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ルクスの派手な衝動買い

 

 思いの外、アッサリとリシェルは捕まった。

 抵抗はあった、ほんの少しだけ。



 俺達に囲まれ観念したような笑みを一瞬見せたミシェル。だが、もっとも見た目が弱そうに見えるパエリアに向かって白銀のナイフを構え突進。


 そのまま逃走する予定だったのだろうが、パエリアは正面から白銀のナイフを素手でひょいと掴みあげ、ちょいとその手に力を入れると、リシェルの手から驚愕の表情と共にナイフがするりと抜けていった。


 おもちゃで遊んでいた子供から、無言でおもちゃをとりあげる母親のような明確な力の差。


 素手でナイフを掴んだのにパエリアの手の平には、傷一つついちゃいない。


 そのままリシェルは捕えられご用となった。そして港町ジープ・シーの衛兵に引き渡し縄で両手を縛られ衛兵に引き渡される。その様子を俺達は、船着き場で眺めていたのだった。



 航海中の盗難は船の掟が適用されるが、捕まえたのが港だったのでこの町のルールが適用される。



 俺は衛兵に連れてかれる際、リシェルに聞いた。



「どうして盗みをする。止むに止まれぬ事情でもあるのか?」


 なんとなくそう思った。

 根っからの悪人はどうも思えなかったのだ、俺には。


「そう……私には年老いた母がいて病を治すため、薬を買う金がいるんだ」



 意外な理由だったので、俺は言葉を探す。


「……なんてねバーカ! どこまで甘ちゃんなんだ、本当だとしたらアンタが空から金貨の雨を降らしてくれるのかい? それならアタシは祈りを捧げ頭も下げてやるよ。そして神様と呼んでやるよ」



 リシェルは悪態をつく。「こういう生き方しか知らないんだ。いつか言ったろ失敗すればこうなるって。こいういう稼業だ遅いかれ早いかの違いさ。商人のクセに甘ちゃんのアンタもきっとこうなるさ、世間は優しい優しい善人ばかりで満ちている、そんな考えをしてるようだとな」



 話は終わった。

 空気を読んだ衛兵が「ご協力感謝します」と俺達に言いリシェルを連れて行った。


「その優しい優しい善人がいなかったら、俺はとっくに腹と背中がくっついて死んでたぜ」


 リシェルは「フン」と呟いて、背中を向けて衛兵に連れられていった。



「帝都法典だと窃盗は3年以上の刑だね、初回なら」パエリアはリシェルには興味がなさそうだった。オリハルコンの原石が手元に戻ってきたことには、安堵しているようだった。



「パエリアの姉ちゃん手だいじょうぶなのか? 素手で刃物触ってたけど」


「えっへん。ドワーフの手の皮は鍛冶仕事してるから厚いんだよ」パエリアは手の平を広げて見せ満足そな顔だ。


「そういや思ったんだけど、パエリアの親父さんは自分で宝石を作らないのか? 王様に献上する物なんだろ」



 この世界のドワーフの金属加工技術は高いと聞いたことがある。

 それなら他人に任せるより、自分で作成した方がいいと思った。

 何せ次の王に献上する代物だし。


「そりゃパパが作った方が好ましいよ。仮にも族長だし金属加工の腕はいいよもちろんね、でもダメなんだ。落石に巻き込まれて腕をケガしてるから。だからドワーフより加工技術が高いと言われるラファエル工房に頼みに行くんだよ。私も興味あるからねラファエル工房に」




 船はここ港町ジープ・シーに補給の為に1泊する予定になっていた。



 まあ俺としては、船の酔い冷ましにはちょうどいい塩梅だ。

 それに、たまにはベットのある宿場で休みたいからな。



 港を背中にしてすぐ目の前には木造の2階建ての宿屋、雑貨屋、酒屋があって、細い道を奥に入っていくと個人商店がいくつか左右に並んでおり、乾物、薬草、肉、香辛料などを売っているようだ。


 どうにも外貨を得る為の街ではないらしく、このジープシーに住むわずかな街の住民達だけで経済を回してるようだと俺は思った。



 俺達は今日泊まる宿屋を探す為に、街を見て回っていた。


 港正面の木造宿は「見た目がホコリっぽくて古臭いから嫌」とパエリアが言うから却下になった。



 俺としては、スキルで召喚したダンボールハウスに寝てもいいんだけどな。

 まあ、たまにはふかふかベットに寝て、ちゃんとメシの出てくる宿屋も英気を養う為にアリかな。ちょいとした贅沢というやつだ。


 ま、金はあんまねーけどな。


「うぅうう~」パエリアがむずむずと小刻みに身体を振るわせる。



「どうした?」


「トイレに行きたいものすごく。船の中は匂いきついくて行かなかったから」


「その辺にしてくりゃいいじゃん」とルクスは言う。




「この、おたんこなす! レディーがそんなはしたないこと出来るはずないでしょ!」


 パエリアが拳でルクスの頭を小突くと、ルクスはしゃがんで猛烈に痛がった。

 先生が生徒に諭すような仕草なのだけど、パワーが段違いのようだ。


「いってぇええええなぁ! もうそのゴリラみたいな力を人に向けるなよ!」


「うぅうう~もうダメ~……その辺の家の人にトイレ借りてくる。金貨袋預かっててルクス」


 ルクスは怒ったけど、パエリアはそれどころじゃないらしく、内股気味に人の家のノッカーを鳴らしにいった。


 この町には、アクアノイドの公衆トイレみたいなのはないと思うぞ。

 ローマ式で排水溝に絶えず水が流れてたけど。



「すいません! トイレ貸してください!」


「はい? あなたどなた?」


「通りすがりなんですけど、トイレ借りても?」


「ウチはトイレがないのよ。ごめんなさいね」


 絶対ウソだな。

 人の良さそうなおばちゃんが出てきたけど、いきなりトイレを要求されたらそりゃ断るわ。



 待ってる間、俺はユーリからもらった街の特産品の載った本を出す。

 今頃になって思い出したが、どこで何が高く売れるかをまとめた本だ。


 ふむふむ。この町のことも載っているな。

 ここ港町ジープ・シーは特に高く売れるものはないが、この町の香辛料シナモンが、帝都で高く売れるようだな。



 ではここでシナモンを買えるだけ買って、帝都で売れば儲かるな。

 俺は金稼ぎの算段をし、本を読んでる間に気づいた。

 ルクスがいない。

 本を閉じルクスを探し回っていると、近くで人だかりができていた。



 全員身なりが良く、上等な服を着ている。

 そんな中で一際背の低い、ルクスを発見したのは偶然といってよかった。


 何やってんだアイツ?


 人だかりの注目する視線の先には、見世物のように並ばされている人が数人いた。


 特徴として全員の両腕には、木製の拘束具があり自由を奪っている。


 一目で分かった。

 あ、奴隷売買か。

 何でそこにルクスがいるんだ。

 あいつに人を買う金はねえぞ。



 ちょうど売られようとしている、ケモ耳少女に入札が始まっていた。


「レジスト金貨3枚」


「ミル金貨で5枚」


「ミル金貨で5枚出ました。5枚以上はないか?」奴隷商と思わしき色黒で肩にタトゥーの入った男が呼びかける。



「すいません。ちょっと通してもらっていいですか?」


 俺は金持ちの中に混ざる場違いの視線を受けた。

 そんなことは気にせず、ルクスのいる所へ進む。

 全員が奴隷購入目的じゃなく、この町の見物人もいくらかはいるみたいだ。


「えーと……レジスト金貨で、6枚!」


 どよどよと人だかりの中が、ざわめいた。

 その声が子供のポケットの中身には、あまりに不釣り合いで幼い声だったから。


 ルクスの声だ。

 あいつ何考えてやがんだ!

 お前の金じゃねえだろうが!

 大方、正義感で奴隷少女を買って救うなんて、浅はかな考えなんだろうけどさ。



「これは驚いた。さあ少年がレジスト金貨6枚出しました。力仕事には向かないが、器量は良く見た目も良いネモ族の少女。13才の処女です、さあレジスト金貨6枚、これ以上ありますか?」


「ではワシは金貨1枚、レジスト大金貨だ」



「出ましたレジスト大金貨1枚、レジスト金貨11枚の価値です。これ以上はないか?」



「じゃあ、レジスト金貨で15枚だ」



 結局、それ以上手を上げる者はなく、ルクスが奴隷の少女を購入してしまったのだった。


 俺は現実逃避して今日は夜メシ何食おうかな~と考えることにした。

 本当、どうしようハッハッハッハッハッ……笑いごとじゃねえや。





なんとか今年中には完結にもっていきたいとこです。

いやもってきます。

今、新作のストック中です。

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