ゴミの神様からの贈り物
信じられん。
ここはどこなんだ?
落ちつけ! 落ちつくんだ俺!
背中に剣を背負った戦士風の男、人を掻き分け進んでいく2頭立ての馬車。
極めつけは、猫耳のような耳をした女の子が歩いてくるぞ。
マジで異世界かも…。
「おい邪魔だよ。雑踏で何やってやがる酔ってんのか? ゴミを片付けとけよ」
ターバン頭に巻いたおっさんが、俺を睨めつけながら文句を言って素通り。
ゴミ箱も転がってるし、状況は似ているが肝心の弁当がない。
おっ! 目の前にリンゴだ!
たっぷり蜜の入ってそうな赤々としたリンゴが1個、転がっている。
あ、ありがてえ!
俺がリンゴにプルプル震える手で手を伸ばすとーリンゴがひょいっと、何者かに持ち上げられた。
「お……俺のリンゴ」
「コレ、アンタの?」
短めで露出度の高い服を着た18才くらいの女の子だろうか。その子が俺を見下ろしながら、ぽーん、ぽーんとリンゴを宙に浮かせては、手の平で遊ばせている。
「へっへ〜。じゃあ貰ーいっと」
この小娘!
俺の話を聞いていたのか?
こんな今にも腹が減ってくたばりそうな、ホームレスからリンゴを略奪しようなどと、この異世界は腐りきってやがる!
「ま、待て! 俺のリンゴ」
「毎度!」
俺の願いも虚しく、小娘は小悪魔的な笑みを見せると颯爽と去って行った。
なんだ、あの腐れビッチは!
何が毎度じゃ! 俺のリンゴ返せよ!
道行く人達は俺に、怪訝な視線をおくりながら素通りしてゆく。
無関心な足音だけが聞こえてくる。
人は何故、腹が減るのだろう。
何度も何度も味わいその度に抗ってきた、この空腹に。いっそのこと植物だったなら、食わなくても生きていけるのに。
いいないいな、光合成っていいな。
そうだ、霞を吸って生きる仙人の話を聞いたことがある。そうすれば、この腹減り具合だって少しぐらいは収まるかも。
腹が減り過ぎて、おバカなことを考える。
「すーはーすーはーすーはー」
……普通に息すってるだけじゃん。
ホームレスを8年もやったが、俺に仙人の適正がないことは分かった。
とりあえずゴミを片付けて、食い物を探さなければ。
ぐごぎゅるるうぅるるるる。
腹の虫が悲鳴を上げてやがる。
ダ……ダメだ、もう動けん。
死因は餓死か、なんて最悪な死に方だ。
結婚して、娘と息子がいて、70才くらいで美味い物の食い過ぎで縁側で死亡が、俺の理想だったのに。
せめて、死ぬ前に塩おにぎりが食いた、かっ……た。
バタン。
ーー
ーーーー
知らない天井だ。
しばらく天井を眺めていると、何処からともなく紙がひらりひらりと布団の上へと舞い落ちる。
なんだこれは。
資源を大切にするお前に能力をくれてやる。
後から精霊も派遣してやるから有り難く思え。
スキル
・ボックス 色んな物を詰め込めるアイテムBOX、腐らないし変質しない
・ダスト 色々な地球のいらない物を召喚できる
・アウト 持ち物をアイテムBOXへ移動する
・ミックス ゴミなどを合成することができる(スキルレベル5以上から)
あとお前臭いから風呂入れ。
byゴミの神様より
「なんだこりゃ。ゴミの神ってなんだよ、ちっとも威厳を感じないぞ…ダスト」
気恥ずかしさと不思議さを感じながらも、スキル名を口に出す。ポンっという軽快な音を立てながら、煙が浮かび上がり布団に、コンビニの未開封塩おにぎりが落ちてきた。
こ……これは夢か現実か……!?
天の恵みだ。
棚からボタ餅ならず、空からおにぎり。
んー良く見ると、賞味期限が一日過ぎてるじゃないか、まあその程度この俺からすれば、大した問題ではない。俺はおにぎりを喰らう。
むしゃ、むしゃ、むしゃ、むしゃ!
美味い……! 感動するほどに!
ただの塩おにぎりがこんなに美味いなんて、まるで極限まで減量したボクサーが最初に口にするような味わいだ。空腹は最大のスパイス、誰が言ったかあながち間違いではないだろう。
しかし、ここどこ?
どう見ても知らない天井、そしてぼろい。天板が剥がれてる部分はあるし、石造りの壁や床はヒビ割れていたり不安になる、今にも崩れるんじゃないかと。
部屋のぼろさとは違い、掃除は隅々まで行き届いているように思える。
これまたボロい木の扉が、ぎぎぃと鈍い音がして開かれた。
ピンと伸びた耳、金色の美しい髪、青い瞳と透けるような白い肌のエルフの少女。
恐らく年は15くらいかな。
……エルフだよな多分、どう見たって人間ではない。コスプレした美しい少女、いやいや無理あるだろう。
作りものっぽさが一切ないのだ、限りなく自然な造形というのかな。ホームレス時代に、たくさんの行き交う人を散々見てきたから分かる。
とすると、やっぱりここは異世界だろうか。
地球でエルフが発見されました。
とかニュースで聞いたことないし、UFOより目撃情報がないのだから。
少女は目が合うと、扉の向こうへと隠れ顔だけ少し覗かせては、ちらちらとこちらを伺う。
「やぁ、ここは何処かな? 君が介抱してくれたのかい」
ダダダダっ!
逃げた……思いっきり逃げた。
足音と入れ替わりに、修道服のような服を着た女性が現れた。優しい声色で俺に問いかける。
「体調は、もう大丈夫ですか?」
「お、おっおっお蔭様で。ところでここは何処ですか? 貴方が介抱してくれたのですか?」
まるで英語の教科書みたいな質問をしてしまった。
しかも噛んだし。
これはペンですか? 的な機械的質問。
仕方ないだろこの人も美人だし、美人と話すなんて久々なんだから。
「ここはアルフレンド。見たところ旅の方ですか、珍しい服ですから」
「そうです。旅の途中で倒れてしまって」
旅といえば旅だな。遠い世界からの。
異世界からやってきましたとは素直には言わない。
魔女狩りなんてある世界だったら嫌だし、あの異端の者をひっとらえろー! 磔にして火あぶりにせよ!
そういうのありそうじゃん。嫌だよ火あぶりなんて。
「孤児院の前で倒れていたものですから、ここへ運びました。ある意味運が良かったですね、孤児院の扉は困った者へいつでも開かれていますから」
そう言って、祈りを捧げるような動作をする。
ほほう、ここは孤児院だったのか。
なるほど、それで修道服か。
「シスターご飯! ご飯はまだー! 僕お腹すいたー!」
「はいはい。今行きますよ、旅のお方もどうぞ些細な食事ですけどどうぞ」
シスターの名前はイレア。
年は見たとこ20代後半だろうか、孤児院というからには子供がたくさんいるのかと思いきや、イレアさん含む4人しかいないらしい。
テーブルにつくと、黒パンとチーズとスープがあって、小さい少年が俺の目の前に座っている。
「だれーこの人ー?」
少年が俺の料理をもってきたイレアの背中に問いかけた。年端もいかぬ純粋たる好奇心からの問い。
うぅ……誰とか俺の豆腐メンタルな心に傷つくだろ。
やめなさい。
「旅の方よ」
「ふーん、いただきます」
じゃあ俺も食べるか、まだ腹がぺこぺこだ。
パンは……味気ないというか硬くて、正直あまり美味くない。透明なスープは塩が薄くて大根が数切れ浮いてるだけ。チーズは、味わい深くて濃い味だ、うめええこれはいけるぞ!
ふっーごちそうさん。
しかし、困窮してるようだな外観といい、少年の服とかツギハギで縫ったりしてるようだし。
「たまには白いパンが食べたいなあ、ねえオジサンはどこの国から来たの?」
「え……えーっと東の国だよ、この国に米はあるかな? 俺の国では良く食べられる物なんだけど」
「コメー? 知らなーい」
よしやってみるか。
「ダスト!」
ぱちくりぱちくりと瞳を開いては閉じて、驚いてるようだ。
やがて視線は目の前のおにぎりへ。
「すっごいー。なに今の魔法?」
「いいから食べてみな」
少年は一口つけると、無言で二口、三口とがぶりついて、感想を漏らす。
「うまぁあい! なーにこれがコメっていうの?」
「そうだよ。もうちょっと出すか」
「ダスト!」
またしてもひらりひらりと紙が落ちてきた。
紙にはこう書いている。
(現在のレベルだと食料は1日3回までだ。精霊を派遣してやるから、焦らず待ってろ)
ゴミの神からの伝達か。
なんだか随分と偉そうだな。
どいうことか分からんが、説明通り食料は1日3度までらしい。
「半分個だ」
「ありがとーオジさん」
「それから俺の名前はアツトだ。君は?」
「ぼくはピット。よろしくね」
ピットにこの世界のことを色々聞いてみた。
獣人やエルフが存在しているようで、このアルフレンドは商業が発展してるようだ。
物を買うには貨幣での取り引きで、トル銅貨、ミル銀貨、シル金貨が貨幣の主流となる。
よし腹もそこそこ膨れたし、スキルの研究ついでに街に繰り出してみるか。