21
――また出口なしなの!?
――いや、出口はあるよ。縦穴へ続く横道を少なくとも14個は見つけた。
――全部同じ縦穴じゃない。
――開いてる場所が微妙に違うから、1つくらいは滑り落ちる前に別の横穴を見つけられるかもしれない。
ダメ元で這い出してみて、運が良ければ別の横穴を見つけられるかもしれない? 運が悪ければ?
――滑り落ちて死ぬ未来しか見えないよ!
――あるいは、この沼の底を調べるか。
そう言ってKYが指していたのはダンジョンの奥にあった大きな水たまりだ。一応、水に毒は含まれていなさそうなので、潜ることは可能ではある。
――ここ!?
――うん。ここ。
――私、泳げる自信、ない。
普通の人間の体だった時には一応普通程度には泳げたけれど、今の触手の体で泳げるのか甚だ疑わしい気がする。バタ足とかどうやってするの?
――大丈夫。こうして1本腕を伸ばしておけばそれで呼吸ができるよ。
そう言ってKYは腕触手を1つだけ上の方に上げた。確かに、腕触手にも鼻がついているからそこで呼吸することはできる。
――それに、無理に泳がなくても水底を歩けばいいんだよ。
――なるほど。確かにそれならできるかも。
水中を歩くなら多分ヒルの足の方がクモの足よりよさそうだ。クモの足だと滑りそうだから。
――じゃあ行こうか。
私は腕触手を1本だけ水面に出して、ヒル足をスカートの中から出して地面に降ろし、水中へと進んでいった。幸い水はそれほど冷たくなく、体温の低下で水中での活動に支障をきたすということもなさそうだ。
水は濁っているというほどでもなかったけれど、陸上に比べると光の減衰が早くてあまり遠くは見えなかった。なので、水底に顔を近づけるようにして抜け穴を探した。藻が頭や体に絡みついてくるので鎌でスパスパ切りながら進んだ。
水中には小型のモンスターはいたものの脅威となりそうな大型モンスターには遭遇しなかった。念のためクラゲ触手を全方位に展開していたので接近してくるモンスターがいても返り討ちにできたと思うけれど。
――ん?
――何?
――なんか、音がしない?
――するかも。
――こっちの方かな?
――この下あたりじゃない?
私は音を頼りに水底に怪しい岩を見つけて全身に力を込めて岩を押した。
――ん、動きそう。
――もっと力込めて。
さらに力を込めると岩は突然抵抗を失って大きく動き、私はバランスを崩して前のめりになった。と、その時突然急な水流に巻き込まれて体が流された。
――足が!
――息ができない。
足が水底を離れると水中での体の制御は完全に取れなくなってしまった。こうなるとどれだけ腕触手やクモ足をバタバタさせてもどうしようもない。その上、水面に出していた腕触手も水中に沈んで息もできなくなってしまった。
――やば。意識が遠くなってき……。
そして、私は気を失った。
目を覚ますと目の前は真っ暗だった。
もちろんダンジョンの中なので基本的に真っ暗なのだけれど、これまではチョウチンヤモリの光のおかげで薄明かりが見えていたので完全な真っ暗というのは久しぶりだったのだ。
どうしてこんなに暗いんだろうと思って頭を動かそうとすると、どうも頭が動かない。そこでちょっと力を込めて振ってみると頭が土に埋もれていたらしく泥が飛び散って視界が回復した。
頭だけを動かして周囲の様子を確認すると、私は地底湖の湖畔に打ち上げられて倒れているようだ。
ここはどこかな?