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無駄なあがきを終えてしばし呆然としているところに携帯がブルルと震えた。
『葉子、大丈夫?』
学校を休んだので心配した親友の吉子がチャットを送ってきたのだ。私はそのメッセージを見て思わず涙を流してしまい、すぐに返信できなかった。
『んー、まだ寝てるのかな。じゃ、また後で』
『まって』
私は思わず吉子を引き留めた。
――ねぇ、私、引き留めてどうするの?
KYがすかさず突っ込んできたけど、別に何か考えがあるわけじゃない。ところで、KYが私を呼ぶときは「私」って言うんだ。確かに同じ人ではあるけど、分かりにくいなあ。
――わ、分かんないけど……
ただ、考えはなくても、今の状況は一人で抱えるには大きすぎたので話を聞いてほしいという気持ちはあった。問題は、一体どうやって説明したらいいのか分からないことだったわけで。
『起きてたんだ。調子はどう?』
『なんていうか……、触手(笑?』
――まんまやないかいっ!
――仕方ないでしょ。どう言ったらいいのか分かんないのよっ。
ああ、私の貧弱な語彙が恨めしい。
『触手(笑) 何それ?』
――聞かれちゃったよ。どうしよう?
――当たり前じゃん。
落ち着け、私。逆に考えよう。いずれは誰かに相談しないと元にも戻れないし食べ物も手に入らないのだから、むしろこれでよかったのかもしれない。いや、きっとそうだ。そう思おう。よし。
そう思ったらいっそのこと一刻も早くこの状況を吉子に伝えて助けてもらうべきなんだと思うようになった。ただ、朝目覚めたら触手になっていたなんて話を本当に信じてくれるだろうか?
『おーい。どうしたー?』
……、言葉で説明しても信じてくれないなら、言葉で話すよりも確実な方法を取ればいい。つまり……。
私は携帯のカメラを起動した。
――何するつもり!?
――腕を写真に撮って送る。
――いや、大騒ぎになるって。
――うるさいな、ちょっと黙っててよ。
私は、KYが騒ぐのを無視して触手になった腕を撮影してチャットで送った。
――あー、やっちゃった。しーらない。
――黙っててって言ってるでしょ!
『何それ、キモイんですけど(笑)』
『これ、私の腕』
『え!?』
その後、しばらく吉子からの返信はなかった。だんだん不安に押しつぶされそうになりながら待っていると、ようやく返信があった。
『じゃあ、その写真の奥のほうに写ってるのも、もしかして』
言われて気づいたけれど、腕を撮ったとき、腕の向こうにヒルのような足触手も一緒に写りこんでいたようだ。
『私の足』
『そうなんだ』
その一言を残して、またしばらく吉子からの返信はなくなった。