第十三話:別れ
ミアーナが取りまとめた買い物のリストは多岐にわたった。
「まずはカレーね、一クレジットの安いのを二十五個、三クレジットのやつを十個」
「結構買い込むね」
「カレーはマトルが再現してくれるみたいだからかなり減らしたのよ」
「減らしてこれ?」
「ええ、味の付いてないライスは五十個もらうわ」
「お、おう」
「マーボドーフを十個、シチューは白いのとブラウンのを五十個づつ」
麻婆豆腐はニCr、クリームシチューとビーフシチューは二個で三Cr、気に入ったとしてもかなりの量である。
「買い方が既に商人の仕入れになってきてるな」
「んー、少しは売ったりすると思うけど、基本的には自分たちで食べるつもりよ?」
確かに結構な量とはいえ六人で消費するのだし、ここでしか買えないのだからこの位の量にはなるのだろう。
「カニメシとカマメシ、ゴモクゴハンとトリメシの缶は百個づつ」
鳥めし缶が一個四Cr、その他は一Crだが、購入量が想像を超えている。
「そこまで気に入っていたのか……あ、缶切りがいるな、四つ程サービスするよ」
「助かるわ、缶は道具がいるの忘れてた」
「ここまでで千百二十五クレジットだと……」
「まだあるわよ?マトルがレシピや調味料を買うじゃない」
マトル枠とでも言うべきであろうか、レシピや調味料、スパイス類に加えて大豆等の種関係を幾つか合わせて四百Cr。
「戻ったら十倍出すなんて言っていたが、本気か?」
「ああ、身内には流石にやらないわよ、でもそれだけ欲しいって意志があったってこと」
他人には十倍もありうるということですね、まあキロ単位で買った塩に至っては十倍でも効かないかもしれないが。
「これで全部かな?」
「あ、お風呂にあった髪や体を洗うときに使う泡になる液なんだけど、あれも欲しいの」
「あるね、ボトルが六クレジットで詰め替え用が三クレジットだ」
「香りがついていないものってないかしら」
「香料の入っていないのも値段は同じだな、匂いは苦手かい?」
「探索や狩りの時は香りが邪魔になっちゃうのよ」
「なるほど、冒険者特有の悩みってやつか、ここ二日は大丈夫だったのかい?」
「一晩寝たら香りは落ち着いていたし、魔物も匂いに反応するのはいなかったから」
というわけでヘアケア、スキンケア各種も購入し二百五十Cr。
最終的な支払額は千七百七十五Cr、日本円にして百二十円計算なら二十一万三千円相当、初日に受け取った宿代と四日分の保存食も合わせれば二千Cr、金貨二十枚超えの爆買いである。
「用意してみたが、これ本当にそのバッグに収まるのかい?」
「流石に箱ごとは無理だけど、箱から出せばみんなのバッグになんとか収まるわね」
積み上がるダンボール箱の数も重量も結構なものなのだが、これを六人で分担とはいえ収納しきってしまう魔法のバッグの容量には驚かされるばかりで、このバッグのためだけに金貨五枚をギルドに預ける者も居るのだろう。
六名の荷造りを横目に支払われた金貨と銀貨を確認する、結構な重量と質量があり、これだけの現金を魔法のバッグ無しで持ち歩くのは不便だろう。
そんなことを考えながら、店舗に構築したバリケードを解体しているうちに荷造りも終わり、一行がここを発つ準備が整った。
「それではマシューさん、お世話になりました」
「こちらこそ、いろんなことを知ることが出来たよ、俺には宿屋の主人は向いてない、とかね」
「もう泊まれないの?それは残念だわ」
「宿屋として営業しないだけだよ、もしまた来るようならぜひ泊まってくれ」
「報告が済んだらまた来るわ!何人か増えるかもしれないけど」
「おう、待ってるよ」
「今度は酒も売ってもらわないとな、貰った分じゃすぐ足りなくなりそうだ」
「うむ、次こそは大量に売ってもらうぞ」
予算の都合と訓練の報酬という名目で渡したものの、ただで貰ったも同然の酒があるということで酒類の購入は見送られている。
「マトルも言っていましたが、何人かに声をかけてすぐ戻ってこようと思っています。もちろん移転してしまう可能性も含めて説明したうえで信用できる人間だけを連れてきます」
「もし移転していなければ歓迎するよ」
アキーノスと握手をかわし、他のメンバーとも握手をする。
「じゃあ、またね!」
「おう、またな」
お互いに手を振り合いながら一行は森の中へと入っていった。
ベンチに腰掛け、煙草を取り出し、ゆっくりと煙を吸い込む。
街まで順調に行けば二日、報告や知り合いに声をかけ、再び出発するのに二、三日は掛かるだろうから一週間は一人の生活になるだろう。
その間に増えるであろう来客の寝床を確保しないといけないな、空っぽの店舗ももう少し店らしくした方がいいだろう。
そんなことを考えながら、店の中へ戻ることにした。
◆
一週間後、冒険者一行は同行者を伴って再びこの地を訪れた。
しかし、出迎えたのは放置されたタープテントとベンチのみで、ドアのあった場所は岩肌に埋め込まれたレリーフを取り外した後のように削り取られた窪みを残すのみであった。