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――ちょっと、私、一回ガブってやってみて。
――やだよ、気持ち悪い!! 自分でやってよ。
――無理だよ!
まあ実際、KYは今、目玉しかないんだから無理だ。仕方ない。ただ、だからってなんで私がっ?
とはいえ、このまま無駄に時間を過ごしていても始まらない。いずれにしても、ダンジョンの中で長い時間過ごすなら何か食べないといけないのだから。
そう思った私はなんとか覚悟を決めようとヤモリとにらめっこして頑張った!
――やっぱり無理っ! プランBでお願いします。
――いいじゃん、ガブってやるだけだよ。一瞬だよ。一瞬。
――無理無理無理。
――しょうがないなぁ。……、じゃあ、血を吸う?
――どうやって?
――ほら、私の足ってチスイビルじゃん。だから、足の付け根付近に吸血口があるんじゃないかな。
――それ、すっごい名案!
やるじゃん、KY。それなら、キモイ生物を食べるところを直視しなくてもいい。てか、初めからそれを提案しろ。
――よし、さっそく食べよう。
――あ、待って。
――何?
――その前に、その尻尾、切り取って持っていこう。
――天才か!?
確かに、この尻尾があればしばらくは真っ暗闇の中を手探りで歩くようなことをしなくてもよくなる。いつかは光がなくなるはずだけど、そしたらまたチョウチンヤモリを探せばいいわけで、これでダンジョン攻略の速度が格段に上がること間違いなしだ。
私はヤモリの後ろに回り、勢いよく尻尾を引っ張った。ところが、ヤモリは体ごと動いてしまって尻尾が千切れる様子はなかった。
うう、この足じゃうまく体を踏んで押さえられないな。
尻尾を引っ張るときに体を足で押さえて引きちぎろうとしたのだけれどもうまくいかない。ぬめぬめとしたヒルの足触手は歩行には特に不自由しないが、ものを踏んで押さえるということには不向きなようだ。
そこで腕触手で尻尾の付け根を両側から掴んで左右に引きちぎろうとした。が、想像以上に硬くてやはり千切れる気配はない。うん。これはダメだ。
――無理。
――ええ、あきらめるの!?
――絶対無理。腕触手が切れちゃうよ。
そもそも、考えてみれば尻尾の付け根の方とか腕触手より太いのだから、千切れるほどの力で引っ張ったら先に千切れるのは腕触手の方じゃないか。あぶない、あぶない。
――ダンジョンなんだから宝箱とかにハサミとか剣とか入ってたらいいのに。
――それはゲームの話だよ。
うー、そもそも最初にダンジョンなんかに落とされたのが間違ってるんだ。あ、また腹が立ってきた。くー。絶対戻ったらぎゃふんと言わせてやる。
――そうだっ!!
――な、何、いきなり?
――あるじゃん、歯が。
――歯? え、私、歯なんて生えてないよ。生えてたって噛みつきたくなんてないけど。
――そんなの期待してないよ。じゃなくて、ここ、ここ。
KYが指したのはヤモリの口だった。
そうか、ヤモリの口には歯がついてた。しかも、KYの頭触手を食いちぎれるくらいには鋭いやつが。
早速ヤモリの尻尾を引っ張って口に咥えさせ、ぐっと引っ張るとあっけなく千切れてしまった。
――やった!
――あ、でも、光が弱くなってく。
――どうしよう。せっかく切ったのに。
と、KYが腕を動かして尻尾を首に持って行った。
「接合」
いつの間にか復活していた小さな口でKYが呪文を唱えると、尻尾は当たり前のように2つの頭触手の間にくっついてしまった。