第一話:冒険者来店
カゴに放り込んでおいたコーラを取り出し、一口。
いっそのことビールでもよかったな、さすがに初日から客が来るなんてこともないだろう。
そんなことを考えた時、タブレットが通知を知らせるポーンという音を鳴らす。
フラグだったかな、と思いつつ通知を確認する。
”顧客来店が近いため、商品リストが更新されました”
”以下の施設は設備が一時的に変更されます”
”シューティングレンジ:文明的影響を考慮し、弓の射場および戦闘訓練施設に変更”
”トレーニングジム:文明的影響および類似施設が隣接しているため、当該施設に統合”
ビールにしなかったのは正解だったといえるのだろうか、なにこの鮮やかなフラグ回収。
文明的影響という事は銃器のない世界だったのか、銃が買えたのは本当に訓練的な意味だったようだ。
今持っている銃はどうすればいいのだろうか、派手な色のジャケットは脱いで食堂に放置していたのでホルスターに収めた銃は丸出し状態である。
とりあえずズボンに納めていたロングTシャツの裾を出し、腰に装着した銃が隠れるようにする。
しかし文明的影響って、食堂や風呂だって文明的影響ありそうだが、そこはスルーなのね。
とりあえず出迎える準備でもしたほうがいいかな。
そう考えて立ち上がり、コーラを飲みつつタブレットを放り込んだカゴを持ったところで森の中から人影が現れる。
すらっとした体格で弓を手に持った男性。
こちらに気づくとまだ森の中にいる後続を止めるような仕草をした後、こちらに笑顔で手を振ってきた。
こちらもカゴを置き、笑顔で手を振り返すと警戒を解いてくれたのか森の中に向かって合図を送る。
するとぞろぞろと森の中から後続が現れる、人数は五人で弓の男性と合わせて六人。
森からここまで百メートルほど離れているため、彼らがここにたどり着くまでの間は岩に腰かけ、ジュースを飲みながら待つことにし、同時に最悪のパターンを想定する。
とりあえず攻撃されるとすればこの距離なら弓だ、岩の裏に隠れて応戦すればある程度は凌げるだろう。
銃には弾が十発と、同じく十発の予備マガジンが一本、後は刃渡り五センチの小型ナイフしかないが、うまく牽制して店内に逃げる余裕は持てるだろうか――まあお客様一号なのだからそんなことにはならない筈だ、気楽に行こう。
物騒な考えを頭から追い出す。
程なく心配も現実とならずに一行が到着する。
今度は言葉の心配が出てきたのだが、でたらめ続きなんだからここも通じるだろう。
その考えを裏付けるように弓の男性――エルフだった――が声をかけてきた。
「こんにちは、この周辺に廃坑があるらしいのですが、ご存知ですか?」
まさかの迷子パターン。
むしろ俺も迷子だよ。
「残念ながら、自分も店から出たら知らない土地に来ていてね、いま立っている場所以外のことはさっぱりわからないんだ」
廃坑を通り抜けた先にある火山に指輪でも捨てに行くんだろうかと言った風情の一行に、素直に説明する。
「店だと?何の店なんだ?」
小柄ながらごついおっさん――ドワーフだった――が店という単語に食いついてくる。
「一応武器屋なんですが、食料や雑貨も扱ってます」
「ちょうどいいじゃない!食料売ってもらいましょうよ!」
「マトル!落ち着け」
おっさん以上に小柄な女の子――ホ、またはハ、もしくはグ、小人族かな?――が慎重に考えた場合、本来ならもう少し温存しておくべき実情を暴露し、同族っぽい男の子がそれを抑えようと割り込んでくる。
「開業準備中でね、物や量に関してはまだ棚卸が終わっていないんで、その辺を確認してからになるけど、まあ必要な分は用意できると思う。そのあたりの話を詰めるなら中でしたほうがいいかな、飲み物や軽く食べられるもの位なら出すよ?」
岩肌に引っ付いている木製の扉を指し示す。
「ソント、どうする?」
エルフが小人男子に声をかける、ソントくんがリーダーなのか。
「どうするも何も、中で一服させてもらえるんだったらお世話になろうぜ、歩きっぱなしでへとへとだぁ」
ガタイのいい重装の戦士――人間だね――が見かけよりも軽い喋り口で割り込んでくる。
「私もボーマーと同意見かな、ここなら安全そうだから休むにはいいし、食料の当てが付けば日程にも余裕ができるもの」
少しそばかすのあるヒーラーっぽい女性――こちらも人間――も同調する。
ドワーフは大勢が決していると判断したのかソントくんの決定を待つようにうなづいている。
「……そうですね、中にお邪魔させていただきましょう、このパーティのリーダーをしております、ソントです」
それでもやや悩んでいたようだが、納得したのかこちらに握手を求めてきた。
その手を握り返し、自己紹介をする。
「店主のマシューだ、亜空間商店へようこそ」
リーダーのソントくんが残りのメンバーを紹介してくれた。
エルフはアキーノス、ドワーフのスパンド、ヒューマンのボーマー。
女性陣は小人族のマトル、ヒューマンのミアーナ。
種族名は正確にはエルヴィニス、ドワヴィニス、ヒュミニス、デミタニスと呼ぶそうである。
生える設定、荒ぶるプロット、貧弱な兵站の如き文才、こんな状態ですが、ブックマークしてくださった方がいらっしゃいました。
気づいた瞬間心臓が跳ねて椅子から腰が浮きました。