第四話:宿屋として
「そういえば食堂の隣の部屋が宿泊室になっていて、そこにベッドも六人分あるなぁ、しかし宿屋って発想を持ってなかった」
なんの意味があって存在しているのかと思っていた宿泊室にそういう意図が隠されていようとは。
「そう考えると風呂もあるし、表で野営するよりは快適に過ごせるね。となると宿代をいくらにするか、か」
数日前に泊まったユースホステルの記憶を掘り返すが、同時に小説などの冒険者達が利用している宿の雰囲気とすり合わせてみる。
とは言え案ずるよりなんとやらで、聞いてみたほうが早そうだ。
「普段泊まってる宿の話を聞かせてもらってもいいかな?こっちの常識と違いそうなんだ」
ミアーナが答えてくれる、どうやら金銭は彼女が管理しているようだ。
普段利用している宿は二人部屋のこちらで言うツインルーム、風呂無し、食事別で一泊銀貨十枚。
食事が一食銀貨四枚前後、エール一杯銅貨十二枚で朝食夕食込で計算すると銀貨二十枚位。
「探索で宿に泊まることなんてなかったから、あまりお金持ってきてないのよね……」
やや困り顔で付け加えてくれた。
今回は街から直接ここに向かっているが、村などに泊まる場合はギルドと契約している村長宅に泊めてもらうため基本的に宿代は計算外で、大概の場合はいま用意している共有の財布にある額で事足りるのだそうだ。
「ミアーナは貯金持ち歩いてるじゃないか、そこからちょちょっと貸してくれよ」
ボーマーの要求にミアーナが切れる。
「ちょっと、地味に貯めこんでるくせに人の財布を当てにしないでよ!あんたたちだってギルドに預けっぱなしにしないで少しは持っておけばこういう時困らないのに!」
「ミアーナ落ち着いて、もともと想定外の出来事なんだ、次からは僕も少し持ち歩くようにするよ」
アキーノスが仲裁に入る。
そこそこ厳つく、その割には飄々として、かつお金にルーズそうに見えて蓄財家とは、ボーマー侮りがたし。
「こちらとしては朝食夕食込み、風呂と洗濯機利用もセットで一人一泊銀貨二十五枚辺りで考えたんだが、部屋と風呂を見てもらってから詰めるのはどうかな」
考えこむミアーナに、施設のチェックを先にやろうとみんなで説得する。
まずは食堂の隣にある宿泊室に案内する。
部屋の壁三面に二段ベッドがそれぞれ張り付くように設置され、奥側のベッド二人分を含むスペースを引き戸で仕切れるようになっている。
「これなら問題ないんじゃない?、綺麗だし、二段ベッドって言ってもかなりしっかりしてるわ」
女性陣のうち一人、マトルは奥の二段ベッドの上で建て付けを確認しながら問題なしの判定。
「そうね、今まで泊まった六人部屋なんかとは比べ物にならないわ、引き戸で仕切れるから実質個室よね」
ミアーナも仕切りを開けたり閉めたりしながら高評価。
「ベッドもカーテンで囲めるようになってるんだな、これならスパンドがいびきをかいても安眠できるだろ」
「いつもいびきをかくわけじゃないだろう」
「そのたまにがうるさいんだよ、俺は気にせず寝れるから相部屋になってんの」
男性陣も部屋には文句なしのようである。
お次は風呂場である。
移動しながらミアーナがブツブツと呟いているが、とりあえずそっとしておく。
風呂場に到着したが、まずはトイレの説明をしておく、これは必須だろう。
便座の上げ下げ、小川の音を流す機能、そして温水洗浄機能とトイレットペーパー、そして水を流すという手順を説明するとスパンドが早速使うと言い出した。
小川の音をBGM代わりにし、その間に他のメンバーに洗濯機の説明を済ませる、とりあえず放り込んでスタートボタンを押せばいいだけの亜空間仕様であるので気が楽である。
ヘタすれば自分が全員の洗濯物を預かるところだった。
説明が終わると同時にトイレから雄叫びが上がる、説明はしたけど体験するとああなるわな。
出てきたスパンドは「びっくりしたが、綺麗になるのは素晴らしいな」と満足気であった。
スパンドの勧めで全員温水洗浄を体験することになり、そのたびにあひゃぁだのうひゃあだのと声が上がる。
その中でもマトルは「この発想はなかったわ、魔法でも再現できるんじゃないかしら」と目をキラキラさせていた。
色々と横道にそれたが、本命の風呂である。
とは言え利用するなら二人までが現実的なサイズである。
今回は入らず説明だけなので二人づつにマシューが付き添って使い方を説明する事三回。
説明を終えるとマトルがすぐに風呂に入りたいと言い出した。
「少なくとも今日はここに泊まるのよね?お風呂に入ってる間に洗濯も終わるみたいだし、全部洗っちゃいたいくらいだわ」
「そういうことならバスローブを用意しよう、風呂から上がったらそれを着れば裸で洗濯物取り出さなくて済む」
「ありがとう、気が効いてるわね。ミアーナはどうする?一緒に入っちゃおうよ」
「宿代の話も済んでないし、あなたがお風呂に入ってる間に予定も含めて決めちゃおうと思うの、私は後で入るわ」
「じゃあソント一緒に入る?」
「い、いや一応リーダーなんだからうん、は、話し合いにね、ほら参加しないといけないし」
ソントくんがゆでダコのように赤くなり、他のメンバー、特にボーマーとミアーナがニヤニヤしている。
「じゃあ終わったらあたしと入る?頭洗ってあげるわよ?」
ミアーナの追撃が入る。
「ミアーナなに言ってんのよ!」
この後の話し合いに参加できるのか心配になるくらいにソントくんが追い詰められ、マトルの顔も少し赤い。
アキーノスの介入でひとまず場が収まったため、マトル以外のメンバーは食堂へ、マシューはバスローブとついでに大量に消費されるであろうビールと追加の食材、運搬用のカートを用意する。
マトルにバスローブを届け、食堂までカートを押していくマシューであった。
更新ペースが不安定で申し訳ありません。
ミアーナの呟きは考えておいたのですが、他の作品でもっとハイレベルな表現を見て、割愛致しました。




