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 ――え? 何? 何が起きたの!?

 ――背中からとげを出した。

 ――おお。って、そんなことできたの? いつから?

 ――背中がむずむずして、何となくできそうな気がしたからやってみたんだけど。


 どうやらKYは背中の殻から鋭いとげを飛び出させてかじりついてきたモンスターに突き刺したみたいだ。確かに、今となれば、背中にそれらしきものがあるのは感覚的にわかる。前からその辺が動きそうな気はしていたけれど、これまでは殻を動かす筋肉か何かだと思って意識していなかったところだった。


 その後、私は棘はしまったものの殻は広げたままのそのそと移動して、モンスターに食いつかれるたびに棘を突き刺した。そんなことを繰り返しているうちに、私を狙って様子を窺っていたモンスターたちはいつの間にかいなくなってしまった。


 ――もう大丈夫。

 ――さっきから気になってるんだけど、真っ暗なのに周りのモンスターの位置が何となく分かる気がするけど、これって超能力か何かなの?

 ――多分、腕触手の先にあるピット器官なんじゃないかな。


 KYに言われて腕の先をあちこちに向けてみると、自分の方に向けた時に強く何かを感じた。その感じはさっきまで周囲をモンスターに囲まれていた時に感じた感覚と類似していた。


 ピット器官とは一部の蛇が持つ生体感知センサーのことだ。本来は体温を感知する器官だけれども、この体についているのも同じかどうかはよく分からない。周りのモンスターには形状が明らかに哺乳類や鳥類に属さなさそうなものもいるし。それに、そもそもメクラヘビにピット器官はない気がする。


 まあ、とにもかくにも、腕触手を対象に向けて意識を集中するとその詳細な位置や輪郭まで知ることができるようだった。ただし、感知できるのは生体だけで、床の形状や壁や障害物の位置など非生体については何の情報も得られない。とはいえ、暗闇の中で危険なモンスターの位置や形状が分かるのは非常に心強かった。


 ――これすごくない?

 ――すごいね。超能力みたい。これはむしろ触手になってラッキーなくらいだね。

 ――いや、それはない……。


 理解しがたいことを言っているKYは無視して展開していた背中の殻を収納した。殻と棘とで引っ張られてセーラー服の背中は大分破れていた。


 あんまり背中の棘は使いたくないかも。


 私はクラゲの触手を背中側に回して破れた個所を手触りで確認すると、腕触手で裂け目をパズルのピースのようにつなぎ合わせた。


 「接合」


 そう呟くと、次の瞬間裂け目はまるで初めから存在しなかったかのようにきれいに接着した。


 これは接合魔法というスキルで、私をダンジョンに投げ落としたあの学校で手に入れたスキルだ。物と物を接合するというだけのスキルで、およそどんなものでも接合できる。服や器具の修復だけでなく、傷口をふさいで怪我の応急処置をすることもできる便利なスキルだ。


 この世界では高校生にもなればある程度才能のあるものは大抵何か1つスキルを身に着けることができる。そして、2つ身に着ければエリート、稀代の天才なら3つのスキルを持つことができると言われている。と言っても、2つ目のスキルは修練ののちに開花するもので、高校生で2つもスキルを持っている人なんて見たことないけれど。


 ついでに足の食いちぎられたところも塞いでおこうと触手の先で触ってみると、こちらはいつの間にかもう自然治癒で塞がっていた。深い縦穴に落ちてもケガもしていないし、この体は思った以上にタフなようだ。


 私はしばらくの間、破れたセーラー服の裂け目を一つ一つつなぎ合わせて接合魔法を使い、元のきれいなセーラー服に修復していった。


 ――お見事。

 ――高みの見物してないで手伝ってよ。

 ――いや、私は周りの警戒をしてるほうがいいかなって。


 そう言われて急に心臓が素手で掴まれたような恐怖が急に湧き上がってきた。確かにこんなところで服なんかに気を取られて周りを見ていなかったら、いつ襲われるか分かったものではない。


 ――あの、ごめん。

 ――何が?

 ――周りのこととか考えないで服なんかいじってて。

 ――何で? 地上に戻るなら服は大事じゃん。裸で外を出歩いてたら変質者だよ?


 KYに言われてはたと思った。


 確かに、ここでこうやって生き残って、そしたら私は地上を目指すことになるのだろうか? でも、一体、地上に戻ってどうするの? こんな体なのに? 誰が私を受け入れてくれる?


 そう思った時、学校での出来事が不意にフラッシュバックした。先生や学友からあらゆる罵詈雑言を投げかけられ追い出された記憶。一番信頼していた吉子と現寺くんに裏切られた記憶。


 ――……るせない。

 ――何て?

 ――許せないよ。どうして私がこんな目に合わなきゃいけないの? 私が何か悪いことをした?

 ――うーん。あ、1か月前に吉子に借りた鉛筆、まだ返してない。

 ――あ、あれはたまたま返し忘れてるだけで、吉子だって消しゴム返してくれてないし。って、そんなことじゃなくて!

 ――じゃあ、1週間くらい前……。

 ――もういいから。


 全く、KYに変なことを言うとどんどん話がずれていくよ!


 ――とにかく、私は絶対に地上に戻るの。それで、私をこんな目に合わせた人たちを絶対にぎゃふんと言わせてやる。

 ――おおっ。ぎゃふんって何?

 ――あのねぇ、…………、えーっと、それは後からじっくり考えるわ。

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