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第十三話「長い一日の終り」


「ただいま」


 俺がアパートへ戻ったのは、辺りが暗くなってからだ。


 病院で麗条紗璃花に会った後、見木沢闘治という奴を探した。手掛かりは”中央公園で暴れてる”、という噂のみ。


 中央公園はこの町一番の公園で、その名の通り町の中央に位置している。徒歩で回ると2時間はかかる広さだ。


 当然、そんな広大な場所で人を探すのは容易ではない。しかも情報源はあくまで噂話。本当にいるのかさえわからない。


 正午辺りから暗くなるまで探し回ったが、それらしい人物は見当たらなかった。こんな平日の公園にいたのは子供やお年寄りだけだった。


 結局、成果は無かった。いっそ学校で待ち伏せしていた方が良いだろうか? 


 しかし、話を聞いた限り学校への登校頻度は低いようだった。異世界へ行くメンバーを集めるリミットは今日を除いてあと5日。土日を挟むから、彼が登校してくる可能性があるのは実質3日。その間に学校へ来るとは限らない。


 こっちから探し出さないと。説得どころか会えないなんてことになりかねない。


 俺は早々に着替えを済ませてベッドへ倒れ込む。疲れていたためか、布団の感触がいつもより心地良い。


「少し調べてみるか」


 携帯を取り出し、見慣れたネットの検索エンジンへアクセスする。検索ワードは『見木沢闘治』だ。


「へ~、意外にヒットしたな」


 大した情報は出て来ないだろうと踏んでいたが、予想に反して幾つか関係していそうなページが表示された。


 出てきたのは剣道の地区大会の結果がほとんどだ。中には全国大会の結果まである。


「同姓同名の別人か?」


 そう思った俺は、さらに別のページを調べた。そこに書いてあったのは団体戦の結果。


 そして、『一高 大将 見木沢』の文字。


 間違いない。俺の探している奴だ。珍しい名前なので、同じ学校に同姓同名の別人がいるとは思えない。


 「地区大会では優勝や準優勝、全国大会まで行ってるのか」


 結果を見るに強豪と言って良いだろう。それに大将って言ったら一番強いってことだよな? 剣道には詳しくないが、強豪校の大将ってことは相当強いはずだ。


 それに剣道だけじゃない。剣道の大会結果に紛れて、全国模試のページでヒットしている。クリックして見ると、模試の得点上位に『見木沢闘治』の名前があった。


 もしこれがリストの彼なら、コイツはとんでもない秀才ってことになる。剣道が強く、頭の良さは全国模試で上位になるレベル。


「おいおい、文武両道かよ」 


 しかし気になることがある。それは剣道の結果にしろ模試の結果にしろ、すべて1年半前で途絶えているということだ。


 ここ1年半ほどの結果が何もない。それまでは毎年のように成果を上げていた彼が、突然何の結果も出さなくなっている。


「高2年で何かあったのか?」


 クラスメイトの発言では、見木沢闘治は喧嘩ばかりして学校にもろくに来ない不良とのことだった。それはネットで得られた秀才のイメージとはかけ離れている。


 まるで別人だ。もしかしたら本当に別人なのかもしれないが、学校名まで一致している以上それは考えにくい。


 同一人物だとしたら、この1年半の間に彼に何かがあったと考えるのが自然だ。別人のようになってしまう何かが。


「……気になるな」


 それにこの見木沢という苗字、どこかで聞いた気もする。しかし思い出せない。


「って、考えてもわからないか。明日だ明日」


 とりあえず見木沢については後回しだ。居場所がわからない以上、探す他にない。


 俺は仰向けになり、頭上でメモ帳を広げる。そこに書かれているのは異世界へ行くメンバー候補の名前。


 今日会ったのは『詩由原曖』と『麗条紗璃花』の二名。初日にしては上々だろう。もっとも、メンバーになったわけではないが。


「負の感情が強い者たち、か……」


 その二名の名前を見ながら今日の出来事を思い出す。


 まずは詩由原曖。俺が通っていた高校の後輩。小柄で整った顔立ちはまさに小さなお姫様とでも言うべき印象だった。


 しかし、彼女の学校生活は最低最悪なものだった。”死ね”だの”カス”だのと書かれた机。投げつけられるゴミ。彼女は所謂いじめを受けていた。


 見ていて心底不愉快な気分になった。教師を含めたクラス全員が彼女の敵だった。


 彼女は何を思っているんだろうか? やっぱり勝手でも助けるべきだったのだろうか。今でも助けなかった自分に罪悪感を感じている。


 しかしそれでも、俺は彼女から助けを求めて来ない限りは何もしないつもりだ。


「……」


 次に視界に入った名前は麗条紗璃花。


 大きな目と端整な顔立ち。そして真っ赤な長髪。彼女も大きな問題を抱えていた。


 余命一か月。その現実はあまりにも酷だ。


 世界中のどんな治療でも治らない病気。詳しいことはわからないが、医者が手を尽くしてもどうにもならなかったということなのだろう。


 病室から窓の外を見るだけの毎日を送っているのだろうか。そう考えると辛くなる。


 そんな彼女を異世界に連れて行くのは無理だ。異世界に行ってみたいと言っていたが、俺にはどうすることもできない。


「……もう寝よう」


 考えてもどうしようもないこともある。俺は思考を停止させ、電気を消す。


 一日の間に学校と病院へ潜入したり、公園で延々と人探ししたりとさすがに疲労が溜まっている。


 そのためか、俺の意識は一気に霧散した。





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