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亜空間商店  作者: たこね
序章
4/18

第四話

 いろいろな戸惑いが波状攻撃のように襲ってきていたせいか、ある意味初歩的な問題に気が付いた。


 表は異世界っぽいが、周りは森に囲まれている、という事はこの店はかなり辺鄙な場所にひっそりと存在し、店を示すサインはドアに書かれた亜空間商店という文字のみ。そもそもこの世界の住民がその文字を読めるのか、それともこの手の話お約束であるなんか通じるようになんたらの力で翻訳します、みたいな感じなのか。


 そしてこんな場所である以上、客よりも先に知能のあるモンスターや山賊の類がやってくる可能性もある。

 丸腰でいるのはさすがに不用心だ。


 取り急ぎ商品メニューを開きなおし、ハンドガン一式とホルスター、小型ナイフを購入し、倉庫に向かう。

 その前に注文していた支給品の買い物カゴにそれらを放り込み、いそいそとテーブルに戻ると手早くナイフとホルスターを身に着け、ハンドガンの準備をする。


 購入したハンドガンはベレッタPx4コンパクト、エアガンにもなっているフルサイズモデルより少し小さいモデルである。

 以前行った実弾射撃ツアーで撃ったことがある銃であり、ほんの僅かではあるが感触を覚えている。


 ツアーで撃った他の銃もリストには並んでいて迷いはしたものの、ろくな練習なしで実戦に挑む可能性がある現状ではクラシカルな操作と最新の安全性を両立しているこの銃が無難であろうという判断であり、心の中で囁く声をねじ伏せた結果である。


 マガジンに弾を十発だけ詰める、このマガジンには十五発まで入れることができるが、フルに近づくにつれて圧縮されたバネの反発で入れづらくなるし、詰め方が悪いと引っかかって弾が上がってこないこともあるらしいので慣れるまでは少なめにする。


 まだマガジンを装填していない銃を手に取り、セフティレバーを跳ね上げロック解除、スライドを引き、離す。

 引き金をゆっくりと引き、ハンマーを落とす。

 何度か繰り返して渋い部分がないか確認するが変な手応えは感じられない。


 分解用のレバーを操作し、フレームからスライドを抜く、リコイルスプリングとバレルをスライドから取り外す。

 ここまではエアガンでも再現されているのでスプリングの硬さ、金属が触れ合う音と感触以外は大して変わらない。


 付属していたマニュアルを見ながらファイアリングピンを取り外す。

 各パーツに余分についていたオイルを拭き取り、足りていなそうな場所は塗りなおし、組み上げて再度動作確認を行い、セフティをかけ、マガジンを挿入。

 最後にホルスターに収め、その場でジャンプしてずれたり抜けたりしない事を確認、抜いて、構えて、戻す。


 何度か繰り返し納得がいった所で椅子に座り、タブレットを手に取る。


 とりあえず護身用の装備は完了したがメニューでまだチェックしていない項目が残っている。


 買取に関しては後回しにして、施設のアイコンをタップする。

 周辺と店内というアイコンが増えたので周辺をタップ。


 朝にも見た周辺マップが表示され、その表示半径内の情報がオーバーラップした状態で記述されているが、それにより周辺に人影や攻撃的な生き物はいないという事が読み取れる。

 この範囲内なら店内にいても周辺が確認できるというのは非常にありがたい。


 画面を戻って店内をタップすると各部屋の名前と増設可能な部屋の名前がリストに表示されている。


 増設可能な部屋はトレーニングジム、シューティングレンジ、医務室、個室(追加)があり、それぞれ五千Crで増設可能。

 日本円にして六十万円程度、どういう基準なのかが理解できないが、これも亜空間クオリティなのだろう。

 

 とりあえず必要性を感じていたシューティングレンジと、後々運動不足になりそうな予感を感じていたためトレーニングジムを追加することにした。


 シューティングレンジの決定ボタンを押すと、屋内マップが開き、どのスペースに配置するかを選択する画面になる。

 廊下を延長し、工作室の隣に配置することにして、決定ボタンを押す。


 ゲームならSEが鳴って設置完了となるが、こちらではリアルに振動と地響きが鳴り、先ほどまで突き当りだった場所が奥に移動し、新しいドアが増えている。

 続いてトレーニングジムもその向かい、倉庫の隣に設置。


 ジムの確認は今後すればよいので、まずはシューティングレンジの確認である。


 先ほど用意した銃関連一式をカゴに放り込み、レンジへと向かう。


 ドアを開けると奥行き二十メートルほどの射撃ブースが2つ並び、その脇には銃をしまっておけるロッカーとちょっとした作業や休憩に使えそうなテーブルとイスが設置されている。


 ブース内を確認すると、シューティングタイマーとターゲットコンソールが並んでいる。


 タイマーはブザーが鳴ってから何秒で発砲できるか、何発を何秒で打ち切ったか、というものをカウントしてくれるのだが、設置されているタイマーは着弾も確認してくれるようなっており、練習するにはかなりよさそうである。


 ターゲットコンソールは紙のターゲットをぶら下げ、任意の距離に移動させたり、地面に設置されている金属の板を起こしたり畳んだり、パターンに合わせて自動的に起き上がるように設定できるようになっている。


 早速練習を行うことにし、タブレットから追加の弾丸と予備マガジン類、そして目を保護するシューティンググラスと耳栓を購入すると、ロッカーが低いうなりをあげ、ロッカーに直接転送されたようである。


 銃を用意した時は忘れていたが、屋外でも発砲音はかなり大きく、なれない身には耳栓をしないと結構きついのだ、音が反響する屋内なら必須だろう。

 シューティンググラスはエアソフトガンでは必須だが、実銃の場合は撃ちあう前提でもなく、至近距離で自分の撃った弾が跳ね返ってくることも滅多にないので必須ではないが、発射ガスや薬莢、場合によっては銃から外れた部品が飛んできた時の保険である。


 逆に言えばエアソフトガンを撃つ場合は家の中でも目の保護をしたほうが良いし、撃ちあうのであれば実銃用ではなく、隙間なく覆ってくれるタイプのゴーグルを選択すべきだろう、撃たれるときは正面とは限らないのだから。


 タブレットのほうからもタイマーとターゲットの操作が行えるようになっていたが、とりあえずは的の設定だけでいいだろう。


 的を撃ち続ける、弾薬が支給品に含まれていたのはありがたいが、弾をマガジンに詰めるのが大変である。


 そして不思議なことに気が付いた。数十発は撃ったはずだが、床に落ちている薬莢の数が明らかに少ない。

 不思議に思いながら床に散らばった薬莢を眺めていたのだが、ふと目を離して視線を戻すと落ちていた薬莢が消えている。

 どうやらある程度たつと消えていくようである。さすが亜空間、小難しいことを考えても無駄である。


 さっき微妙に悩んでいたゴミの問題も亜空間だから分別とか気にしなくていいのかもしれない。

 食堂で捨てたゴミもすでに消えてるのではないか。


 これ以上撃つと手が痛くなりそうだった事もあり、射撃練習は切り上げる事にして銃をクリーニングする。


 オイルと硝煙の臭いが染みついているのでシャワーでも浴びてスッキリしよう。


 前回は人がいるかどうかだけをチェックしていたので中をしっかり見なかったが、洗濯機が設置され、その隣に洗面台とユニットバスが設置されている。


 先ほどは気にならなかったが、自分が使う立場となるとユニットバスは不満である。

 タブレットを操作し、設備メニューから風呂をタップすると、やはりグレードアップが可能なようである。

 トイレを個室に変更、ついでに全自動のシャワー付きに、洗濯機も最新っぽい洗濯乾燥機に、風呂は二十四時間いつでもきれいなお湯に入れる上にジェットバス機能までついたものが選べたため、思い切ってそれにする。


 実行ボタンを押すと”改修を行うため、部屋から退出してください”という警告が出る。

 廊下に出ながらついでに見当たらなかったタオルやシャンプー、着替えなどを支給品からチョイスし、倉庫に受け取りに向かう。

 風呂場に戻ると改修は当然ながら終わっており、中は先ほどとは比べ物にならないほど豪華かつ広くなっていた。


 洗面台を除いて。

「バランス悪いなぁ……まあ後で考えよう」


 湯船をチェックすると、すでに適温のお湯が張られた状態だったので、いそいそと荷物から風呂グッズを展開し、風呂を楽しむ事にする。

 脱いだシャツを洗濯機に放り込んだ所でタブレットがポーンと鳴る。

 通知をチェックすると、洗えるものであれば同時に放り込みスイッチを押すだけで最適に洗濯してくれるらしい、ビバ亜空間。

 でもそれならなんで一般家電風の見た目なのか。まああまり突っ込んでもきりがないのでスルーしよう。


 風呂から上がるとすでに洗濯が終わっていたので取り出し、代わりにタオルを放り込み再度スイッチを入れる。


 食堂に戻り、コーラをカゴに放り込んで一服するために表に向かった。

 店の外、前回も腰かけていた岩に座り、煙草に火をつける。


 ゆっくりと吸い込み、大きく息を吐く。


 風呂上がりの肌をそよ風が心地よく撫でてゆき、暖かな太陽がわずかに湿る髪の毛をほんのりと乾かしてくれる。


 朝起きるなり混乱に次ぐ混乱だったが、受け入れてしまえばこれほどまでに快適な環境はない。


 衣食住のレベルは今までの生活より良いし、表に出れば大自然が迎えてくれる。


 孤独である、という点についてもどのくらいの頻度で来るかはわからないが店という体裁を持っている以上、客も何らかの方法でやってくるのであろうから、そこで他愛もない話でもすればいい。

ややぶつ切りになりますが、ここまでを序章といたします。

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