ゴミの神の布教
アルフレンドから続く映えのしない景色。
地肌が続く平らな道を進んで行くと森林帯に行きあたり、木々や無差異に転がる大きな石など目につくようになってきた。歩きづらい道もあったりするんだが。
視線を横に逸らせば、岩をバターみたいに縦に切り取ったような崖から、水が滝のようにこぼれてきている。
「ここの水は真上からきてるから綺麗な水なんだよ、ちょっと補給していこう」
ユーリは服の袖をまくり崖下にしゃがんで、皮の水筒に水を補給してる。
なんか気分良さそうだな。
俺も水浴びでもしたい気分になってくる。
旅のスパイスは美味い飯と酒、それと目新しい景色と気を使わず話の出来る相手がいれば、いつだって新鮮なものに変わる。昔も色々旅をしたけど、新しく目にする景色ってのはいいもんだ。
それが異世界での景色ってのなら格別尚更さ。
「ちょっとちょっとチョコレー、アンタいつまでサボってンのヨ!」
聞きなれない声がした。
適当な石にこしかけて休憩してた、俺は視線をちょいと真上に向けるとソイツはいた。
チョコレーと同じく精霊の類だろう。
綺麗な透明の白い翼が背中に生えていて上下にふわふわと浮いている。
見たとこどう見ても性別は女っぽい。
魔法使いのような大きい帽子。
ピンク色の髪、極めつけはビニール。
どういうことか、透明のビニール袋を身にまとっている。
いや被っていると言った方が正しいだろう。目がぱちくりして一見可愛い容姿を頭から被っているビニールが非常に残念なものにしているのだ。
胸と尻のとこはわずかに布をまとっているし。
一体何がしたいんだ、見せたいのか見せたくないのかどっちだ?
その謎の精霊に呼び出されたチョコレーが俺の肩に現れた。
もう定位置かよこ俺の肩が。
「どうしましたミリーンさん?」
「どうしたもこうもないわよ! 何油を売っているのチョコレー、貴方布教はどうしたの?」
「今はこの世界に来たばかりの、主様のナビゲートが優先ですので……」
「シャラァアアアップ! いいことチョコレー! 貴方ナビゲーターとしては有能かもしれないけど、布教ができないのようでは、そこらのダンボールと変わらないスクラップ同然のゴミよ!」
事情はよく分からんが、突然現れたミリーンとやらにチョコレーが怒られている。
仕事の出来ない部下が、上司に怒られているかのような光景がそこにあった。
精霊の世界にも力関係があるのだろうか? そういやチョコレーのやつ以前に自分は精霊序列第三位とか言ってたから、このミリーンは1番か2番に偉いやつと考えていいだろう。
「おい布教て何だよ?」
「あっきれた。そんなことすらまだ聞いてないなんて。良く聞きなさい、我が偉大なるゴミの主神マヨラー様の信者を獲得し、マヨラー様を讃える祭壇を作り世界に名を広めるのが目的よ」
「何で俺がそんなことしなきゃいけないんだよ」
「チョコレーそれも説明してないの」
「ええ」
「いいわ説明してあげる。マヨラー様の名を広めることによってスキルレベルも上がりやすくなるし、効果も強力になっていくわ。言わば信仰力ね」
「大きな声では言えませんがマヨラー様は、鉄と炎の神イフリートや水の神アクア、旅と風の神シルフィなどに比べ人気がないのですよ」
「そう。マヨラー様は人気がないの。そこでうだつの上がらないフロンジの貴方が選ばれたワケね。貴方ゴミを上手く扱ってたみたいだし」
「そんな理由で俺が?」
俺は運よくゴミの神に選ばれたと思っていたのだが、マヨラーの名前を広める為に選ばれたってことか。てかコイツもマヨラーに似て口が悪いな、何がフロンジだよその羽をむしるぞ、ったく。
「そういうことだから上手くやりなさい」
「断る。俺はマヨラーの教徒になった覚えはない。それに威厳にかけるゴミの神マヨラー教徒になりませんか? なんて誘いをかけるのは心の底から嫌だね」
「あらそう。じゃあスキルを使いこなすこともなく腐らしたままにするのね。フロンジの貴方らしいわね」
俺の心底嫌そうな表情を読み取ったのか、ミリーンが説明を続ける。
「脅しで言ってるんじゃないわよ。神の力てのは人々の信仰心による影響力が大きいの、場所の影響もあるけどね。例えばイフリートなら火がある火山とかなら火の力は強まるし、シルフィなら風の吹く草原とかだと魔法が強まるわ」
「じゃあマヨラーだと?」
「もちろんゴミの集まる場所に決まってるでしょう」
「……街中にゴミを集めるように、布教しろってか?」
「そうは言ってないわ。さすがに街中がゴミで溢れかえったら、疫病が流行りそうだもの。それにマヨラー様は綺麗好きよ。要は人々に信仰心があればいいの。祭壇を作りマヨラー様の好物を供養すれば、レベルも上がりやすくなるでしょうし力も強くなるわ」
「なるほどね。あまり気が乗らねえけど祭壇ぐらいなら、何とか出来るかもしれん」
「じゃあそういうことだから私は帰るわ。チョコレーしっかりやりなさいよ」
「もちろん私はナビゲーターですからね」
ミリーンは偉そうに言いたい放題早口で言って、虚空の中に消えていった。
「そういやあいつの序列何位なんだ。チョコレーより偉そうだったから序列第1位とかか?」
「いえ彼女は序列にして第5位です」
「思いっきり下のやつじゃねえかよ!」
「そうですね」
ダンボールの精霊は俺の肩でがっくりとうなだれた。
やっぱり、この超ダンボール頼りないわ。