野良猫ホームレス
俺はホームレス。
この地球に飼われる自由気ままな野良猫。
大地を寝床とし、星空を眺めながら暮らすホームレス歴は8年になる。社会人歴に換算すると、ちょっとしたベテランだ。
これだけ長いことホームレス生活を続けると、色々なことが分かってくる。
例えばエサ場。
近くの中華飯店マインは、夜の23時に外のゴミボックスへ、残飯を捨てる。
「うふふん! うふふん!」とご機嫌なスキップの女店員が「ふんぬぅ!」と残飯を捨てに来るので、バレないように少量をいただき去るのがコツだ。腹もちのいいチャーハンなんか有難いんだが、日によっては冷麺しかないという残念な日もある。
あとはデパートの試食巡りなんかもある。
買わなくてもタダで食べれるという、社会の究極システム。
大いに有効させてもらってる。
有難い。
時おり店を変えるのがコツだな。
「またアイツだ」
「タダメシ食らいが来た」
など俺クラスのVIPな常連になれば、顔を覚えて貰える。別に特典はない。
ホームレスの俺にも、金を稼ぐ方法はある。
空き缶拾いがそれだ。
繁華街は、たくさん拾えると思われるがダメだ。
ライバルが多かったり、主婦辺りに不審に思われ、警察に通報される場合がある。郊外の方が良い。今更、人の目なんか気にはしないが、お仕事の邪魔されてはたまったもんじゃない。
警察に根ほり葉ほりと、お決まりの質問されると、時間が長くて敵わんからな。
質問には、俺は宇宙人だ、シュメールからタイムスリップしてきた、とか適当にはぐらかすが。
見よこのシュメールの英知! といって俺の車、リヤカーを見せる。
「本気出したら時速5キロ以上は出る!」
「ガソリンがなくても走れる!」
「人を乗せることも出来る!」
と豪語すればあいつら頭がおかしいと思って「自重するように」とお決まりの注意をして帰るから。
こんな自由気ままな生活だが、ライバルはいる。
エサ求めてやってくるハンターの野良ネコや、空からの襲来者カラス、それに縄張りを争う同業者だ。
カラスや野良ネコへの対策は、餌場で待機してればいい。
「しゃーっ!」って身体全体を使って、威嚇すれば逃げるからな。
一番やっかいなのは同業者、エサ場をちょくちょく変えるし、かち合えば戦いは免れない。奴らも生きるのに必死だ。
お互いに暗黙のルールとして、餌場のテリトリーがあるのだが、あくまでそこは絶対的なルールではない。口ゲンカや、最悪殴り合いに発展するが、俺は絶対に譲らんという気概を見せてやることだ。
そんな生活をしてて8年。
だが食えない日だってある。
試食コーナーをやっていない、餌場が急に対策をしたのか、ゴミ回収時に捨てるようになったりと。
公園のゴミ箱に捨てられた弁当のから揚げを発見したと思えば、この辺りのデブ猫に先に盗られた。
どうやらあのデブ猫、辺りを統括するボスらしい。
丸々としやがってるんだから俺によこせよ、ちきしょう。
散々だ、やばい丸3日、何も食べてないぞ。
水があれば1週間は生きれるのは、知っている。
しかし、身体の方がもたない。腹がへって力が出ない。
サイフの中身は10円のみ。
とりあえず、こんな時は公園で気持ちを落ちつかせる。
やはり緑がある公園はおちつくもんだ。
しかし、本当にマズイぞ。もう夜空には月が顔を出している。
この時間帯は食い物探すのは、難しいんだ。
絶望しかけけていた俺の50メートルくらい先だろうか。若いカップルが何やらイスに腰掛けて、コンビニ弁当を食べているようだ。
綺麗系で、ショートカットが似合う俺好みの女だ。
普段ならそう思い、俺は目の保養とばかりに脳に焼きつけるのだか、容量一杯まで膨れ上がった食欲は、ひたすら弁当を視線で追う。
見える…!
見えるぞ!
まだ唐揚げやシュウマイが残っているのに、もう食い飽きたのか、弁当を捨てようとしている。
よっしゃああ!
その弁当は俺のものだ!
俺はもてる力を振り絞って、重量のありそうな鉄の丸いゴミ箱へと駆け出した。
「はあ……はあ……はあ! 俺のだ! その唐揚げ、シュウマイもだ!」
ゴミ箱へたどり着き、中へと腕を伸ばす。
ようやくだ。
ようやくメシにありつける。
「うおっと!」
腹が減りすぎた俺はバランスを崩して、ゴミ箱とともに派手な音を鳴らして倒れてしまう。
「いてて……」
やっちまったか。
辺りには空き缶とかバナナの皮とか、カップルが捨てた弁当が散乱している。
俺は這いつくばって手を伸ばす。
目的の弁当へと。
視界の中に、あったはずのものはなく見ず知らずの場所に俺はいた。
ここ何処?
夜だったのに昼になっている。
公園にいたはずなのに雑踏の中にいる。
見慣れない服を着た人ばかりで、建物やレンガとかの屋根も中世っぽい。
まさか、異世界!?