間の虎の威を借るキツネだかなんちゃらってやつよ。


 そもそも皮の盾の素材と強度がイマイチ分からねえからっつーの!

 ほら見ろ! パエリアはもちろんルクスもアシルも全く驚いてない。



「こういうのアンタ達で7組目。地面の上で寝っ転がって夢が見たいならいいけど、やめとけば?」


 連中はキョトンとした表情で顔を見合わせてから、腹を抱えて笑い出した。



「このおちびちゃん、やめとけばときやがった」


「やめとけやめとけ。バカにしてると俺達も地面でオネンネする7組目に加えられるぞ」


「はぁー。私さドワーフなんだけど見て分かんないかな」



「ドワーフぅ? 見た目どおりただのチビの集団じゃねーかよ、いいからよこせってんだよ」


 と力任せに袋に手をかけた小太りの男は、パエリアに襟首を掴まれ宙にその身体が浮いた。


 連中の顔色が一気に変わった。

 自分たちは捕食者だと思っていたが立場が逆転したからだ。


「ぐ……ぐるじぃ、は、はなせ」


「ほい」


 パエリアは正面にゴミを捨てるかのように小太りの男を放り、尻餅をついて「ぐぇ」と悲鳴をあげる。



「これに懲りたら女の子の物を盗ろうなんてやめることね、このおたんこなす!」



「す、すんませんでしたぁあああ」


 連中は一目散に逃げていったぞ。



「そんな弱弱しく見えるのかなぁ。面倒くさいなぁ、まったく」


 ぶつぶつと独り言を言うパエリア。

 その後ろで気になることを言うアシル。



「もう一人、つけてきてたやつがいたのか?」


「はい。そういう足運びに感じました、私達が止まればピッタリ止まり離れれば着いてくる、意図的な足音です」


「連中の仲間じゃないのか? 今はどうだ?」


「今は……何も聞こえません。100メートル以上離れたと思います。あの人達は姿を隠しもしてなかったし警戒もしてませんでした。別の誰かだと思います」



 ふーむ……連中の仲間で陽動の線はないのか。

 今は、アシルを売った奴隷商とも何の関りもない。

 他に考えられる線としては……何がある?



「師匠。あの商会の奴らじゃないの? ドフォール商会とか言う名前だよね」


「ドフォールの連中か、あり得る筋ではあるな。とにかく警戒して進もう」



 村を出てすぐ俺達は怪しい婆さんに会った。


 婆さんは俺を見ると話しかけてきた。


 黒魔道士みたいな恰好が怪しすぎる


「もしそこを行く旅の方。そなた不吉の相が出ておるぞ、よろしい占ってしんぜよう」


「あの、まだ何も言ってないんですけど」


 しゃがれた声の婆さんは、有無を言わない。

 RPGツクールの世界に入った覚えはねえぞ! 

 勝手に話を進めやがる!



「せりゃあああぁああああああああ!」



 急に奇声を上げ、婆さんは鹿の角のような物を天高く投げ上げる。

 くるくる回転しながら角が地面に音を立て落ちると――



「こっちじゃ、凶を避ける良い方位はこっちじゃな!」


「それ来た方向なんだけど、戻れってこと?」



 パエリアがつっこむと驚いた表情をして婆さんは、コホンを咳払いを一つしてから別の占いをやり始めた。


 枯れ葉と火打ち石を一枚俺に手渡してきて、これに火打石で火をつけろという。

 はぁーめんどいなぁー。

 早いとこ火をつけてこの場を去ろう。


 火打石で火をつけると、枯葉は少しずつ燃え広がり枯葉に穴が空いたような形になった。



「ふむ。探し物に注意せよと出ておる。探す時は下手に動かんことじゃ、それからなこの先はふざけていると許さんゾウが出るから気をつけなされ」


「は? なんだってもう一度言ってくれ。ふざけていると許さんゾウとか聞こえたような気がするんだが?」



「如何にも。ふざけた行動をしていると襲いかかってくるゾウじゃ、たくさんの旅人が許さんゾウに突進され命を失っておる。先日はカップルの旅人が、街道でわざわざ肩を組んで歩いているところを、許さんゾウに発見され突進されて大ケガをしておる」



 ……えーと、ふざけているの定義が曖昧だし、ゾウ目線から見てふざけているとか指摘されても注意の仕方が分かんねえよ!


「そこでじゃ! このバオバオの葉と実をセットで銀貨3枚で買わんかね。許さんゾウが好物の実と葉じゃ、これがあれば襲われても大丈夫じゃ」


 婆さんは緑のうちわみたいな形の大きな葉と桃に似た緑の実を取り出す。

 なんか超笑顔だ。


「ふざけているのはアンタのやり方だよ! たけーんだよ!」


 クソっ! ただの営業のパフォーマンスじゃねえか!







半年ぶりくらいの更新

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