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氷だって売れるんです

 

 結論からいうと、俺達は灰鉱山バルブに登頂し無事に帰ってきた。


 片道5日の道のりで1日辺りミル銀貨5枚。

 廃鉱山バルブでの護衛金ミル銀貨15枚。

 それをクロエとフィンカの二人分で、計銀貨55枚の借金。

 さらに文ナシだったので、旅費のミル銀貨20枚を借りた。


 累計銀貨75枚の借金! 

 ある時払いの利息なしだけど、この銀貨の価値は今の俺には非常に重たいものだ。


 鉱山が想像する以上に、危険な場所だったので護衛料を上乗せされたし。

 それでも通常の護衛料より一応面識あるからってことで、まけてくれたようだ。

 傭兵の護衛料は、安くとも最低で1日でミル銀貨10枚くらいはするらしい。



 この世界の貨幣価値が少しずつ分かってきたが、

 ミル銀貨10枚を物価に換算したら……そうだな。


 食事なしで、湯もつかない安宿だと宿泊9日分ほど。

 イレアさんとこの、孤児院の食費に換算すると月の1/3くらいか。

 ちなみにミル銀貨10枚で【1キーク】という単位になるようだ。



 正確に価値を計るのは難しいが、当たらずとも遠からずてとこだろう。


 ……ともかくその甲斐もあって、苦労しアルビオネの根を持ち帰ってきたのだ。余計に効果に期待してしまう、魔法のように即効いて完治したなどは望まないが、現状より良くなってもらわんと全ての労力が水の泡と化す。


 今はそれほどパールの病状が悪いようには見えないが、

 薬がないと咳こむことが多いのだそうだ。

 ルクスが買ってきたアルビオネの花を、小さく小分けしたのをこれまでは飲んでいたそうだ。


 それから少し気になることがある。

 アルビオネの花だが……花より根の方が効果は高いそうだが、花でも飲み続けると効果はきちんと出るそうだ。と回復と癒しを得意とする元リネン派魔術師のクロエが言っていた、それが1年以上飲み続けても現状維持ということは、もしかするとルクスは騙されていたのかもしれない。


 ルクスに薬を卸してた薬師は、ドフォール商会の子会社に所属するそうだ。

 どうにもドフォール商会と聞くと、俺はキナ臭いイメージをもってしまう。

 今、こっそり花の残りをクロエに解析してもらってる。


 専門の研究所でないと解析できないので、

 渡り鳥を使って山奥にいるリネン派の知人に送らせたそうだけど、

 どうなることかな。俺の杞憂だったらいいんだがな。


 だからアルビオネの根を、すり鉢で擦りおろしたお茶を飲もうとしてるパールの一挙動に、万感の期待を込めて視線が注がれている。


「そんなに見られると……飲みづらいな」


 と言いごくごくお茶を飲み器を空になった器を手元に置くパール。


「どうだ!?」


 ルクスが身を乗り出すような勢いで反応を待つ。


「苦い……そんなすぐには分からないよ。それに少し眠くなってきたから、ちょっと寝るね」


「そっか」


 確かクロエの話によると、飲んでから数時間はしばらく熱が出るそうだと言ってたな。


「ダスト!」


 俺はボールにサイコロ状の小さな氷を召喚し、

 スーパーにある透明なビニールに小分けする。


「しばらく熱が出るそうだから、ちょくちょく氷で頭冷やしてくれ。ちょいと出るぞルクス」


「あ。うん、お前らあと頼むな」


「わかったールク兄」


 ひとまずパールの件は落ちついたと見ていいだろう。

 さっそくこの重たく背中にのしかかる、ミル銀貨75枚の借金をなんとかしないと。


「どこ行くの師匠?」

「金を稼ぐ算段をつけんだよ。文なしどころか借金銀貨75枚もあるんだぞ、約7キークか」

「大変だよね銀貨75枚もあると」



 フタエノキワミィイイイァアアー!。


 しゃがみこみ両手で頭を抑えるルクス。

 瞳に涙を浮かべ俺の方を非難がましい目で見る。


「っいてぇっ! 何すんだよ!?」


「呆けてんじゃねえぞルクス。俺の借金はお前の借金でもあるんだ、もう忘れたか」

「……そ、そっか」



「おいどこで見てるんだ!」

「すっ、すいません」

「ぬかるみにはまっちまっただろうが!」


 と近くから声がしたので首を巡らせた。

 聞こえる内容のとおり、ぬるかるみに馬車の前輪が嵌ったようだ。その場から馬が動けずヒヒーンと荒ぶっている。豪雪で動けない車をふかしたエンジンの、空回りの音に似た印象を受けてしまう。


 あっちは馬車を後ろから押していて、俺達の存在に気づいてないようだ。


「手伝うぞルクス」

「うん」


 4人で馬車の後ろから押すと、ぬかるみにはまった車輪が小さく動いて、慣性の法則をとり戻した馬車は本来の力を取り戻す。



「一時はどうなることかと思った助かったよ。この辺りは人ッ気もないようだからな」


 見た目は海賊のような豪気な男は、

 それまでの苦労など何でもないとばかりに、辺りを見渡し豪快に笑う。



「確かにこの辺りは人がいないもんでね。ところで荷台のタルには何が入ってるです?」


 荷台にはタル箱6つと、四角い箱がいくつか平積みにされていた。

 馬車の両脇より背があるからか、落っこちたり転倒しないようにタルはロープでぐるぐる巻きで結ばれている。横の空いたスペースを有効利用するがごとく、木材もいくつか積まれていた。


 これだけの荷があるということは商人だろうか?

 パっと見て、そう思うのも無理もない量だ。


「ああこれか? 魚や塩だの海の見える街シオンベゼネで買いつけた。これを大地と実りの町ローローにもってくのさ」

「魚の鮮度は大丈夫なんですか? ローローといったらけっこうな距離があると聞いたんですけど?」


「そこよ! あそこは酒で有名な街で海はねぇから魚は高く売れる。かといって移動距離が遠い、魚の鮮度が落ちるから宿無し覚悟で交代で馬車を走らせなきゃならねえ」


 俺は相槌を打つ。


「かといって時間とともに目減りしていく魚の鮮度は、いわば金を荷馬車の中からこぼしながら向かってるようなもんさ。今回は高名なドワーフとやらが来てて、シオンベゼネでしか獲れねえアナグラエビや魚を所望しててな、無事に着いたら魚につく値段はべらぼうなもんに跳ね上がる」


 なるほど……やはり海のない場所だと、海の幸は高く売れるのか。

 敵将である武田信玄に塩を送った上杉謙信の逸話を思いだす。


「おっと話しこんじまったな。急がねえといけねぇ」


 俺に礼を言い、荷馬車に戻ろうとする男の背を見てそこで閃いた。


「氷はいかがです? いくらでも用立てますよ」

「こおりぃ? おめーさん何をいってここは草原だし、こんなことに氷があるはずが……」


 てっとり早く論より証拠だ。


「ダスト」レベルゼロ。



 俺はコンクリートブロックほどのサイズの氷を召喚し、

 その場で山のように一瞬で積み上げてみせた。

 ガシャガシャガシャガシャと氷のすれる音とぶつかる音。

 ないはずの草原に、砂場で子供が時間をかけて作った砂の城のように積まれていく氷の残骸たち。


 まだまだいくらでも召喚可能だ。

 それに、サイズも量も蛇口の水をひねるようにイメージで調節できる。



 海賊のような見た目の男は目を丸くし、ぺちゃんと尻を地面について驚いている。


「これを買い取っていただけませんか? いくらかは鮮度を保つのに使えるでしょう。価格はそうですね、貴方がきめてください。最低銅貨1枚からでいいです」


「お……俺は夢でも見てるのか?」


「ほら目は覚めましたか」 


 俺は氷の欠片を男に渡した。

 男は呆然とした様子で、手の平で溶けていく氷を見つめ俺の方をバッと見る。


「つ……つめてぇ! 本物だ! 北の高山でもないのにこの時期にどうやって!?」


「種も仕掛けもないですよ、それで、この氷の値段いかほどで買いとってもらえますか?」


「へっへ。もうけもーけ!」

「やったね師匠! タダ同然でミル銀貨5枚だなんてすごいよ!」



 男は世話になったと礼を言い、魚何匹かとアナグラエビを俺達に譲って馬車を走らせて行った。


「これは……氷で一稼ぎできそうだな」

「さっきみたいに商人を捕まえて売るんだね」


「違う、さっきのはタダの偶然だ。氷を必要としてるのはどんな商売してる人間だと思う?」

「えーと魚を売る商人とか?」


「半分は正解だ。それを確かめに行くぞ」

「師匠どこへ?」


「決まってんだろシオンベゼネだよ」





予定より遅くなりました


貨幣まとめ

主にアナグラ王国通貨基軸

トル銅貨

ミル小銀貨

ミル銀貨(銀含有量80%)

シル金貨


1カーク トル銅貨10枚の単位

1キーク ミル銀貨10枚単単位

1トーク シル金貨10枚の単位

大金貨などは存在しない



帝都ディアリーの硬貨

レジスト銀貨(銀含有量90%)

偽レジスト銀貨(銀含有量約40%)

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