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傍観者の日記

作者: 柊 風水

『私』が男なのか女なのかご自由に想像して下さい。

 私は傍観者だ。

 私を表す言葉はその一言に尽きる。



 私の事を詳しく話すと私はとある中級貴族の一番初めに生まれ、弟2人妹3人という中々の大家族で、両親の中も良好という、平凡ながら幸せな家族であると私は思う。


 私の趣味は人間観察だ。

 悪趣味だと思うが生れついた趣味だから勘弁して欲しい。ニコニコと笑顔の裏腹でドロドロっとした人間模様が大好きだ。自分の家庭が平凡で幸せだからこそこんな趣味に嵌ったんだと思う。(でなければこんな悪趣味を趣味としない)


 貴族はまさに私の人間観察にうってつけの世界だった。

 私はあまり顔を覚えられない平凡な顔立ちの様で、何処にいようが他人には構われない。だから色々と目撃したり、盗み聞きをしたりできるのだ。

 例えばあの親友同士だと言っていた人達は裏では片方を破滅しようと躍起になったり、仲の良い若い夫婦は実は裏では浮気をしていたり、どこかの貴族様が裏では犯罪に手を染めたりと。中々濃い人間模様を知る事が出来た。

 それを使って父にそれとなく情報を与えたのは言うまでもない。


 特に王族は人間観察には最適な人達だ。

 だが、中流の貴族である私にそうそうと王族様と関わる権利はない。だが、私は教師をしている。しかも私が勤務している学校は庶民と貴族が両方通っている学校だ。『庶民と直接交流して王になった時に国民が幸せになる政治を』との名目で王太子がこの学校を通うのがこの国の王族の習わしだ。


 比率は6対4でやや庶民が多いが、その分貴族が権力を立てに好き勝手出来ない。

 私の国の国民達は強かだ。貴族は駄目駄目だが。

 王太子は王族の悪いイメージを詰め込んだ人だ。こんなのがこの国の頂点になると思うと頭が痛い。庶民は嘲笑しか出ない有り様だ。


 彼には婚約者がいた。コーデリア・イフリートと言う本当に子供なのかと疑問にもつ位、妖艶な美少女だ。庶民にも貴族にも差別はせず、それでいて貴族としての誇りを持つ素晴らしい人だ。

 だが、どうしてか私の国の貴族王族達の評判が悪い悪過ぎる。神に呪われているのではないかと思う程、貴族・王族達から嫌われていた。


 しかし、庶民や私の様な庶民よりの貴族、他国の王族達からの評判は真逆で物凄く高い。正直他国の王族に嫁いだ方が幸せではないかと両親が嘆かれた程だ。

 私も何度か歯がゆい思いをしたが、当の本人は対して気にしてはいないのか王太子妃の教育を完璧にマスターし、王子が遊び呆けている間彼の分まで外交やら政治やら代わりにやっていた。

 コーデリア様は庶民や私達庶民よりの貴族達の誇りなのだ。それなのにあのクソ共は……(ここでインクが滲んでいる)


 失礼。怒りのあまり強く握り過ぎた。

 ある日、父が青い顔をして王族主催の舞踏会から帰ってきた。本当ならば長子である私も出席せねばならないのだが、その日は前日から熱が出て大事を取って欠席した。

 母が「どうしたの?」と聞くと驚くべき話をし始めたのだ。


 何とあの馬鹿王子は、他国の王族貴族がいる前で婚約破棄をしたのだ。しかも次に婚約するのは聖女だと言う。


 これには私だけではなく、母や近くにいた使用人、弟妹達も思わず絶句した。

 聖女様は最近この国で広がっている伝染病を撲滅する為に召喚された可哀想な女の子だ。

 何故、私が此処まで王族に批判的なのかはウチが外交等を任されていて、他国の人とじかに話し合いが出来る事と庶民と身近に会話出来るせいだろう。


 その方々の話を聞いているうちに段々と我が国が歪んでいる事に気がついた。だが、歪んでいるのは貴族・王族だけなので、庶民や外の国と交流がある貴族はそんな気配は一切ない。(どう言う訳か我が国の王族・貴族は排他的だ)

 我が国だけ使える『召喚』は、異世界から人を無理やり此方の世界に来させ、元の世界に戻さないと言う恐ろしい術だ。(自分がその被害に遭ったら……そう思うと怖い)

 そんな術によって連れてこられた少女を哀れだと思うし、馬鹿王子共の少女に対するセクハラ行為は貴族のプライドを持つ私にとって腹が立つ行為だ。

 それなのにあの馬鹿は婚約破棄をして、少女を王妃にするなどと……


 嘆いている暇はない。この国は終わりだ。早く脱出しないと私達の命が危ない。

 私は急いで逃げる準備をしたが、その時に出会ってしまった。


『神』に出会ってしまったのだ。


 神の私の部屋の窓辺で月明かりを浴びながら佇むその姿があまりにも神々し過ぎて、思わずその場で跪いてしまった。

「貴様がウォカー子爵の長子か」

「は、はい」

「お前の事は調べてある。お前さんの趣味が人間観察だと言う事を」

「はい……」

「お前の趣味を見込んで命じたい事がある」

 ……『お願い』ではなく、『命令』なのか。


「…………何でしょう」

「私は今からこの国の・・・・人・物の行き来を封印・・・・・・・・・・する・・

 封印……人や物の行き来を? ……神は民を餓死するお積もりか。

「罰するのは王族や愚かな貴族共だ。国民はあの子には大そう好意的だ。後、ある程度の衣食住は確保している」

 あの子……コーデリア嬢の事か。恐らく彼女は神の愛し子なのか。兎も角民には無害そうなので安心した。

「お前には残った者達の死ぬ瞬間までの姿を記録して欲しい」

「私が? 何故?」

「お前さんの魂が生粋の傍観者だからだ。ここまで自分の悦楽の為に、私情を挟まずひたすら記録できる。お前のその性根私は好きだぞ」

 神に好かれている事は喜ばしい事だろうが、何故だが素直に喜べない。


「お前には『此処に残る国民達が死ぬまで生き永らえる』『一人が見ているモノを一緒に見る事が出来る』『傍観者として生きて行く間、排泄・食事はしなくて良い』それと、お前個人の願いも叶えてやろう」

 つまりあの馬鹿達の無様な死に様を見届けろと言う事か。私の人生を掛けてあの愚か者達の情けない姿を見続けろと言うのか。この国に残る国民・・は何人いる? 恐らくあの馬鹿王子関係者だけで三十人は超えるぞ。……全員死ぬまで五十年位掛かるか? その間ずっと一人でアイツ等の人生を眺めるのか? そんなの、そんなの



 最高じゃあないか。




「それならば我が家族の幸せを約束して下さい。それさえ守ってくだされば私は主命を忠実に守ります」

「私は約束を守る神だ。お前の家族をありとあらゆる害から守ってやろう」


 そうして私は『傍観者』として生まれ変わる事になった。





(ここからは数千ページに及ぶ膨大な日記となるので省略する。有名なのが何十人かの貴族達が発狂して殺し合いを始めたり、コレに便乗して家族の仇を惨たらしく復讐した馬鹿王子の取り巻きの話だったり。またある取り巻きは婚約破棄した幼馴染への愛に改めて気づき、その幼馴染がワザワザこの国に残ってお互いの愛を確かめ合って心中した等の話があったが、今は関係ないので省略する)







 ○月×日 天気 晴れ


 神のお告げの命令から三十年。

 最後に生き残った王子が、今死に絶えようとしている。

 

 まだ四十であった筈なのにまるで老人の様に老けてしまった。

 当然であろう。彼の両親以外の臣下は何かしらの理由で死に絶え、世話をする人間がいなくなり、三十歳から両親の介護で十年潰れてしまった。

 大変だっただろう。あの夫婦中々くたばらなかったし、扱いづらい我が侭な老人だったから実の息子に無理難題を言い続けていた。

 腹立たしい事にあの夫婦は何時まで経っても己の罪を理解せず、あろう事かコーデリア様と聖女様を逆恨みしていた。

 流石に馬鹿王子も改心したのか親を窘めていたが、逆切れして物を投げてくるからどうしようもない。

 その屑夫婦はある日恐ろしい物を見た様な顔で、ベランダから落ちて亡くなっていた。恐らくはあの神が何かしらの幻覚でも見せたのだろう。きっとあの二人は二度と人間に生まれ変わる事が出来ない、何故だが私はそう予感した。


 一人残った王子は両親の遺体を墓に埋めた後、日がな一日ぼうっと外を見ていて動こうとしない。酷い時は食事すら取らない日もあった。その姿を見て歯痒い思いを持つが、何せ私は傍観者。主役の行動を変える事が簡単には出来ない。

 そうこうするうちに見る見ると王子は弱り始め、寝たきり状態にまでなってしまった。

 もうこの国で彼を世話する人間は誰もいない。せめてと思い木の実を彼の枕元に置いてみたり、床ずれしない様に身体を動かしたりもした。傍観者として失格なその行動を戒める為なのか、何かしらの行動を起こす度に身体に強い痛みが走るが、ソレを我慢して彼の世話をした。


 思えばこの王子も哀れな人間だった。

 愚かな両親の元に産まれ、周りのコバンザメ共からちやほやと甘やかされ、常識人達にはソレを咎める事もせず蔑んだ目で遠巻きにされていた。そんな風に育てられたら愚かな性格に成るのも仕方ない。唯一彼を救う事が出来たのはコーデリア様だった。しかし彼はそのチャンスを溝に捨て、異世界から誘拐した聖女様を選んだ。

 悲しい事に彼のチャンスはその一度きりで、その後は哀れな程悲惨な人生を歩む羽目になった。自分に優しかった世界から一転、誰もが憎しみの目で自分を見てくる苦しい日々だった。

 しかし、その辛い日々も今日で終わる。


「私は……私は愚かであった。彼女がどんなに私の事を気に掛けた事か、あの子がどんなに心細い思いをしていた事か。私は、本当に……気付かなかった」

 私の姿は彼には見えていない筈。現に彼の視線は天井を見ていた。

「ああ……彼女達にもう一度会いたい。会って謝りたい」

「それは無理ですよ」

 思わず聞こえない筈の言葉を吐いてしまったが、まるでその言葉に気付いたかのように王子は自虐的に笑って「そうだな」と小さく呟いた。

「せめて……二人に幸多からん、こ、とを……」

 コーデリア様達の幸せを祈りながら王子は目を閉じた。


 私はこの哀れな王子の遺体をとある高台に埋めた。そこは天に一番近い場所で、この王子が天国に近づける様に祈りながら葬儀を行った。

 次に生まれ変わる時は愛する人に看取れられる様な平凡な人生を送って欲しい。





 王子の最後を見届けた私がこの国の唯一の生存者だろう。

 だが、どうやら私の命もそう長くはないようだ。力が段々と抜けていく気がするし、眠くなってきた。

 全ての国民がいなくなった今、私の傍観者としての仕事も終わりだ。

 コレを書いた後ひと眠りしようと思うが、恐らく二度と目が覚める事はないだろう。


 その前に遺書として何か書こうと思うが、特に書くこともない。

 人間観察を思う存分やったし、自分の思うままに生きたから、これ以上願っては罰が当たる。

 ただ一つ、心残りがあるとすれば私の家族の安否だろうか。

 両親はもう相当な高齢だから生きてはいないだろう。他の兄弟はどうしているだろうか。年が一桁だったエイミリーは私の事は覚えているだろうか。

 そろそろ本当に眠くなってきた。ここで傍観者の日記は終わりとしよう。

 それでは皆様ご閲覧ありがとうございました。







 この日記を初めて見つけてくれるのが私の家族と願って。               

 オリー・ウォカー






 とある国にかけられていた結界が突如として消えた。外からも内側からも通る事が叶わなかった結界。この時いち早く入ったのはエジリア国のレシム・セイリーズとその妻エイミリーである。

 エイミリーの家族は元々彼の国出身の貴族であるが、奇跡的に脱出に成功できた数少ない貴族である。……代償として長子は彼の国に留まる事になったが。

 エイミリーは自分の家族を見つける為に、エジリア国の裏世界の王とも呼ばれている夫レシムの力を借りた。(エイミリーとレシムはかなりの年の差婚であったが、周りが呆れるほどのラブラブ夫婦だった)

 そして彼の国に入国して直ぐに家族と再会できた。

 エイミリーが元々住んでいた屋敷の、長子の部屋に眠る様にベッドで亡くなっていた。

 苦痛の一つもない安らかな眠りだった。


 そして机には長子が残した日記があった。その日記でこの国に残された人間達の行動を知る事が出来た。これは後の歴史研究家達が彼の国を調べる時に大変重宝された。

 長子が残した日記は歴史研究家達だけではなく、文学者達にも大きな影響を与えた。滑稽な喜劇、人の醜い面が現れる血みどろな復讐劇、閉ざされた国で愛し合う恋人達の悲恋など沢山の物語や舞台を生み出す要因となったのだ。


 長子、オリー・ウォカーの葬儀は家族だけの小さな物だった。葬儀が終わると、オリーの両親はやっと安心したのか、二人共相次いで病によって亡くなった。例え死体となっても我が子に再会できたのがよほど嬉しかったのだろう。


 それから数十年後、オリーは記録の神として人間から神になった異例の存在となった。


その頃二人はと言うと……


「ねえねえ! この髪留め可愛くない!?」

「可愛いわね~このネックレスも可愛いと思わない?」

「うんうん可愛い! あ~お金が沢山あるから衝動買いしたくなる~」

「その時は私が止めてあげるから」

「頼りにしてますお姉様❤ その代わりお姉様が食べ過ぎる時は私がセーブしますから」

「……本当に止めてね」

そんな会話をしている女の子二人組がバザールいたそうな。




「あーもう! 僕のひぃが可愛過ぎて性的に食べたくなる~!!」

「退け。美伊の美味しそうに食べる姿が見えん」

物陰で美しい顔立ちの男達が瞬きもせずに少女達の姿を見ていたと言う話も合った様ななかった様な。

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[気になる点] 本文修正確認しました。 追記の疑問です 婚約破棄直後 王子:とりあえず10で "私"の両親:とりあえず40で 30と数年後(王子死亡) 王子:44 両親:74 やはり20年以上足…
[良い点] 彼の国の国王夫妻は最後まで愚図だったのですね。 [気になる点] 年数について疑問なのですが >恐らくあの馬鹿王子関係者だけで三十人は超えるぞ。最低でも百年は掛かるぞ。 人数関係無くない…
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