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亜空間商店  作者: たこね
第一章
9/18

第五話:初商売

 ビールの箱を積み上げたカートを押し、食堂に向かう。

 とは言え食堂と風呂場は隣り合っている上、食堂と廊下は壁がない開けた構造なので、数歩で食堂である。


 テーブルでお茶を飲みながら待機していたメンバーの視線がカートに集中する。

 ちなみにスーパーなどで利用されている、買い物かごをセットできるタイプのカートであることも珍しさを強調しているだろう。


 しかし、一名だけは荷物に熱い視線を送っていた。


「その箱に書かれている絵はさっきのビールだな?」

 目ざといというべきか、それとも単に酒好きの執念か、スパンドはビールを要求して来る。


「こいつはこれから冷やすんだ、それにこれは商品だから買うにしても先に話をまとめないとダメだろう?」


「むう……たしかに」

 スパンドは現金を持っていない、共有財布も余裕はなく、ミアーナの個人資産頼みという状況を思い出してくれたようだ。


 一箱だけ開封し、冷蔵庫に放り込む。あ、ソフトドリンクの影にビールが一本隠れていた。


 ついでにお茶のおかわりも用意し、交渉のテーブルに着く。


 結果、はじめに提示した一泊単価二十五Crは妥当どころかむしろ安いということで契約成立、六名三泊で四百五十Cr。


 朝食夕食込みで計算していたものの、自分含めて七人分の食事を用意した経験がないことを伝えると、ミアーナとマトルが手伝いに入るということになった。


 マトルは今風呂に入っているのでこの話し合いに参加していないが、パーティーの食事の大半を用意しているのは彼女で、新しい料理のレシピ研究も趣味なので、頼めば快く引き受けてくれる、場合によっては食材提供とこのキッチン設備を使えるというだけでも喜びそうだ、という話である。


 飲み物についてはビール一本の単価が三Crで普段彼らが飲んでいるエールより高価だったため、単価の安いエール酒に近い発泡酒系のものを三種類ほど試してもらうことにして、そこから一人一日二本まで、ビールも含めてそれ以上は別料金、水とお茶は飲み放題となった。


 当然スパンドは不満気ではあったものの、ボーマーがソントやアキーノスに分けてもらうように交渉しようとなだめていた。


 最後に食料の購入について、パーティ所有の食料は十食分、三日分プラス本日夕食分となっている。


 明日と明後日の二日間は昼食分のみの消費で、滞在最終日の朝も浮く、昼も弁当を用意すれば補充なしでも予定の範囲内にぎりぎり収まるのであえて補充なし、という選択肢が生まれた。


 しかし迷ったとは言え五日掛かったのだからそれを踏まえて追加購入をした方がいい、というアキーノスの意見を採用し、干し肉と堅焼きパンがそれぞれ三食分セットで二Crだったのでサンプルとして提供したところ、即座にそれぞれを六人二日分、四十八Crのお買い上げが決定。


 総額は四百九十八Cr、代金として金貨三枚、大銀貨十九枚、銀貨八枚を受け取った。


 タブレットから注文を済ませて再度倉庫に向かう、カートを用意したのは大正解だった、四日分の食料が六人分となるとかなりの量と重さである。

 同時になんとも言えない引っ掛かりを覚えながら食堂に戻るが、風呂場の前に来たところでドアが開く。


 バスローブにサンダルをつっかけ、肩にはバッグを引っ掛けるという格好で出てきた。

「すっごい気持ちよかったー、喉乾いちゃったからなにか冷たい飲み物もらえないかしら?」


「ひょっとして洗濯まだ終わってないのかい?そんな格好で動き回っちゃダメだろう」

 軽くたしなめながら冷蔵庫に向かい、入っていたソフトドリンクの中からオレンジジュースを取り出し、タブを開けてから渡す。


「洗濯は終わってたけど、このローブすごく着心地いいから汗が引くまで着てたいのよ、あ、これ冷たくて美味しい」

 飲み物を楽しみながらもバスローブや髪の毛の手触りについてミアーナに熱心に説明している。


 かと思えばソントくんに缶を引っ付けたりバスローブの袖を顔に押し付けたりと、なかなかのハイテンションなのだが、裾やら胸元がはだけないか心配になる。


「いや、年頃の女性が素肌にそれ一枚じゃまずいだろう」

 一部の属性の方々大歓喜な状態はよろしくない。


「下着はつけてるから大丈夫よ。服は全部しまったから、後で着替え直すわ」

 そう言って肩にかけたバッグをぽんと叩くが、その袋は中身が詰まっているようには見えない。


「その袋にさっき着ていた服が収まってるようには見えないんだけども……」


「あ、このバッグは魔法が掛けてあるのよ、今もいろいろ入ってるのよ」

 バッグを下ろし、手を入れる。

 そして吊り下げ式の取っ手がついた大きめの鍋を引っ張りだす様は某四次元なアレであった。


 ゲームなどでそういうアイテムの存在は知っているのだが、実際見ると不思議にも程がある、思い起こせば八日間分の荷物を持っていたにしては全員武装以外の荷物の存在感がなかった、さっき覚えた引っ掛かりはこれだったようだ。


「お互い様だとはわかっているんだが、常識が揺らぐねぇ、ちなみに全員それを?」


「冒険者ギルドにある程度お金を預けると貰えるのよ、額が増えると他にもいろんなサービスが受けられるようになるわ」

「ミアーナくらいだな、最低限預けた以外は自分で持ち歩くってのは」


「前に組んでたパーティでサービス目当てにリーダーにお金集めていたら持ち逃げされたのよ、ギルドがすぐ取り返してくれたのだけど、手間賃でほとんど消えちゃったわ、それ以来自分で持ってないと落ち着かないのよ」


 一般的な冒険者は最低限必要な現金以外は貯蓄に回し、その額に応じたサービスを受けることで活動していくのだそうだ。


 先ほどのバッグは金貨五枚で支給され、残高が五枚を割り込む状態が続いたり、悪さをしてギルドを除名されると没収される。

 十枚で救援要請が送れるアクセサリー、主にリングが支給され、遭難してもそのリングの位置を辿って救援部隊が派遣される。

 五十枚預けるとそのリングで救援要請するとギルドから状況に応じた救援部隊が転移魔法で飛んで来るようになり、百枚でメンバー全員即時転送による脱出。


 ただし、救援内容に応じて代金が請求されるので、むやみに呼ばないのが普通であるが、基本的に預けた額以上は請求されない。

 また、リングに簡易な連絡機能があり、帰還予定変更の場合はそれで連絡を入れるようになっていて、予定期日を過ぎると即時に徒歩の捜索隊が編成、または周辺にいる別のパーティに調査、救援の要請が飛ぶが、間に合わず死亡した場合、遺品や残った貯蓄は遺言で決めたとおりに処理され、葬儀も行われる。


 また、サービスはリーダーの貯蓄額に依存しているのでリーダーが十枚以上預けていれば救援は全員受けられる。

 たしかにこのシステムならリーダーに集めるのも頷けるし、ミアーナが少数派なのも納得行く。


「預け額で言うと僕が一番多いんですが、五十枚には届きませんし、単独で斥候に出たりすることが多いのでソントにリーダーをお願いしているんですよ」

「ボーマーも貯めこんでるけど、リーダーに向いてないもんね」

「マトルちゃんは俺にきつくない?泣くよ?」


 そろそろ食事の準備をしないといけないな。

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