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諸々の事情

 

 ……さてさて。

 この子ども達の処遇をどうするかだ。

 チラリと見るベッドの女の子は病弱みたいだし、旅に全員連れてくのも難しい。


 アルフレンドに連れていって、イレアさんの孤児院に預けるのが一番いい案だと思う。きっとイレアさんは受け入れてくれるだろう。


 だけど、それは責任を丸投げしただけで、

 結局はイレアさんの負担になってしまうだけだ。

 優しさの責任をとっていない。

 そんなものは偽善だ。

 奴隷を買って恩着せがましく、

 当然の義務だと奉仕をさせるヤツと何ら変わりない。


 預けるにしてもそれなりの支度金がいるだろう。

 やれやれ、世の中何かといえば金が絡みつく。

 金貨がないとはじまんねーぜ。




「あの……その俺、商売とかやったことないんだけど。何も分からないし」



 不安そうにルクスが言う。


 まあ、この身売り同然みたいな状況で、いきなり商人やらないかと言われ不安になるのも無理もない。



「大丈夫だ。俺もまだ駆け出しでな、ゆっくり覚えていけばいい。シンプルに考えてくれ、物を仕入れる、仕入れた物を売る、これだけさ」



「そ、……それなら出来るかも。けど数字の計算が分からないし」


 マジか。

 それぐらいなら俺でも教えれるけど。

 このアナグラ王国が10進法で助かったよ。

 他の国がどうなのかは知らんけどさ。


 12進法とかだったら、釣り銭渡すときに、あわわわわわわっ!? サーセンちょっと計算するんでお待ちください!


 とかなっただろうなぁ。

 容易にテンパる自分の姿が頭に浮かぶな。


 ……というか雰囲気がかてぇ!

 リシェルのやつが暴力を振るったから、張り詰めたように空気が重い。まぁ、アイツが全部悪いってこともないんだけどさ。


 やれやれこの空気が弛緩するには、もう少し時間が必要かな。





「メシは食ったか?」


 子どもらは首を横に振った。

 じゃあ久々に出しますか!



「ダスト!」レベル3!×4。


 ポンポンポンっとコミカルな音と煙の後に、宙から舞い降りてきたのは天丼だ。中身はエビ、イカ、かぼちゃとかが入っている。


 ちゃんと、めんつゆもご丁寧に入っているな。

 俺の分はいらない。イレアさんからもらった食料あるし。何かあった時の為にダストのストックは残しておくべきだ。こないだの盗賊の一件もあったしな。


 備えあれば憂いナシだ。



「何今の?」

「何もないところから降ってきたよ」

「美味そうな匂いがする」


 子供らが天丼におそるおそる近づく。

 初めて見る食べ物に、興味しんしんといった様子。


「おーいチョコレー」

「はいお呼びでしょうか主様」


 いつものポジションに現れたチョコレー。

 貴族のような振る舞いで、ダンボール製のシルクハットのような形の帽子を脱いでおじきをする。


 だが容姿からして、コミカルなチョコレーの振る舞いは、人形劇で踊る陳腐な道化のようにしか見えん。


 まあ、それはいい。


「賞味期限について聞きたいのだが、この天丼て喰えるのか? 鋼鉄の胃袋をもつ俺はともかく子供らまで、腹痛になったら困るからな」


「これは、たった今召喚したものですか主様?」

「そうだが」


「でしたら問題ありません。食べ物を召喚する際は自動で精査して召喚しておりますので、食中毒など危険のあるものは召喚する際に弾くようにしていますから」


「なるほどな。それなら大丈夫そうだ、これ食べていいぞって……」



「こ、ことばしゃべってる。しかも動いてるよ」

「……変な生き物がしゃべってるよルク兄」

「危ないから、知らない生き物には不用意に近づくな。虫に刺されるぞ!」


「コラそこの者。私は虫などでなく偉大なるゴミの主神マヨラー様の遣わし精霊、序列にして第3位。超ダンボールのチョコレーと申す。今後は虫などと一緒にしないように願いたい」


 ……このやり取り、若干デジャブ。


 俺はスキルと精霊について、子供らに説明をする。



「精霊てもっと可愛いらしくて、素敵な存在だと思ってた。夢が壊れた」



 とベッドに腰掛けてる女の子が、

 憐れんだ目でチョコレーを見ながら呟いた。



「な……なんと。このチョコレーこの世に生を受け700年と20年。虫扱いされオマケにポンコツで存在価値がないと言われるなど不徳のきわみ。しばらく旅に出るので放っておいてくださいっ」



 ……泣きながら虚空に消えていきやがった。

 そこまで誰も言ってねーし。

 豆腐メンタルかよ。


 とりあえずチョコレーは放っといて、

 全員に自己紹介してもらう。


 紅一点、女の子の名はパール。

 坊主頭の男の子がジェード。

 若干、出っ歯な男の子がアンバー。

 そして、俺の弟子になった眩しい金髪小僧ルクス。


 この中で最年長なのがルクスで年は12才。

 家はあばら屋同然の無人の小屋をルクスが中心となって、改造したらしい。



 家の裏の畑で作物を育てて、日々を凌いでいたらしい。一日1食か2食の生活。食うだけならそれでもなんとかなった。


 肺を患っている病弱なパールの薬を買う為に、盗みを働いていたらしい。悪いことなのは重々承知しながらも、生計を立てる為に止まるに止まれなかった胸の内をルクスは語った。


 俺の時のように金を盗む時には、そこいらの物売りの小僧とか商会の下働きの小僧に金を渡して利用するらしい。


 ただ、あっちで買い物したがってる人がいる。

 そう告げるだけ。


 利用された方は商会の下働きの小僧辺りなら、店や店主の名に傷つくのを恐れて口を紡ぐそうだ。


 いいか悪いかは置いといて、

 なかなか考えた作戦だと思う。



「さあ湿っぽい話は、この辺までにして食おうか」



 子供らは、箸文化がなく使い慣れてないので、ダストでプラスチックのスプーンを出した。レベルゼロのスキルは何かと役に立つもんだ。


 最初の一口は戸惑いながら口へと運ばれて、しばらく咀嚼した後に、ガツガツガツと勢いよくかっこむ。



「うめえぇよコレ!」

「揚げたエビと、この白いつぶつぶが美味しい」

「味のついたこのソースがいいね、いくらでもお腹に入りそう」



 評判上々てとこだな。

 ちょいと気になるのが、パールがほとんど手をつけてないことだ。労わるように優しく声をかける。



「悪いね。口に合わなかったか?」

「そうじゃないんですけど、ちょっと食欲がなくて重くって……」


「パールはスープとかもしくはスープに浸した柔らかいパンとか、シチューくらいしか受けつけないんだ」


 とルクスが、慈愛と労わりを込めた眼差しをパールに向け補足する。


 病弱な子に天丼はちょっと重いか。


「ちょいと、かまど借りるぞ」


 天丼の米だけ土鍋に放り込んで、米の量に対して水を多めに入れて煮込む。塩をパラパラと少々入れ、フタをして40分ほど煮込んでお粥完成っと。


 お粥のお供に、梅干しかたくわん、鮭が欲しいとこだけどスキルが、ランダムすぎるからなぁ。


「これなら口に入ると思うぜ」

「うん……これは食べやすい、です」


 食べる速度は遅いが一口、二口とちょっとずつ中身が減ってゆくことに安堵する。


「そういや思い出した。ヨヨイからもらった回復の魔法がこもった水があったんだ」



 ピコーンと電撃的に思い出した。


「はいエルフの千年樹だかの葉を浸して、回復魔法を込めた水だそうだ。身体にいいと思う」


「いいんですか……エルフの薬ですよね、こんな高価そうなの頂いても?」

「俺はピンピンしてるからな。遠慮せず飲んでくれ」



「甘い……凄く不思議な味、それに身体の奥からポカポカしてくる。私ね、もし死んだら次はエルフになりたいな。大自然に囲まれた生活って、とっても素敵そうだもの」



 なんて遠い目をしてパールが言うもんだから。


「そんなこと言うな! 今まで皆で必死にやってきたじゃんか! まだいくらでも先があるだろ!」


 とルクスが諌める。


「ぐすっ……ぐすっ……死んだら嫌だよパール姉ちゃん」


「みんな……ずっと一緒だって約束したじゃん」


「ごめんね……だけど私、ずっとみんなの重荷になって、迷惑ばかりかけてるし」


「いいんだよ迷惑かけても! 血は繋がらないけど家族だろ俺たちは!」


 子供らは感極まって、嗚咽を上げ泣きだししまう。




 ……もの凄い疎外感。

 なんで、こう湿っぽい感じになるかなぁ。


 俺完全に空気じゃん、蚊帳の外すぎる。

 さすがに一緒になって泣くほど、感情移入はしてない。会ったばかりだし。


 それに、オッさんがここで大泣きしても、不気味なだけだろ。


 やれやれ。


 苦手なんだこういう空気は。

 ほとぼり冷めるまで、しばらく外の空気でも吸ってくるかね。俺は、お涙ちょうだいのドキュメンタリー番組は嫌いだ。正直反吐が出る。


 多分それは自分にとって、存在が遠いからだ。


 だけど子どもらの現状は、

 決してブラウン管の向こうの出来事じゃない。


 リアルなんだ。


 俺にしてやれることといえば経済的な援助くらいか。果たしてそれがいいことなのかは分からない。一時的なものだし金……いや言い換えればゆとりを持つことで、ダメになる人間だっている。


 考えすぎだろうか。

 まだ責任能力すらロクにない子どもらだ。


 静かにドアを閉め外へ出る。


「あータバコ吸いてぇな」


「ホレ」


「あっ。わりぃーね……ってミリーン!? いつの間に?」


 宙に浮かぶミリーンが羽をはためかせ、いつの間にか俺の側にいた。



「あのポンコツが泣きながら、走り去っていったから、ちょっと様子見に来たのヨ」


「ほーう。お前にしては気が効くな。しかも俺の好みのマルゴトメンソール8ミリときた」


「たまたまヨ。アンタのホシに旅行に行った時に拾っただけ」


 どうせ、そんなことだろうと思ったよ。

 てか、こいつ絶対に暇人だろ。

 何にせよ久々にタバコが吸えるのはありがたい。


 タバコに火をつけ紫煙を宙に吐く。


 ふぅーおちつくー。


「事情はだいたい聞かせてもらったわ。人の世も色々あって面倒なもんね。私が言うことじゃないけど、お金があるから格差ができるのヨ、資本主義には限界があると思うわ」


「おっと。それを言われたら資本主義である商人はどうしたらいいんだ?」


「知らないわヨそんなもん。自分で考えなさい、だいたい商人て言えるほどに金貨を儲けたのフロンジ(浮浪児)?」



「お前……自分で話し振っておいてバッサリて、そりゃないだろ」


「だったら、上手い切り返しできるように立ち回ってみなさいヨ」


「あの……」


 会話の最中にルクスがドアを開けて、俺の横にちょこんと座りこむ。



 ルクスから会話を切り出すのをしばらく待っていると、ミリーンがルクスの髪を飛んだまま、真上に引っ張る。


「じれったいわね! さっさと喋りなさいヨこの金髪ショタ小僧!」



「いててててっ!? なんだこのピンクの変な生き物!?」


「 全精霊のアイドルこのミリーンちゃんを捕まえて、変な生き物ですって!? 目が腐ってんじゃないの、今すぐ眼球洗浄してきなさいヨ!」


「いててて!? もうっ鬱陶しいな、しっしっしっし! あっち行け!」



「このミリーンちゃんを虫扱いするとは、いい度胸ね! いいわヨとびっきりの電撃を食らわしてあげる」




 互いにバチバチと火花を散らし、白い歯を見せて猫みたいに威嚇しあっている。



「はいストップ、話が進まないから止めろ。で、何か言いたいことがあるのかルクス?」


「うん。何でサイフを盗んだ俺に、こんなにしてくれるのかなって……正直何か裏があるんじゃないかって疑問もあって。そりゃ俺に四の五の言う権利がないのは分かってるけど、どうしてもそこんとこを聞きたくて」



「裏はねえよ。ただ勝手に身体が動いて、こういう成り行きになっちまった」


「裏はないわヨ。ただ勝手に身体が動いて、こういう成り行きになっちまったわヨ」


 俺の方を見ながら、口を意味有り気に尖らして声真似だろうか。俺の言葉をなぞるミリーン。素で言ったんだから、余計にこっぱずかしいわ止めろ!


 ミリーンにビンタをしようと手を払うと、やつはニョホホホと笑いながら虚空へ消えていった。クソっいちいちムカつくやつだな。



「で、さっきの話の続きだけど」

「あっ、うん。はい」


「パールの病気を治す手立てはないのか?」



 しばらく言い淀むルクス。

 事態はそれほど重いんだろうか。



「あるにはあるんだけど、廃坑山バルブっていうとこの山頂にあるって言われてるんだ。そこに咲くアルビオネの根を煎じて飲めばいい」



「なんだ簡単じゃないか。じゃあそこに行ってそのアルなんとかの根を取ってこよう」


「でも……でも遠いし危険な生き物が出るんだ。外壁にはロック鳥や中にはスパイダーブレインて大蜘蛛や、頂上にはグリフォンまで出るって言われてるんだ。だから……だから少量のアルビオネの花をお金出して買ってきたんだ」


 グリフォン?

 いや都市伝説だろ、いくら異世界といえどそんなのが存在してたまるかってんだ。



「治るんならいいじゃねーか。いいじゃないか失敗しても、最悪死ななけりゃいいんだ。進んでみようぜ望みに向かって。それでパールの病気が治ったら、馬車を買って旅をしよう。世界中をな」



「だけど俺……そんなお金ないよ」


「お前の給料から、天引きするから心配すんな」



「ありがとう……本当にありがとう師匠」



 師匠か……ふむ、なかなかいい響きだ。



「師匠てさ」

「なんだルクス」


「真顔でけっこうキザなこと言うんだね」

「うるせえ!」


 ……ったくどいつもこいつも。

閲覧ありがとうございます。

よろしければ、新作ぼくらの異世界革命と合わせ合わせて応援していただけたら幸いです。


気づけば20話で、未だヒロイン一人すら出てきてないことに気づいた今日このごろ。


次回更新〜明日の夜

氷売り無双

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