枝豆を分け合って
俺達は港町ジープ・シーの酒場で久々の外食をしてたのだが、結局のところパエリアに金の使い込みがバレた。というのもパエリアにこれまでの経歴を聞かれてる内に、打ち合わせナシだったからフォローが追いつかず、答えに困窮してる内に、アシルがいきなり土下座をした。
奴隷して売られてるところ、ルクスが金を出し引き取られた。
親の借金のカタに、奴隷商人に売られたということ。
これらを、申し訳なさそうな顔で説明し始めた。
酒場の酒ダルを今日は飲み干すぞ、と豪語してたパエリアも神妙な顔で話を聞いていた。
アシルの身に同情はするけど、それとこれとは話は別だ。ちゃんと金を返すこと、それと利子をつけて返す、このニ点をパエリアは要求してきた。
利子は使った額のレジスト金貨15枚に上乗せで、レジスト金貨16枚とレジスト銀貨10枚を、この旅が終わるまでに、ルクスが返すという条件でなんとか許してくれた。
もちろんルクス一人で、金を返すのは無理な額だ。
俺やアシルも金稼ぎの手伝いをしてもいいと言ってるが、手伝わなきゃ払い終えるのは無理だろうからな。
といってもその後のパエリアの機嫌は悪く、運ばれてきた麦酒を一気飲みにし、先に寝ると言って俺達に目も合わせず酒場を出て行った。
残された俺達は、重々しい雰囲気の残り香に包まれる。
「なあアシル。とりあえずイスに座ったら?」
先ほどまで土下座していて、しぼんだケモ耳と表情のアシルにイスを勧める。
「すいません。勝手にお話ししてしまって!」
あらら。またこの子土下座しちゃったよ。ネモ族ていうのは土下座する習性でもあんのか? あれは遠距離パフォーフォマンス攻撃用の奥義で、俺でもまず使うことがないんだけどな。
「まあ座れよ」
「はい」
ようやくイスについたが、アシルのケモ耳はしょぼくれたままだ。
「あの設定を通すのは確かにムチャがあったから仕方ないさ。おかげで窮屈で締めつけられていた胃が元に戻った。それに悪いのはルクスだし」
「……まあ俺が悪いのは自覚してるけど」
「当分俺に言われそうで耳が痛いだろルクス。とにかく食おうぜ、みんなロクに食ってないだろ。このエビとかアナグラエビほどじゃないけど美味いぞ、ラム肉と小麦のシチューとバターミルクケーキとやらもほとんど残ってる」
「食おうぜって……これパエリアの姉ちゃんの残りモンだろ」
ルクスがいささか抵抗気味の表情を見せる。食い残しに手をつける風習と文化が、単にアナグラ王国にはないのかもしれない。俺からすると棚からぼたもち無双というかボーナスステージなんだがな。
食い物っていうのは、買うか拾うか2つに1つしかないんだぜ。
釣りを抜きにしたらな。
「それがなんだ? 金はないからお残しは許さんぞ。食い過ぎてもう腹に入らんってのと、味が好きじゃねえなら別に残してもいいが」
「私いただきますね」
「お……美味しいですよこのバターミルクケーキってパン。表面がパリッとして濃厚な味がします」
へぇ見た目はパンケーキだけど、あれ美味いんだ。
すげえ甘そうな名前だから手つけてなかったんだよね。
ひょいっと一切れ掴み口に放る。
もぐ……もぐ……もぐ……美味い!
口の中に香り良いバターとミルクの濃厚な味が広がっていく。
生地はピザに近くビールが欲しくなる、おかわりだ!
ルクスもバターミルクケーキに手をつけ、ひょいひょいと口に入れていった。
みんなの手が料理へと伸びて、あっという間にテーブルに残された料理はなくなった。
「追加で注文を頼みたいが金がない。料金がいくらか見てみよう、皿を洗う必要があるかもしれん」
「それで済むんでしょうか? ひょっとしたら自警団に突きだされて教会での裁判で打ち首とか……」
アシルは随分と心配性らしい。
「そんなに気負うなよ。もちろん金が足りんかったら、今すぐ路上でなんか召喚してでも売ってくるよ」
店員に料金を確認したら一応払える額だったので、枝豆の塩漬けがあったからつまみ代わりに注文した。
それにしても、俺はいつになったら金貯めれるんだろうか?
ルクスの借金に、フィンカ達に借りた旅の金と借金漬けじゃねえか。
馬車を買う計画はいつになるやら。
「一人5個ずつな」
あぁ、枝豆をつまみにくいっとビールが飲みてぇな。
酒場で代金を払い、金がロクにないから馬宿に泊まることにした。
馬宿は宿屋の隔離スペースで、藁が積まれているので、その藁を布団代わりに寝るって感じだ。
ほんとに金がない旅人が利用するらしいんだけど、利用率は低いらしい。
一応、雨風は凌げるんだけど、寝心地はそんなに良くない。
なにせ藁だし。
「……寝つけない」
夜中にルクスがポツリと呟いた。
「寝れないのか。アシルを見ろ、藁の中ですやすやと寝ているぞ」
「良く寝れるなこの状態でさ、背中が違和感だらけなんだよ」
「仕方ねえな。ダスト! このダンボールを下に敷いて寝ろ、少しはマシだぞ」
「ほんとだ。ベッドほどじゃないけど藁より寝心地は悪くない」
~翌日~
「おはよ~」とパエリアの機嫌は、昨日のことがウソみたいに治っていた。
パエリアいわく、ドワーフは怒りっぽい気質で翌日に持ちこすような性格なら、内乱でとっくに種族は滅んでいるそうだ。
船であと2日過ごしたら、海路の旅は終わりだ。
船長に頼みこんで、ルクスとアシルに何か仕事はないか聞いてみた。
人員は足りてるそうだけど、世話になったからってことで、料理の補助と甲板掃除をあてがってくれた。
「しかし……うっぷ、やっぱ酔うわ」
「はよっす」船員の一人が俺に話かけてくる。
「ルクスの調子はどうだ?」
「あの小僧なら真面目にやってるよ。甲板掃除に帆の上げ下げとかもやらせてるけど、ガキの割には弱音も吐かないし真面目だな」
「それは良かった」
「でさぁ。あの~ジャイアントスコーンて、あの甘い菓子を出してほしいんすけど」
「あいよ。ダスト!」
「マジ感謝っす」
「おい遊んでんじゃねえぞ! 設備の点検は?」
「やべっ船長だ!」
やれやれ。ここは子供の溜まり場か。
さっきのやつは、アイスの果実を要求してきたし。
船の生活が長いと、甘い物に飢えるものなだろうか。
「ったく目離すと気ィ抜きやがる。おう客人、顔が青いぞ生きてっか?」
とタルのような体型のゴツい船長が、腕組みしながら歩いてきた。
「……辛うじてね。うぇっぷ……」
「ところで客人よ。てっけんとかいうイカの味付きスルメとあの、柿ピーとかってのを出してくれんか。あの味が忘れられん」
「アンタもか!」