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亜空間商店  作者: たこね
第一章
16/18

第十二話:観察

 ドアを開けると岩に身を潜めたアキーノスが手招きしているので息を潜めつつ彼の元へ移動する。


「動きが不自然なんです、森の中に居るのですが、草原に出てくる気配がありません」

 指さされた辺りを確認すると、確かに大きな影が森と草原の境界にたまに現れるが、すぐに戻ってゆく。


「月明かり程度でも嫌がるもんなのかね?」

「いえ、焚き火があっても突っ込んで来たという話は何度かあるらしいので、月明かり程度は問題ないはずです」

「……だとすると予想的中かな、これは」

 タブレットを取り出し、マップを開く。


 マップには赤い点が表示されており、薄い緑で着色されているエリアの外に留まっている。


「アキーノス、ここ見て欲しいんだが、少し草原が範囲外になってるよな、ここにはあいつでてくるんじゃないか?そしてこの緑の範囲には入らない、というよりも入れない、もしくは認識できないんだ」


 観察を続けると予想したとおり草原に穴蔵トロルが出てきたが、やはり動きがおかしい。

 草原の内側に向かって移動を始めたかとおもいきや、ピタリと動きを止め、離れてゆく。

 少し離れると何かを思い出したかのように周囲を見渡し、草原の内側へと移動を始め、また足を止め、離れてゆく。


 足を止め、引き返す場所はマップに表示されている境界線と一致しており、あたかもそこに壁でもあるかのようにその範囲内には立ち入ってこない。


「……たしかにこの範囲に入ってきませんね」

「なら警戒も解いて大丈夫かな」

「それをしばらく貸してもらえませんか、もう少しだけ見張ってみます」

「解った」

 ソントくんと中に戻り、状況を説明すると皆一様にホッとした表情を見せる。


 しばらくしてアキーノスが戻ってきたのだが、とんでもないことを言ってきた。


「十歩程度しか離れていない場所まで近づきましたが、こちらに気づく様子はありませんでしたし、入ってくる気配もありません、恐らくは僕達の一族に伝わっている結界と同じようなものがここに張られているのでしょう」


 そう言ってタブレットを返してきたが、受け取りはしたものの、その後のリアクションが取れなかった。


「……さん……マシューさん!」

「大丈夫ぅ?」


 腕を掴んでゆすられている感触と、呼びかける声が聞こえてきて、真っ白になっていた意識が戻ってきた。


「……ああゴメン、俺は大丈夫……ってアキーノスさん無茶しますね」


「観察した結果、マシューさんの見解が正解だと思いましたので、それならば近づけるでしょう?もし襲われても逃げきれる自信がありましたからね」


「それにしたって下手すりゃ死んでたんですよ?話し合いもなしにそこまでやるなんて」

 アキーノス曰く、大昔のエルヴィニス達は森の奥を結界で包み、その中で暮らしていたのだそうだ。

 その結界は認めた者以外を内側に立ち入らせることはなく、知らずに近づいても結界に阻まれたということは認識できないようになっていたと言われており、穴蔵トロルの動きを見てその言い伝えを思い出したので確認したのだと。


 おそらく傍から見たら妙な顔つきになっているんだろうな、と思いながらも残ったメンバーの反応を伺う。


「そんな言い伝えがあったんですか、まあもし見つかってもアキーノスなら確かに逃げ切れます、でも相談して欲しかったなぁ……」

「でも結果としては安全が確認できたんだし、良いんじゃない?」

「確かに、そんなに近づいても襲ってこないのならワシも見に行ってみようか」

「めったに見れないのは確かだが、やめとけ?それにこれでやっと酒が飲めるぜ」

「たまにアキーノスって無茶するのよね……まあうだうだ言っても仕方ないわ」

 彼の仲間たちはあまり驚くことはなく、すんなりと受け入れている。


「……君らって、結構な実力者だったのか」


「いえ、このメンバーで組んだのは一ヶ月ほど前ですよ」

「おまえはこの中どころかギルドでも有数の経験者だろうに」

 以前ベテランパーティに所属していたのだが、彼以外のメンバーが引退してしまったので新たなメンバーを募った結果がこのパーティということらしい。


「若造が育ててもらっていただけですから」

 にこやかな顔でサラッと言い放つが、かなり突出した実力を持っていそうだ。


「まあ、ここは穴蔵トロルも入ってこれない安全な場所ってことが解ったんだ、乾杯でもしよう」

 手練で森を得意とするアキーノスが体を張って確認し、安全だと宣言したのだ、もう警戒は不要だろう。


 つまみは枝豆とピザを用意した、もうすぐ日付が変わりそうな時刻に食べるにはちょっとカロリー過多ではあるが、問題あるまい。

 とはいえ夜も遅い時間であり、明日は買い物をした後、帰還のためにここを発たねばならないので宴会も早々に切り上げ、就寝となった。


 朝になり、昨日の芋煮の締めに投入する予定だったうどんを茹でる。

 湯切りしたうどんを少し深い皿にあけてめんつゆを差し回す、本来なら生卵を落とすが生卵を食べる習慣がない可能性を考慮して温泉卵を落とし、ごまと刻んだネギを散らす、釜玉うどんだ。


 朝食も済み、出発前のお買い物タイムが始まる。


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