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斎藤次目は恋をしたら死ぬ  作者: あつ
二章
11/22

一〇話 抜き打ち監査会(中編)

 

 私、斎藤次目さいとうつぎめは綿菓子でできた玉のごとくやわらく愛らしく、喜びとともに生まれ、両親の愛を一身に受けてすくすく育っているので、不実な行いによって子供を作ってしまうようなこともなければ生まれてくる命に父親を知らぬような境遇も与えるつもりはない、信頼に値する健全な青少年である。


 しかしながらそんな私でさえ女性を自宅に泊めるということに相応なときめきを感じることに抗えぬし、泊まる女性の親御様は不審を抱いてもおかしくはないと理解している。

 このうら若き女子三人がしれっと一泊しているこの現状、実は相当なハードルを乗り越えて実現しているのではないだろうか、そう思い各々に確認した。


「『次目くんなら大丈夫ね』と両親は。」


 菅原梨里すがわらりりちゃんは言う。

 何基準で大丈夫なのか。

 菅原家では私は不能かそこらへんとして認識されているのだろうか?

 今、彼女達にリビング全域に展開されているエロ本達をもって示しに行くべきだろうか?


「『ハンコもらうまで帰ってくるな』。」


 と、初恋うぶめれん

 戸籍を変更する手続きの書類がその手にあった。

 ご両親のプッシュに気恥ずかしさやら恐ろしさやらを感じるがそもそもとして私はそれに署名し印を押せる年齢ではないのでこのままでは恋は自宅に帰れない。

 二年間泊まるつもりだろうか?


「『あなた、友達居たのね』。」


 森鴎褒しんかくほまれ部長がべそをかきかき親御様のお言葉を再生する。


「いるもん、ほまれ友達いるもん。」


 そうだね、僕達ズッ友だよ。

 全員で彼女を優しく抱きしめた。



 ◇◇◇◇



『監査』という名の私の性的プライバシーの公開羞恥は土曜日の午前11時をもって一定の成果を挙げたものとしてその幕を閉じた。


 もはや私に残されたものは何もない。

 性癖に関して女性達によって掘り下げられていくこの状況にちょっぴり快感を覚え始めているのを自覚したことが決め手だった。

 私の尊厳は今、完全に粉微塵である。


「なるほど。」

「なるほどですね。」

「うん。」


 三人が思い思いに納得した顔をしている。


 エロ本達が綺麗に揃えられ発売順に並べられた。

 いっそ雑然と放置される以上に恥ずかしい。


 褒部長がいくつかを鞄に入れていたがそれを指摘する元気も無いし気に入ってくれたのなら良かったです。


「……いっそ殺して。」

 さめざめと泣く私。


「ごめんねつぎめちゃん。」よちよちとしてくれる恋。

 外野から「ママずるい」の声が響く。


「これからいいことありますから、ね?」

「本当にするの?」

 梨里ちゃんは乗り気で、部長はためらいがちにそう言った。



 ◇◇◇◇



「『次目くんを落とせるシチュエーションコンテスト』開催です。」



 梨里ちゃんが宣言した。


 私の命を落とすための物騒なコンテストが今、私の意に介さずに行われようとしていた。

 先を見通す目を持つ願いが込められた私にも、この展開ばかりは見通せなかった。


「各々、次目くんの嗜好性について研究した成果を発揮して頑張りましょう。」


 その為のエロ本捜索ですか!それ偏ってはいませんか!?

 エロ本じゃなくてもいいでしょう!?


「つぎめちゃん、恋愛ものの本とか映画、えっちなの以外持ってないじゃない。」


 そうですね。

 男の子は全部そうなっちゃいますね。

 見も蓋もない、退路もない道理だった。


 尚、シチュエーションは公正と身の安全を期すためコンテストエントリー者全員の監視の下で実行することとするらしく、つまりまだまだ衆人環視の下ということです。


「がんばろうね。」


 恋が同意を求めてくる。

 頑張って生きたいので君達はそんなに頑張らないでほしい。



 ◇◇◇◇



 エントリーナンバー1は梨里ちゃんであった。

 指定シチュエーションは『目覚めたら隣に女の子が』である。


 つまりは同衾状態になる必要がある。

 私は遺言を考え始めていた。弁護士を呼んでくれ。


 指定された通りに我がベッドに入り目を瞑り状況の変化を待つ。

 ものすごく緊張する。

 なんだこれ。


 わかった上で敢えてやる、ということの非日常性が私から平静を奪う。


「おじゃましまーす……」


 状況が動いた。


 ひいい!入ってきた!

 人が入ってきてる!


 背中にやわらかく、ちいさな体温を感じる。

 布団の中に己以外の体温があるというのはこんなにも熱いのか。


 梨里ちゃんも緊張しているのだろう。

 小刻みな吐息が首にかかる。

 私の服を掴む指が震えている。


 この状況だけでもとんでもないのに、さらには堂々と親しい者達に見られているのだ。

 下手な反応をしてみせるのも耐え難く、抑えなければならないという意識がより羞恥を煽る。


(……これで起きればいいのかな?)


 そうすればシチュエーションの遂行は果たされる。

 私は跳ね上がる心臓の為にもこの状況を早く切り上げようと思った。


(えっ……待ってください。)


 静止する梨里ちゃんがもそもそと動く。

 何をしているかわからないが随分手間取っている。


 しばらくして、梨里ちゃんは整ったのか、より私に密着してきた。

 うわあぁ、近い!近い!柔らかい!


 腕に触れる感触が先程と全然違う。

 くっつく距離でこんなに変わるものなのか。

 まるで服が無いような、肌で直接あたってるような……



 当たってるよ!!?



 梨里ちゃんの顔を見る。


 真っ赤である。

 目がクロールもあわやという勢いで泳いでいる。


 あの無茶をする時の目だ。

 そして完全に今彼女は無茶をしている!

 上に着ているものをはだけてくっついている!


 遮るものがない体温、肌の触感。

 視覚がなくとも触覚でその形を知らされる。


 これはどこだ?

 お腹?二の腕?それとも?


 これはあかん、絶対にアウト。

 死神がノートに名前を書く音が聞こえる。


 斎藤次目、心臓麻痺。ぎゃふん。



 そこで様子がおかしいことに気づいた監視者達である。


「不正の気配がします。」

「しますね。」


 どうやらこれは不正の水準らしい。

 良かった。

 いや良くない。

 こんなとこ見られたらヤバすぎる。


 梨里ちゃんは服を整えだす。

 急げ!急げ!


 監視者たちによって布団がはがされた。


 そこにはなんとか着衣が間に合って肌を隠しきれま梨里ちゃんとガチガチにかたまった冷凍マグロの私があった。


「な、なんともないですよ?」


 監視者達が目を配る。

 すると剥がした布団に薄いピンク色の生地が張り付き目立っていた。


 胸部にあるべきである下着です。

 どうやら、ブラまでは装着は間に合わなかった模様。


 そうですか、あの感触は胸でしたか。

 そうですか。



 まじかよ。



 梨里ちゃんは恥ずかしいやら気不味いやらで真っ赤な顔を両手で覆って動かなくなった。



「アウト!!!!」



 監視者たちによる違反の裁定が下され、梨里ちゃんはターンエンド。

 固まったまま引きずられていく梨里ちゃん。

 下着が置いてけぼりである。

 まじまじと見ていたら恋にチョップされて取り上げられてしまった。


 ………こんな事をあとの二人も?


 私は真剣に遺言を考え始めていた。

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