表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/42

アクアノイドの街散策

 

 帝都ディアリー


 大陸の中でもっとも長い歴史をもつ国家である。


 この国の貨幣は金や銀の含有量が他国通貨よりも高く、貨幣のやりとりをする通貨基軸としても信頼が置かれている。すなわちそれは国の国力を示す一つのアイディンティティでもある。


 また、高名な武器や彫刻、アクセサリーを生み出すラファエロ工房などを筆頭に芸術品の類や、建築法なども確立されておりアナグラ王国ではあまり見ることのない尖塔アーチ。いわゆる丸みを帯びた三角形が重なる建造物の数々に、ルクスはもの珍しそうに街並みを見ている。


 ここの街の名はアクアノイドの街という名で、帝都の首都の中でも二番目に栄えている街だそうだ。冠名に水がつくとおり川が街の中に根を張るように通っていて、船渡しや船を使って野菜を売る商人の姿も見える。


 街の通路にも浅い窪みを模りその中に水を流し込んで、初見で街にきた者の視覚的にも水の都なんだと認知される役割を買ってるようだ。街の子供らが面白そうに水の窪みを飛び越えたり、水のかけあいしながら走り去っていく姿が見える。





 建物も商業都市アルフレンドや、海の見える街シオンベゼネに比べ背が高いんだよ。ほとんど石造りだし。

 

うおっ! 女神らしき女性が水のツボを持つ絵が描かれてるステンドガラスまであるじゃないか。見たと、この重厚で神聖な佇まいは教会だろうか。


 それより何より俺はヌシの豪快な船漕ぎに揺られて、未だグロッキーである。


「アツトさん。顔青いよ大丈夫なの?」


 ロリドワーフのパエリアが俺の顔を伺うのだが、声を返す気力もなく教会らしき建物の前で座り込む。


 声を返す気力もないので首をふるふると合図。

 何であれだけ揺れて二人は平気なのって疑問なんだが。


 パエリアに至っては船の中で「きゃっほーい! いけいけー!」とか楽しそうに船の先頭に立ち爆笑してたし。


「ダメっぽいね、今日はしばらく安静にした方が良さそうだ」



 ルクスもちょこんと、教会の前の広い石階段に座り込む。


「まったくだらしがないのねえ。はいっこれお水、ドワーフの住処アナグラ山の深層から取れる湧水よ。飲んでみて」


 水飲んだところでどうこうなるとは思えないが。

 まあ気分展開にはなるか。

 あまり期待せずに皮袋の水筒の水を飲む。


 すごくひんやりしている以外水の味はフツウだ。


 おっ……おっ……?

 胸の辺りに停滞していたどうにもらないむかつきが、晴れていくようだ。

 嘘だろ飲んですぐだというのに、もう何ともないぞ!?


「どう効くでしょ。大酒飲みのドワーフご用達の湧水、無名だけどね。酔い覚ましに特に効果を発揮するの。価値を知る個人の商人とか、直に売ってくれと頼みに来るほどだよ」


「すごいな。もう酔いが治まったぞ」


「この水で作る蒸留酒や、ビールの味ときたら格別なんだよね。シオンベゼネのファンシーホップはなかなかの味だけど、ドワーフが作る酒の味にはとても敵わないわ」


 とパエリアは胸高々と得意気に水の説明をする。

 むぅ、チョコレーと同じく説明好きのタイプとみた。


「ねえパエリアさんって何才なの? 見た目は俺より少し上って感じするけど」


「私22才だよ」


 22ぃい? なんじゃそりゃどう見てもロリっ子にしか見えないのだが。


「すげぇー全然そんな年上に見えないよ」


「ドワーフの平均寿命は人族より長いからね。それに男より女の方が長生きの傾向にあるの、きっと男どもは大喰らいで力仕事と酒以外は、しょっちゅうケンカか博打するような野暮の集団ばかりばかりだからだと思うんだけど、そこら辺どう思う?」



 自虐的にどう思うと言われても、パエリアの身分が身分だしドワーフの習性も今初めて聞いた話ばかりで、何とも答えづらいな。



 さすがの俺でも空気は読めるぞ。

 導火線つきの時限爆弾をいきなり渡された気分である。頬をぽりぽりと掻き、明後日の方角を見るルクスは俺と同じ心境のようだ。


 何ともスルーパスしてしまいたい話題だ。


 そこへ神殿から出てきた青い衣を羽織る聖職者風の若い女性がだ。俺達を見て声をかけてきた。


「あのう礼拝に来られた方ですか?」


「えーと礼拝?……ちなみにここは何の建物ですか?」


「ここは水神アクア様の神殿。アクアノイド支部です」


 へぇ~こんな立派な建物が街にあるんだ。

 そういやマヨラーの神殿とかは地上に……あるはずないよな愚問だ。勝手に信徒にされた俺くらいしかロクに信徒がいないのだから。



「私は鉄と炎の神イフリート信仰だよー。ドワーフは10割がそうといってもいい、ここがロクなアーティファクトも地上に卸さない、あのケチなアクアの神殿なんて知ってたら敷居も踏まないよー」


 なっ……何てことを笑顔で言うんだパエリア!

 ある意味敵地の真ん前で、そんなこと言っていいのか?

 テロ行為だぞテロ行為!


「あら暑苦しい神イフリート教徒の方でしたか。脳まで筋肉の方が多いと聞きましたが、噂は本当のようですね。用がないのならさっさと立ち去っていただけますか?」


 すぐ隣でばちばちと火花を散らし、宗教戦争が勃発しそうな気配だ。パエリアは特にアナグラ王国のドワーフ首領の娘という難しい立場にあるので、揉めたら本当にエライことになりそうだ。


 俺は慌てて割って入る。


「コホン。あーちなみに俺はゴミの神マヨラー教徒だ。しかも第一番の信徒らしいので、精霊まで派遣してもらっている」(全員ポンコツだが)


「ゴミの神?」

「マヨラー?」


「新興宗教かしら、あの最近出来たとか噂の邪教、闇と冥界の神ハーデスとかのお仲間かしら?」


「私も聞いたことがないね。本当にそんな神が存在するの? 勝手に作ったとかじゃなくてー?」


 マヨラーよお前……こんなミジンコ以下の知名度に加え配下の精霊はポンコツばかり。どうやって布教してレベルを上げろってんだよ。怪しげなツボ売るより難しい気がしてきた。



「まいいですわ。アクア教徒になるのならこの敷居をまたぐことを許可します。これより礼拝の祭儀が始まるので、異教徒の方は立ち去りなさい」


 ぞろぞろとアクア教徒らしき人達が教会の中へ入って行く。背中を向ける聖職者風のアクア教徒に舌をべっーと出すパエリア。


 扉がバタンと閉められると、中から大勢の歌が聞き漏れてくる。


 ふぅ……やれやれ、ため息が出るぜ。


「あのさ信仰する神が違うと、それぞれ仲が悪くなるものなの?」


「あはは。全部が全部そうってこともないよ。例えば旅と風の神シルフィとか豊穣と大地の神タイタン、光と天候の神ライトリトライト、辺りの関係は平穏で互いの式典に出たり共同で書物の研鑽したりするみたいだし。ただアクア教徒とイフリート教徒ではどうしても馬が合わないっていうか、神様同士仲が良くないって噂もあるよ」


 神様同士でも派閥とかってあんのかなぁ。

 マヨラーの地位が、とてつもなく低いだろうと想像に至るのは難くない。


「私はちょっと用事でパパに手紙を出してくるけど、その後に酒場でご飯でも食べない?」


「悪いね。俺らは来る前にメシは済ませてきたんだ」

「俺もお腹は減ってないよ」


「そっかー。じゃあ私は清流の白鳥亭て宿に泊まるからまた後にでも」




「俺らは外壁の外にでも野宿するよ、なっ」

「そうだね」



「それはやめた方がいいよ。街の中は安全だけど、帝都ディアリーはアナグラ王国以上に人口が多いし野盗や盗賊も活発なんだ。外で寝たりなんかしたら路銀すぐに奪われるよ。だからリスク分散の為に貴金属や宝石の装飾品にして隠し持つのは鉄則なんだ」


 へぇ~怪力のパエリアでも、旅の危機管理はちゃんとしてんだな。いや遠くから来てるのだからこそリスク管理には気を使うか。



「師匠。まず両替商のとこにいかないとお金使えないよ」


「それもそうだな」


 帝都でアナグラ王国通貨を使う場合多くは、天秤を使って通貨と商品が見合うかどうか分銅で量りながら採寸をとる方式だそうだ。そして天秤が水平に釣り合ったら商品売買の成立だ。


 これは商人同士の商取引の間でもよくつかわれる方式でもある。

 他にも信用取引きとか、普通に貨幣で商品のやりとりをするスタンダードな方式もあるそうだ。なんにせよ宿屋でアナグラ王国通貨を使おうものなら、すぐさま嫌な顔をされるらしいので両替商のとこへ行く。


 両替商は川沿いのにある屋根伝いの尖塔アーチの下にいた。

 吹き抜けになっており雨風を凌ぐ為、また計量に慎重を要する為の建物であろう。アルフレンドの街なんかは建物すらない青空教室だったのに。




「両替を頼む」


「あいよ何に交換だい。ここじゃもっぱらあアナグラ王国かゼブラインの硬貨を、レジスト硬貨に変えていってるぜ。たまに遠方からアシスト連合国家の貨幣を両替する者もくるよ」


「レジスト銀貨、それと銅貨に両替を頼む」


「レジスト銀貨15枚とレジスト銅貨42枚だ。手数料を3パーセント引かせてもらった額だ。銅貨はこの枚数でいいかね? もう少し多めに持っておいてもいいと思うよ」



「それじゃレジスト銀貨1枚分を銅貨に頼む」


「あいよ。レジスト銅貨64枚だ」


「この帝都には小銀貨はないのか?」


「国王が細かい単位や、アナグラみたいに通貨ごとの名称は分かりずらいってんで、統一したのさ。みんなが数の算術知ってるワケでもないからね。アナグラみたいに。代わりに大金貨はあるがね。主に投機用や貴族の結婚のなどに使われる貨幣さ。一般にはあまり出回らないよ。これ一枚見せりゃ宿の確保、馬車の利用、商品の仕入れなんか便宜を図ってもらえる金貨さ」



「なるほど色々参考になったよ」



 両替商に礼を言ってから、宿の確保する。

 宿屋の下にある一階部分の馬宿、つまり馬小屋の空きスペースが今日の寝床だ。


 銅貨10枚の格安宿だ。

 ふところに余裕がないからな。


「ホウキーホウキーはいらんかね」


「インク壺に羽ペン、真っ白い紙はいかがですかー。代筆も請け負うよー」




 路上では個人販売してる呼売商人が多く、それも若い連中ばかりが目立つ。話を聞いてみたところ路上販売に許可はいらないらしい。


「随分と商売の盛んな国みたいだね」


「ああ。許可がいらないってのはチャンスだ、金脈の匂いがする。ルクスお前は雑貨を売ってくれ、俺は料理を販売しようと思う」



 さて販売許可があるならこっちのものだ。売りまくってやるぞ。

















レジスト大金貨の価値はレジスト金貨11枚分の価値。金含有量ではなく流通量の関係で高い価値となっており、ほぼ相場の変動はナシ。

ラファエル工房で鋳造された天馬の模様をしている。サイズは500円ほどの大きさ。

超絶プレミアム硬化などは流通のバランスが崩れるので存在しません。


ご意見、感想などありましたら泣いて喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ