路上販売開始です
――次の日のこと。
今回はアルフレンドの街の外で、販売するのが目的だ。
それでいて、なるべく人通りが多いとこがいい。
『路上の販売とか面白そうじゃん!』という理由で、勝手にユーリもついてきた。
昨日作ったオムライスが、相当に気にいったようだ。
面白そうとか言いつつ、昼飯が食いたいだけなんだと思う。
『それ美味そうな料理だな。一口くれよ』とユーリの一言が始まり。
『ンー美味い! ふわふわの卵、この味のあるコメかいうのが絶妙な味を出してる、スプーンが止まらないぜ!』
『あーおいしそー、ユーリ姉ちゃんだけずるいーぼくにもちょうだい!』
『わ、私は別に……食べたいとか別にな、ないです』チラっチラっ。
とか言いだし、結局俺は3人分作ったワケだ。
今回作ったオムライスは、ほとんどダストで召喚したものだ。
ケチャップ、塩、米はスキルで召喚。
たまねぎと卵とイノシシ肉は、孤児院のを使った。
さすがに卵の賞味期限が微妙に切れてます。を使ったら腹にどんなダメージを喰らうか分からんからな。
俺……一口も食ってないけどな。
ま、まあ収穫もある。
運よくパックのレトルトご飯が出てきたことだろう。
今後は、回数のストックさえあれば自在に出せる。
この世界の白いパンは値が張るし、主流の黒いパンは美味くない。コメと調味料があれば、塩おにぎりやら、焼きしょうゆおにぎりやら、チャーハンやら色々と代用が効く。
何より米は飽きない、やっぱ主食は米ですよ!
ほんで事前に、路上販売の為に色々用意した。
各種空き瓶とかペットボトル、容量半分くらいのライター。
それとアルミホイル、サランラップとか。
あと氷、これはレベルゼロで召喚できた。
氷があれば食品の輸送も、遠地とか行けるだろうし。
水のない砂漠とかにいたら、氷をガリガリ食って水分を補給することもできる。
これがレベルゼロというのは有難い。
路上ならドフォール商会の目も届かない。
アルフレンドの法も適用しない。
森の中で傭兵を使って襲撃して来たってことは、つまり。
ドフォール商会も人の目のあるとこでは、手は出してこないってことだ。
おそらく安全だろう。
平な地肌の道をとことこ進んでいくと、白いもこもこしたのが動いてくる。
羊の軍団がこちらに行軍してくる。
50匹ぐらいはいるんじゃないか。
パっと見てそう思った。
羊飼いの老婆を先頭に向かってきたので、道の端に移動。
すれ違う時に軽く会釈する。
「にへへへ~もっふもふだぜ、もふもふ~」
ユーリが頬を緩ませながら、羊1匹捕まえて、もこもこを堪能してる。
「何してんだよ」
「この毛のもふもふ感がいいんだよ」
ダメだ、聞いちゃいない。
老婆と目が合う。
まあ向こうも笑ってるからいいけど。
いつまでやってんだよ。
「行くぞ」
「あぁ~もふもふ~!」
歩いてると、道が途中で2つに分かれる。
「こっちの方が近道だから、こっちに行くぜ」
進んで行くと、川にかかる水平な木の橋があった。
ちょうど端のとこに、チェーンメイルを着て武装した男2人が立っている。
「ほい。アルフレンドの戸籍証。こっちはないよ」
「確かに。1人分で通行料は銅貨3枚だ」
ユーリが木の四角い板切れを見せている。
戸籍証がなければ、橋渡るのも金とられるのか。
「見慣れない服だな、東のイゼン国の繊維で繕った服か?」
「その首に巻いてるの洒落てるな。そのすだれ具合がイイ」
おっ?
俺に向かって言ってるのか。
今日の服装は着慣れたジャージだしな。
目立つのかねやっぱ。
ついでに日用品を召喚したら、白黒チェックの薄手生地のストールが出てきたので、これを首に巻いている。
これ1回巻いてみたかったんだ。
首に巻くと体感温度がだいぶ違うし。
「これは一張羅ですよ、自分で作ったね」
説明が面倒なので誤魔化しておく。
「だ、だったら売ってくれ! ミル銀貨5枚でどうだ!?」
えぇえええw!?
食いついてきた。
確実に原価以上の儲けは出るんだろうけど。
迷うなぁ~。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。考えるから」
橋の門番に背を向けチョコレーを呼び出し、小声で相談する。
「おいチョコレー服類て、何回でも出せるのか?」
「服は無理ですよ。基本的にダストのスキルは、放置された物や捨てられた物を、ワームホールで召喚しているので。一応、ワープの際に殺菌や洗浄もしているので、手間もかかってるんですよ」
召喚の時、ワームホールとか使ってたのか。
仮にもゴミの神から、付属された能力だけはある。
「なるほどね。スマン無理!」
「そ……そこをなんとか~! そのブロック調の白と黒の洗練されたデザイン。気にいった! じゃあ銀貨10枚で……いや20枚で!」
「すんませんねぇ。コイツ服に目がないやつで」
門番の一人が軽い感じで謝罪するが、暴走気味の男を止める気はないらしい。
どんだけ欲しいんだよ。
無理だって、一張羅なんだから。
「行くぞユーリ」
「……ぁあ。あの人、泣きそうな顔でこっち見てるぞ、てか泣いてるし」
「いいんだよ。こっちも何でもかんでも売るワケじゃない」
そのまま、しばらく歩き続ける。
「この辺りだな。アルフレンドの街道と、海の見える街シオンベゼネの中間地点ぐらいだ」
じゃあここで路上販売開始っと。
短い草の上にブルールシートを敷いて、前回のようにラグを敷く。
今回は値段が分かりやすいようにした。
切ったダンボールを商品の前に置いて、マジックで値段を書く。
これなら通りがかりの人も、パッと見て買いやすいだろう。
値段も前回より少し下げたし、爆売れ完売間違いないだろうな。
ふっふっふっふ。今日も完売だろうな。
帰る頃には銀貨の袋が。パンパンに膨らんでいることだろう。
さ~て売るか。
1時間経過、2時間経過、3時間経過。
「ふぁ~あ、ヒマだな~」
「……何で売れないんだ」
売れたのは、最初に通りがかった行商人達にだけ。
ガラス類のチオビッタンDのビンとか、ビール瓶、サイダーのビン、それとライター数本。
ペットボトルに限っては1本も売れないし。
売上はトル銅貨40枚。
シル小銀貨が5枚。
これだけである、ダダ余りだ。
何故だ、前回より値段は下げているし、行商人達もお試しといった感じで、買占めまではしていかなかった。
売れない理由が分からない。
仕入れはタダだからいいんだけどさ……前回の爆売れを考えると物足りなさを感じる。
ほとんどの行商人とか、通行人が素通りするんだよな。
「ふぅ……休憩だ。メシでも食うかユーリ」
「よっ待ってました!」
今日はチャーハン炒めたのを皿に盛り、ラップしてボックスに保存。
これでいつでも熱々のチャーハンが食える。
これをドカ・コーラの木の箱に乗せ、さて食いますか。
「へぇ~珍しい物扱ってるねー。これガラス製でしょ」
おっ客か、メシは後にして相手をするか。
「そうですよ……今日は値段を安めにしてるんでって……あぁ~! お前はリンゴ泥棒の腐れビッチ!」
「何のこと? 会ったことありますっけ?」
この女は俺が飢え死にしかかってた時だ。
目の前に落ちてた、俺のリンゴをパクッていった外道女だ。
それを何のことだと!?
食い物の恨みは強大なんだぞ、それを目をぱちくりさせ、小首を傾けて忘れてやがる。
「帰れ! 帰れ! お前のようなビッチに売る物は一個もねえ!」
「ん? おっちゃんの知り合いか?」
「ただのリンゴ泥棒さ、知らん知らん!」
「な~に、その態度、人がせっーかく買ってやろうと思ったのに。見たこともない商品と路上販売、盗品なんでしょうコレさ、闇で売るなら敬遠すると思うよほとんど」
え、闇商売? 盗品?
何故だ、何故そうなるんだ?