プロローグ
誰も居ない雑居ビルの屋上。当然だろう、こんな真夜中に好んで来る奴なんていない。
空を見上げれば星が見えるが、その数は少ない。周囲の夜景の方が明るいためだ。全く、こんなに明るくする必要あるのか?エコとか言ってるくせに。
「電気の無駄使いも良いとこだな」
俺はそんな嫌味を言いながら、転落防止用の手すりに手をかける。その瞬間、ヒンヤリとした鉄の冷たさが伝わってくる。
別にエコなんて興味ないし、この街の電力供給について本気で嘆いているわけでもない。ただ、誰にでもいいから毒を吐きたかっただけだ。
「さて……」
そう言って俺は手すりを跨ぐ。転落防止の柵を越えるわけだから、当然その先には何もない。少しでも足を踏み出せば、地面に向けて真っ逆さまとなる。
そんな落ちるギリギリの所で景色を見回す。近場にはマンションなどの住宅、遠くには高層ビルの明かりが見える。夜景としてはまぁ及第点といったところかな。
真下には横向きに続く道路が小さく見え、ちらほらと車が走っているのが見える。ほとんどがタクシーだろうか。こんな時間までご苦労なことだ。
「思ってたより結構高いな。ま、いいけど」
こんな状況を見たら、危険だと言われるだろう。確かに危ないな。落ちたら間違いなく死ぬだろうし。
だけど今の俺には別に関係ない。なぜかって?
簡単な理由さ。
俺は今、死のうとしているからだ。