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いざ帝都ディアリーへ

 

「あの、危ないところをありがとうございました」



 少女は俺たちと、ドワーフの少女に向けペコリと頭を下げる。

 別に何もしてないんだけどな俺らは。


「いーのいーの。どうってことないから、それより貴方この辺の子じゃないよね? 私は帝都に行きたいんだけど生憎、船渡しが全部予約で埋まっていけないのよ」



「でしたら、ここを真っ直ぐに行って海岸沿いに向かってください。一本杉が見えるのでそこを左手へ。進むと突き当たりに石畳の階段が見えるはずです。そこを降りた家でこう言ってください」




「赤い船渡しの乗り手に会いに来たと」


「料金とかはいくらなの?」



 ルクスが質問をする。



「レジスト銀貨1枚です。アナグラ国ならミル銀貨ととミル小銀貨1枚ですね。速度はどこの乗り手より速いのですが、ヌシがいるかどうかは分かりません」



 ヌシと言う言い方に違和感を覚える。

 なんか凄い筋肉ムキムキのベテラン船渡しでもいるんだろうか。



 そうこうしてる間に、衛兵が仲間をゾロゾロと引き連れ、いたぞ! と声を上げた。

 時間は待ってはくれない。36計逃げるが勝ちである。


「ちぃっ! 仕方ねえ逃げるぞルクス!」



「うわっ……! 大人数だよ」



「ちょいと分が悪いわね。その船渡しのとこへ急ぎましょう」



 俺たちとドワーフ娘の見解も一致して、紹介された船渡しの場所へと走る。



「そこの狼藉者待てっ!」

「あの男二人とドワーフの娘だ、応援をよべ!」




 バカか! 待てと言われて誰が待つかよ!


 クソっ……前にもこんな展開あったな。

 ルクスとドワーフの娘は足が早く、俺は後ろから二人を追う形となる。


 道行く人達の波間をかき分けるように進んでいくと、怪訝な目を向けられるこの状況。どう見ても衛兵に追われる俺たちは悪者だと思われてることだろう。




 クソッこのままじゃ、追いつかれちまうぞ!

 体力がもたねえわホント。

 前の二人は俺をどんどん引き離して進んでいく。


「ダスト! ダスト! ダストぉおおっ!」


 俺の後ろらへんにビール瓶を頭上から召喚し、粉々になった即席トラップを仕掛けた。


「ぐわぁっ足が!?」

「気をつけろあの男奇妙な術を使うぞ!」



 ひぃいいいいいいっ!

 ほとんど効果ナシかよ。

 一人が足をやられたようだが、残りの団体様は器用にビール瓶の破片を避けて走ってきやがる。



 そして平らな石に囲まれた砂に生える、一本杉が見えてくる。

 ここを左手に曲がってと!ちょいとお行儀が悪いが、近くにあった木の四角い空箱をドガン、ガシャッンと後ろにぶちまけてやった。





「クソっ! 諦めの悪い奴らだ」

「暴行罪及び 治安維持法、備品破壊も追加だ!」



 ぐわぁああああ!

 罪が派手に上乗せされとる!?

 俺は大して悪くないのにアッタマにくるぜ!


「ポケット・ダスト! 喰らいやがれ!」


 灰色の(グレイパープル)を後ろに振りかぶり、投げてやった。


 カプセルが割れると煙はたちどころにもくもくと広がり、衛兵のやつらは小麦粉の粒子で咳こんでいるようだ。



 はっはっはっはっ! ざまあみさらせ!




 時間を稼いだところで少し余裕をもって走っていると、やがて突き当たりに出る。説明の通りジグザクにある石畳の階段を降りると、木のボロ屋をノックしているルクスとドワーフ娘の姿があった。


「師匠無事だった!?」


「なんとかな。それより船渡しは出てこないのか?」



「さっきからノックしてるけど、出てくる様子がないのよね」


 クソっ……万事休すってとこだな。




 と諦めかけていたその時、ドアが開いて噂のヌシが現れた。


 …………ヨボヨボで腰の曲がった白髪の爺さんが出てきたんだが、この人がヌシなのか? なんか身体がプルプルしてるし大丈夫かよ……。




 まっ……まあいい。

 さっそく交渉しよう。

 あれ、合言葉なんだったっけ? 確か赤の乗り手がどうのこうの聞いた気がする。


「その俺たちは、赤い彗星の乗り手を探していて」



「はて、なんですとー? 野菜の販売なら間に合っとりますわい」



 トンチンカンな回答が返ってきた。


「違うよ師匠! 赤い船渡しの乗り手に会いに来たんです」


 そうそう、それだそれ。


「はて? 税金ならこないだ払ったじゃろうに。また税金の催促とは、まったく気が滅入りますわ。ちょいと待っておれ」


 この爺さん耳まで遠いのかよ!


「お爺さん」


 ドワーフの娘は部屋に戻ろうとした爺さんの肩をガッと掴む。

 そして無遠慮に形耳を引っ張り大声で叫んだ。



「赤い乗り手の船渡しに!!! 会いに来たのよ!!!!!!  急いでくれるかしら!!!!!」


 辺りの空間を穿つかのような、大きな声で耳がキンキンした。

 腹まで響いてくるような声量に、思わず両の耳を塞ぐ格好をとる。


「なんじゃなんじゃ。そうならそうと言ってくだされ。ちょいと待っとれ」



「さっきからそう言ってるよ。もうっ! 時間がないっていうのに!」



「それに、あんなヨボヨボの爺さんに舟乗りなんて、出来るのかしら?」


 ドワーフ娘の言うことはごもっともだ。

 多分この子が漕いだ方が数倍速い気がする。


  部屋から戻っできた爺さんは、海辺にいきなりパンを撒き始めた。



  ……もう頭痛くなってきた。


 完全にこの爺さん耄碌してるんじゃないか?

 疑念の塊が暗雲となり、俺やドワーフ娘もイライラとした様子でその光景を眺めていた。




「おい爺さん。遊んでる場合じゃなく俺たちは急いでるんだ。釣りの撒き餌をするなら後にでも……」



 海の底からぶくぶくぶくと、泡が浮いてきて波紋を海面に作る。その波紋は次第大きくなっていくので俺は何事だろうと海面を見つめているとだ。


 ざばぁああああん!



 と海面からソイツは姿を現した。

 とてつもないバカデッカいコイが姿を現した。

 パッと見て小さいクジラぐらいのサイズはあるぞ!




「うわぁあああああああ! なっななな、なんだコイツ!?」


 ルクスも俺と同じようなリアクションを取っているのに、ドワーフの娘はあら可愛いコイさんなんて、おどけている。


 うぅう……目があったんですけど。

 あまりに規格外のデカさで、グロテスクを通り越している!

  あのパクパクさせてるデカイ口で、いきなり丸呑みとかされねぇよなぁ……。


 爺さんがロープを用意すると、ヌシは呼応するように水面に顔を突っ込み尻尾を浮かせた。


 爺さんはヌシの尻尾に、ロープをグルグル巻きにしている。



「ほっほっほ。お主ら運がいいのう。ヌシは女子がおらんと運転が荒い。途中でロープが切れることもあるが、それは運次第じゃ」



 いきなりフラグを立てるのは止めてください。


「見つけたぞ!」

「袋のネズミだ追い込め!」



 来やがったか!


 衛兵からの船までの距離、石畳の狭い階段を降りてせいぜい20メートルってとこか。ここで時間を稼ぐより他はない。


 頼むぜ一ついいもの出てくれよ!


「ダスト!」



 ポンッとコミカルな音と煙の中から現れたのは、ロケット花火である。


 こいつに運命を託すしかないな。



 俺が袋からロケット花火を取り出していると、衛兵たちが降りてきて長いヤリを向けてきた。


「観念しろ犯罪者どもめ!」


「大人しく縄についてもらうぞ!」


「師匠準備できたよ! 早く!」



「まーまーそう慌てなさんな。祭りの最後はドカンと景気のいいやつをぶっ放すのが相場だ」


 俺はロケット花火を両手に抱えて、口にもセットし火をつけた。


 火花がジジジと点火の時に近づく。


「おのれ! また奇妙な奇術を使うつもりだな捕らえよ!」


「もうおせーよ」


 ひゅーん!

 ひゅーん!

 ひゅーん!

 バババババババババババババ!


 やや最初の花火に遅れてロケット花火が次第に発射されてゆく。


 初めて見るであろうロケット花火の音と光の衝撃に、衛兵達は体勢を崩しドミノ倒しでもするかのように怯え尻餅をついている。


「なっ……なんだ!? 全員無事か?」


「うぅうう……なんと恐ろしい奇術を使う男だ!」


 よし船に乗るぞ……ってもう出てるじゃん船。


「これに捕まりなさい!」


「師匠! ダメだもう間に合わない!」


 ドワーフの娘は俺の方へ向け、オールを差し出してるいるが、飛ぶにしてもすでに距離3メートルはある。


 そこに風が順風が吹いてきた。

 正に神風としかいいようのない風が。


 すぐに思考はある一つのアイテムへと直結する。


「ポケット・ダスト!」


 エルフの狩人娘、ヨヨイからもらった風の衣である。

 すぐさまそれを身に纏う。


 ヌシの足は速くすでに4メートル、5メートルと離されている。

 ホコリまみれの記憶の中から、遠い昔のガキの頃に川を飛んだ記憶が突如として蘇る。俺は覚悟を決め助走をつけ飛んだ!



 ぶわりと身体が宙に浮く。


 身体が軽い……羽でも背中に生えたみたいだ。


 数メートルは宙に浮いており、すでに真下は海の上。


 着地点の遠ざかる船を目掛けジタバタと身体を動かすようにすると、まるで俺に意思に呼応するように風が吹き付けてきて浮いた身体は直滑降で船へと着地することが出来た。


「うわぁっと!」


 着地の衝撃で船が揺れ転びそうになったとこを、ドワーフの娘が支えてくれた。


「師匠良かった……あのまま取り残されるのかと思ってハラハラしたよ!」


「貴方、なかなかやるじゃない名前は?」


「アツトだ君は?」


「私はパエリア=アルタイルよ。よろしく」


「……アルタイルてどっかで聞いたことあるような」


 あぐらをかくルクスが、頬杖をついて思考を巡らせている。


「そうね私のパパ。けっこう有名だからドワーフの首領よ」


「え? え……? ドワーフのお姫様?」


「あらやだ。姫だんて大層なモノじゃないわよ、ただの族長の娘」


 つまりさ、それって……けっこうな大物じゃねーか!


 ヌシの速度は噂どおり速く左右にゆらゆら、動きながら進むので俺は船酔いしグロッキーになりながら無事に帝都ディアリーへと到着したのだった。


 おえっぷ……は、吐きそうだ。



ご意見、感想などありましたら作者が泣いて喜びます。

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