ドフォール商会の足音
こけこっこ~~~!
んぁああー……ニワトリのモーニングコールか。
ふぁーあーねむいねむい……やれやれしっかり朝起きて夜寝るような規則正しい生活になっちまったな。もっと惰眠を貪りたいとこだが街も目覚め出してるようなので起きるしかない。
昨日はすぐ売りに行く予定だった。
だが肝心のスキルがハズレっぱなし。写真立てだの卓球ラケットだの、ボイスレコーダーだのと明らかにこの世界では需要の無さそうなものばかり出た。だから昨日はどういう物を呼売商人達が売ってるか、どんな物が売れてるのかを調べる為に色々と街を回った。
勝負事は事前にどれだけ準備したかで決まるのだ。
まあ、美味そうなもの好きなだけ買って食べ歩いただけで終わったけどな!
わははははははははっはは! いやー美味かったぜ……ニワトリのココナッツソース和えやレモネードとか……はぁ……おかげで金ねーよ。だいたい美味い匂いを漂わせてる食い物屋が悪いのだ! メシテロだ!
クソっ……きっと世界の誰かが、俺の資本を奪うように仕組んでいるに違いない。
悔やんでも仕方ない、今日こそは売りまくって金を稼がないとな……てまだ鼻息を立ててルクスの奴は寝てるぞ。俺より起きるの遅いとかまったく怠惰である。
必殺! フタエのキワミァアー!
「んー……いってぇ~何するんすかぁー」
反応の鈍いルクスが目をこすりながら上半身を起こした。
「さっさと起きろよ。今日は時間目いっぱい使って売る予定だからな」
「うん。そうだね」
ん? やる気あるのかルクスのやつ。
どうにも心ここに非ずて感じを受けるな。
まあいい。
本日のダスト召喚といきますか。
やれやれすっかり1日1回のログインガチャ感覚だな。
――
――――
――――――
「じゃあ売ってくるよ」
「ルクスお前にノルマを命じる。最低でも在庫の1/3は売ってこい、値段は自由に決めていいから」
「えぇ~で、それで売れなかったら?」
「ふっふっふっふっふ」
「不気味な笑みを浮かべないでよ」
ルクスには雑貨を持たせて、市民街のある東の方へ行ってもらった。そろそろ稼いでもらわんとルクスの分の旅費やら食費やらも膨れる一方だしな。
持たせた雑貨は使い捨てライターに、神薬とかドカコーラといったレアなビンの類。それと珍しい貝殻と大量のビニール袋ポリ袋、未開封の粉洗剤、ビニール手袋、ミニ香水、あと100均のガムテープを10個持たせた。
あれだけ持たせたらルクスの売る技術とか関係なしに、いくらかは売れるだろ。
俺はというとダストで召喚した鉄板の下両端にブロックを置き、真ん中に焚火台を据え火をつけた。
売る料理はやきそばだ。
具材はイレアさんにもらった豚肉、キャベツ、にんじんというシンプルな構成だ。
まず小さく野菜を切り火のとおりずらいにじんから炒めて、豚肉とキャベツを投入、キャベツが柔らかくなったら最後にやきそばを入れとんかつソースで味付けだ。香ばしいソースの香りと野菜の甘い匂いが広がってゆく。
そしてこれを透明パックに詰め、輪ゴムでとめて割ばしをセットで完成。
さあ持ってけドロボー、お代はしっかりいただくがな!
「さあさあ寄っていってくれ。本日この帝都ディアリーに世界初の新感覚がいよいよ上陸だ。歴史の第一
購入者になりたいならぜひ手にとってみてくれ。本日限定の焼きそばいらんかねー美味いよー」
立ち止まる足、足、足、足、足、足、そして歩き出していく足。
……売れない、止まるだけじゃなく買っていってくれよ!
もっと簡単に売れると思ったんだがこいつは誤算だ。
う~んどうしたものかな……。
悩んでいた俺の目の前を、男女のガキどもが悪戯に走り回っていた。
男のガキは勇ましく木の棒を振り回して歩き回り、女のガキは座り込み水の窪みに足をつっこんでバタバタさせている。
人が悩んでる時にきゃっきゃっきゃっきゃ五月蠅いな。あっちでやっていくれよ全く……いや、これは使えるかもしれんぞ。
「おーいガキどもー」
俺は手招きしてガキどもを呼び寄せる。
ガキどもは互いに顔を見合わせてから、おそるおそる俺の方へ近づいて来た。
「なーに?」
「何売ってんのおじさん」
「おじさんさーこの街の人じゃないよね、見ない顔だし」
「ねえ、これいい匂いするけど食い物なの? ミミズ?」
「バカねーこれは確かパスタて料理よ、私おばあちゃんの家で見たことあるもん」
色々な反応が返ってきた。
「これはミミズじゃねーしパスタでもねーよ。焼きそばというすぐ出来る革新的な料理だ、どうだ食ってみないか?」
「いらなーい」
「お金ないもん」
「ねー」
「なんか見た目がマズそうだ」
ぐぬぬ! このクソガキどもをなんとか懐柔しないと。
「じゃ、じゃあタダでいいから食べてみないか?」
ふふふ……ガキどもはタダという言葉に弱いはずだ。
少なくとも俺なら一撃で落ちる魅惑のキーワード。
「うーんタダなら、まぁ」
「やめておきなさいよ、タダだなんて怪しいわ」
「そーよそーよ。リンゴの呼売商人だって一番上にいいのをおいて、下のはぴかぴかにみがいた鮮度が悪いのばかり置いてるてママが言ってた!」
「じゃあさータダってことは、まさか毒でも入ってんの!?」
このガキどもやたら疑り深いな。呼売商人てのはそんな詐欺まがいのやつが多いのか?昨日買い食いした時は、値相応で騙された感もなく普通だったけどな。
「君達、このレジスト銀貨をあげるよ」
「えっ!?」
「やった!」
「お菓子買いましょうよ」
「レモネードも買えるよ。その前にりょうがえしょうのとこ行かなきゃ」
「おっとまだあげるとは言ってないぞ」
俺は手を伸ばしてたきた女のガキから、ひょいっと高く銀貨を上げる。
「ぶーぶー」
「うそかよー」
「なにさーうそつきー」
「コホン。いいかお前たち、なるべく人の多いとこに行って、このやきそばを美味そうに食うんだ。そして美味い美味いと周りに言うだけでいい。それが出来るならこの銀貨をあげよう」
「それだけでいいの?」
「ああ頼んだぞ」
ふふふ、これぞ秘策サクラ作戦なり。
これで1時間もすりゃ客でワラワラで商売繁盛だろうなぁ。
「うまーい」
「ほんとうだー変わった味だけど」
「どれどれー」
「おい俺の食うなよ。自分の食えよ」
「あのなーこの場で食うのやめてくんねーかな。何が? みたいな顔してもダメだから、約束だからちゃんと頼むよ」
「「「「はーい」」」」」
やれやれだぜ。
さて、今の内にもっと作り置きしておくか。
焼きそばを作っていると一人の男が足を止めた。
男のクセにロンゲで髪を結ってるイケメン紳士のような見た目だ。
普通に歩けるようなのに、オシャレで持ってる黒いステッキを持ちながら目の前でこう言う。
「見慣れない料理だな。君はこの辺りに住んでる者か?」
年下に君ィとか言われる覚えはねーぞこの若造がぁ。
とは口に出さず俺が笑顔を作る。
笑う門には金きたるの精神である。
「いえ別の大陸から来ました。お一ついかがです?」
「世界は広いな。色んな大陸を渡り歩いているがたまにこうして驚かされる。それにこの透明な箱はなんだね?」
「あぁプラスチックですよ。別に珍しい物じゃないです」
「ぷらすちっく? 聞いたことも見たこともない素材だ非常に興味深い。これは主に食材を詰める箱なのか? なるほど……買い手からこれなら中身も見えるし実に工夫されている」
あらら、一人でぶつくさ言いながら納得しちゃってるよ。
「とりあえず一ついただこうか、いくらだい?」
「レジスト銅貨10枚で売ってます」
今回はけっこう安めの値段で売っている。
まあ仕入れや材料費はタダだし、宣伝かねての値段だ。
日本円にしたらそうだな、コンビニのコーラくらいの値かなおそらく。
「もらおうか。なるほど、この木の棒で食べるのか……」
ハシが使えず苦戦してるようで、男は懐から長方形の小さな布を出した。布から取り出されたのはキラーンと輝く金のスプーンだ。
金のマイスプーン持参だとぉこの成金め、メッキじゃねえよなアレ。
「実に変わった味だ……美味い美味いがおそらく既存の食材を押しのけ、食卓のメインになる食材ではないな」
目の前で、ぶつぶつと一人語されても困るなぁ。
あっ、もしかしてこの世界でいう有名な食通とか?
それならチャーンス! 全力で媚び売っといた方がいいだろ!
「君このぷらすちっく? とかいった箱を入手することはできるか? 個人的に卸で売ってほしいのだが」
「はいそれはもうよろこ……え、卸ですか? 卸売りはしてないんですよ、メインはあくまで小売でやってるので」
卸売りの契約をしたらずっとその場で足止めされ、旅ができなくなるかもしれないからな。そりゃ金は儲かるかもしれないけどさ。
「ではこの透明なぷらすちっくは、どこで入手できるか教えてもらえないか?」
「それは個人的に卸してもらってましてね、流通元には商会の名を出さないようにと契約があるので言えないんですよ」
ふっーやけに食い下がるじゃねーか。
とりあえず召喚してるってのも納得しそうにないし、即興で口から出まかせ言ったけど。
「なるほど……それならおっと……」
男が口を紡ごうとすると、さっきのガキどもが先頭から同じ世代のガキどもを大量に連れてきた。男はなだれ込んでくるガキどもの勢いに、足をよたよたと端へと追いやられる。
「タダって聞いたから連れてきたよ」
「はらへったー」
「ねえあたしもう1個食べたい」
「これ本当にうまいのおっちゃん?」
ふんがー!
このガキどもめ……全然話伝わってねーじゃねえか。
誰がタダって言ったよ!? 野次馬大量に連れてきやがって!
「帰れ帰れ! タダなはずねえだろこっちも商売だぞ、銅貨10枚だよ! さっきの話聞いてねえのかよ」
「さっきタダだったじゃん!」
「えーずるいー」
「俺らにもタダにしろよー」
えーい! うるさい小童どもめ!
一人におごったら全員おごらないと不公平の法則を、ガキの特権とばかりに勝手に押しつけてきやがる!
「あーもうっ仕方ねえなー、タダでいいからもっていけよ! その代わりガッツリ宣伝してこいよ!」
「「「「「「はーい」」」」」」」
「だ!か!ら! ここで食うな!」
やれやれだぜ……まあ損して得とれだな。次に繋がればいいのだが。
ガキどもにやきそばを配り終えると、まださっきの若いイケメン紳士がこちらを見ている。隣にはアルフレンドの村にいた見た目プロレスラーなハゲの男が口を合わせている。
……こいつらドフォール商会の連中か?