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暗雲の船出

 

「ぐぇ……胃がひっくり返りそうだ」


「師匠大丈夫かよ。今にも死にそうな顔してるよ」


「マジで死にそう……うっ喋ったら余計気分が……あんま近寄らん方がいいぞ、マジでリバースしそう」


 今俺達は船の上で絶賛航海中だ。

 けっこう大型の船で、寝室なんかもちゃんと設備されている。見上げるほどの立派な三本マストは今ちょうど帆が張られており、追い風を受けて海の上を心地良い風を受けながら進んでいる。


 船上にいて気分が悪そうなのは海を景観を眺めている客を見渡しても、俺一人だけのようだな……。

 ルクスやパエリアが羨ましいぜ。


 パエリアは船内に闖入した鳩にパンのエサをあげてるし、ルクスは一人で帝都ディアリーの景観を眺めている。故郷のことを思い出しているのかもしれない。


「この海域には満月の夜に、大きな海竜が現れるって噂知ってるか?」


「えーやだーこわーい」


「あくまで噂さ。この辺りの漁師がずっと昔に見たらしいんだけど、魚を独り占めする為の嘘だと思うんだ。満月の時、漁師は船出さないらしいからな」


「ああーなるほどねー今日確かちょうど満月じゃないの?」


「はっはっはっ。海竜が出ても俺が守ってやるよ」





 近くでいちゃついておるカップルの話し声が聞こえてくる。

 何が海竜だ、そんな生物いてたまるかっつーんだよ海路にした意味がねーじゃねえか。




 俺達はあの後、酒場でラフェエル工房までのルートを酒場で地図を広げ相談しながら決めてたんだが、結局海路ルートになった。


 フォルテ砂漠は昼は熱く夜は毛布がないと凍えてしまう、砂嵐吹き巻く生物の存在を許さない不毛の大地。補給するような町も村もオアシスもないとのこと。


 てことで、はい却下。



 もう一つのルートのアレグロ高山は足場や狭い崖伝いが多く、ロック鳥やココナッツバードとかいうよく分からん魔物がおり、さらに山賊まで出没するらしい。何でも珍しい石や薬草が生えておりそれを目当てに来る旅人が襲われたりするようだ。


 はいもちろん却下。



 で結局は、俺が苦手とする海路ルートになってしまったのだ。迂回するので陸路より時間が長くなるのだが、安全面を優先し陸路を回避したのだった。


 うっぷ……どんぶらどんぶら揺れる船が、俺の胃を刺激しやがる。

 もう本日何度目の嘔吐感なのか数えもしてないが、吐きそうで吐けないのが辛いぜ。


「ダスト!」



 召喚した氷をビニール袋に入れ、船のすみっこで横になり空を見上げる。


 あー頭に当てると気持ちいい~んあ……?


 頭上見上げれば、夕焼けの雲に隠れた太陽を隠していくように暗雲が立ち込めていく。

 一雨きそうな気配だ。

 ふと視線を反らし船内の状況に目を配る。


 下の船室へ階段を下りていく後ろ姿。


 あれ……あいつは確か……。

 金髪ですらっとした体型、それに長い襟足の髪といい見覚えのある後ろ姿の女だ。

 服装こそ違うが、以前あった盗人のリシェルだろうか……?


「おーいルクスールクスってば」


「何だい?」


「前にお前の家に来た女盗賊がいるだろ? あいつがいたような気がするんだよ、下の客室の方にさっき降りていったから確認してくれねーか?」


「……あの人かぁ……うーん正直言うと嫌だなー師匠がどうしてもって言うのなら行くけどさ、パエリアの姉ちゃんに頼んで欲しいな……できれば」


 絶対に行きたくないらしい。

 家の中のゴキブリを数匹同時に発見したような、顔の引きつり方をしている。以前ルクスはボコボコにされてたからなー。しゃーないパエリアに頼むか。


「ということで金髪で後ろの襟足が長くてスリットがついた、スカートパンツみたいな黒の服を着た女を探してくれないか? 今船内にいる」


「ということでの意味が分かんないんだけどね、アツトさんの別れた恋人とか?」


「違う。旅の道中で少し縁があって知り合ったが、仲間でも何でもない。俺の見立てでは善人でないが悪人よりの女盗賊って感じの人間だ」


「ふ~ん悪人寄りってなんとも中途半端な例え方だね。根っからの悪人とは思えないって期待を込めてる風に聞こえるけど」


「別に深い意味はないぞ」


「分かった。ちょっと見てくるね」



 その後、パエリアに船内を見てもらったがリシェルらしき女は見当たらなかった。さすがに人の部屋を勝手にあけるワケにはいかないしな。





 そして夜。

 降り出した雨は大雨となり、部屋の天井を叩く雨音は部屋の中にも響いてくる。

 そういや、この異世界に来て初めての雨だな。


 昔は雨が降ったらそのまま、シャンプーとかたまにしてたな。

 何でか知らんが近くの住民に警察に通報されたりしてたな。

 貯水用のペットボトルや、バケツに溜まった水を蒸留して飲んだりしてよ。

 身軽な生活だったなぁ。



 今の生活も身軽っちゃ身軽だよな。

 商人のような生活をしているとはいえ、金の奴隷だけにはなりたくないもんだ。


 うーん……気分も少し良くなったし、船の揺れも少ないからようやく寝れそうだ。

 この部屋がタコ部屋とかでなくて本当良かったぜ。

 ルクスとの2人部屋だしな、広々と部屋を使えて助かる。



 3日の航路の予定でルクスと2人分だと、船賃が足りずにパエリアに借りることになっちまったがな。




「げ……いそげーだ!」

「船乗りは直ちに船板に上がれ」

「なんだなんだ……何があった?」

「いいから上がれってよ」


 ン……なんだうるせえな。

 さては船板で何かあったな。


 うーん気になるな船板に上がってみるか。







ご意見、感想などありましたら泣いて喜びます。


~次回更新4月19日~

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