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――な、な、何やってんのーーー!!
――ほら、光が復活した。
――こんなの外してよ。
――何やってんの! 外したら光が消えちゃうよ。
腕触手で尻尾をつかんで引っこ抜こうとしたら、KYが操る別の腕触手に全力で止められた。
――付けるにしても場所があるでしょ。何で顔の隣に尻尾がっ。
――明かりで照らすなら、顔に近い方が便利じゃないの。
――そっ、それはそうかもしれないけどっ。
頭に尻尾がついてるなんて、どっちが頭でどっちがお尻か分からないよ。これじゃお尻星人だよっ! 触手人間の上にお尻星人とか業が深すぎるよぉ。
とはいえ、KYはこの形態をすっかり気に入ってしまったようで、引っこ抜こうとしてもすぐに妨害が入ってしまう。何てこと。
――分かったわ。ただし、つけるのはダンジョンの中だけだからね。外に出るときは外すよ。
――了解了解。
KYは私の言うことなんて適当に聞き流して新しい尻尾をぶんぶん振り回していた。くっ。後で覚えてろよ。
――もういい。食べるよ。
尻尾のことはあきらめて食事にすることにした。ヤモリを食べるのは足触手の付け根の吸血口からだから、食べるためにはヤモリにまたがる必要がある。
私はさっそくヤモリの上に移動して、付け根の口をヤモリの体に押し付けようとしたその時、とんでもないことに気が付いた。
この態勢、ちょっとやばくない? 花も恥じらうセーラー服の女子高生が股を開いて股間を押し付けて下の口で体液を飲むとか、どんだけ卑猥なの! サキュバスなの!?
いや、確かに触手人間のお尻星人で今更何言ってんのってことかも知れないよ? でも、私は心までモンスターになったつもりはないんだよ。
――ねえ、食べないの?
――私には無理っ。
――お腹空いたんですけど。
――ほっといて。私はこのまま餓死するのぉっ。
――いただきます。
――あっ。
私がヤモリの上から退くより早く、KYがヤモリの上に腰を落とした。即座に足触手は本能に従って吸血口をヤモリの体表に食いつかせ、血を吸い始めた。
――ん……。んぁぁっ。何これぇ。しゅごいぃぃ……。
「はぁぁぁんっ」
初めての吸血は気持ちよかった。
……もちろん、性的な意味じゃない。言うなれば、渇望していたエネルギーを得て全身が歓喜に溢れているという感じ。空腹の倦怠感がすっと抜け隅々まで活力が漲ってきて、思わず声が出てしまうのだ。
――すごかったぁ。
――そうだね。
――アソコがジンジンして頭までピーンて来て最後ちょっとイッちゃったよぉ。私も声出ちゃってたじゃない? やっぱりイッちゃった?
――……。台無しだよぉっ!!
――何怒ってるの??
やはりKYはKYだったということだ。
とにかく、お腹もいっぱいになって明かりも手に入れて、絶好調とは言わないけれど快調にダンジョンの探索を進められるようになった。食事の時の失態はもう忘れた。あれは犬にでも噛まれたんだ。
明かりを手に入れたことでこれまで想像しかできなかったモンスターの姿を実際に目で確認できるようになった。見える敵と戦うのはこんなにも気持ちが楽なのかと思った。見た目の気持ち悪さなんて些細な問題だ。それよりも大きな問題は、暗闇がモンスターを実際より大きく恐ろしく見せるということだった。
ダンジョン内には思った以上に様々な生き物がいた。その大半は虫のように小さな生き物だけれども、中にはチョウチンヤモリのように大きなものもいる。そのチョウチンヤモリを仕留められるようになってからは、特別身の危険を感じることはなくなった。ただし、……。
「痛っ」