第十話:調査
食堂で各種武器の特徴や選び方についての講義を受け、代金代わりにプレゼントしたウィスキーはかなり気に入ったようである。
一通りの講義も終わったので、風呂から上がったマトル、ミアーナとともに夕食の支度に入る。
レシピや手順の解説をしながら唐揚げを揚げ、マトルに残りを任せる。
昨日に引き続きミアーナにはサラダをお願いしていたので手が空いてしまった。
もう一品くらいあってもいいだろうということで、ジャーマンポテトを追加である。
一応マトルに聞いてみたところ、どうやらこちらでもよく食べられているそうな。
「でもここのならもっと美味しいかもしれないわね」
大量の唐揚げを揚げ続けながらも興味津々といった感じで完成を見守っていた。
マトルの提案で本日はソファーの方で夕飯を食べることにする。
考えて見れば小柄な三人にはテーブルでの食事はやや厳しかったかもしれない。
まあ、スパンドはテーブルかぶりつきで一人立食状態だったのだが。
食事も終わり食器を片付けるが、七人分というのは調理器具も含めなくとも結構な量である。
後片付けに関しては飲兵衛の二人以外の手伝いがあり、用意の際も女性陣が手伝ってくれているおかげでなんとか破綻しないで済んでいるが、宿屋としてやっていくなら従業員がいないと厳しいだろう。
後片付けも一段落し、明日の献立を考えながらテーブルで一息ついていると、ソントくんがソファーの方で呼んでいる。
「さっき気づいたんですけど、これ、外せるんですかね」
ソントくんがテーブルを指差すので見てみると、テーブルの天板中央部が外せるようになっていて、内側には囲炉裏が内蔵されていた。
各種鍋物が頭のなかを渦巻いたが、豚汁風の芋煮に決定、あれなら大失敗もあるまい。
朝はどうするか、思いの外みんなよく食べていたのでしっかりしたものを用意したほうが良さそうだが、外食中心の生活をしていて料理は予算が厳しい時や気が向いた時にしかしなかったためレパートリーに乏しい。
タブレットを見ながら悩んだ結果、一時期良く作っていた豚のしょうが焼きに落ち着いた。
というわけで料理はまとまったが、寝るまでの時間もあるため保存食を中心とした売り込み開始である。
つまみ代わりに気になる商品を用意し、試食してもらう。
レトルトのカレー数種類に昨日食べなかったパックごはん、シチュー、マーボー豆腐いずれも好評だったのだが、缶の鳥めしが特に好評で、五百g入りとは言え一缶銀貨四枚、干し肉の実に十二倍という値段にも関わらず明日の昼はこれにしようなどと言い始めた。
そもそも長期保存向けの缶入りなのだから明日食うなら弁当作ってやる、さもなきゃせめてこっちにしろ、と銀貨一枚で買える炊き込みご飯各種を提示したことにより、弁当を用意することが決定、炊き込みご飯各種も彼らの胃袋へと収まった。
そしてマトル向けに各種調味料とカレー以外のレシピ本、ちなみに彼らの言語はソレイラント語というそうなのだが、きちんとそれで書かれているものが用意されていた、会話ができるのは亜空間で翻訳してくれているのだろう。
翌朝の朝食は予定通りの生姜焼きにちらし寿司という妙な組み合わせになったが、各種の混ぜるだけでOKなパックを使用したので混ぜるだけで済み、弁当もかに飯と釜飯、鶏ごぼう飯の素を使って三色おにぎりを仕立てて笹の葉で包んで渡す。
弁当を持ち、昨夜まとまりきらなかった何を買って帰るかを議論しながら出発するので、途中まで散歩がてら付いて行ってみることにした。
草原が終わり、森の小道に入ったところでタブレットの通知音が鳴り、彼らの会話が理解できない言語に変化した。
試しに草原まで全員で戻ると通知音と共に言葉が通じるようになり、森に入ると通じなくなるので、見送りはここまでということにして彼らと別れ、店に戻ることにした。
タブレットのマップを確認すると、丁度マップを動かした時にそれ以上動かせなくなる位置と翻訳がされなくなった場所が一致している。
やはり店からあまり離れてはいけないらしくタブレットの通知にも”警告:言語サポート範囲を離脱しました””~復帰しました”とログが残っている。
ベンチに座り、煙草に火をつける。
やはりこの地に腰を据えて商売するという線は薄いように思える。
マトルの提案のように誰かをここに残して報告に戻る、というのは危険だ、マトルが残っている時に転移が起きた際、丁重に店の外に追い出すにしても、一人であの草原に取り残されては合流するのも至難であるし、追い出されなかった場合はソントくんと再会できる保証がないというのも残酷である。
恐らくは戻った後、知り合いを数人連れて再度ここを訪れるであろうから、そこでまだ店があるならばこの世界の客を大いに受け入れある程度の商売を続けると言う事になるだろうし、移転していた場合はソントくん一行のみが今回の客だったということである。
彼らが戻ってきたらこの推測を話し、全員で戻ってもらうようにしよう。
煙草を消し、立ち上がってしばしストレッチをしてから店内に戻る、とりあえず午前中は弓の練習だ。
練習の結果、中央には当たらないものの、的を外す回数が減ってきたので、昨日のアドバイスを活かすために剣や槍などを選んでみる。
軽めで扱いやすいショートソードを用意してみたが、以前に触ったことがある木刀よりも重く感じ、それを片手で振るのはなかなか難しく、下手に力を入れて振るとよれて自分の足を切りそうになる。
次にショートスピアを試すと、金属なのは穂先だけで両手持ちなのでだいぶ扱いやすいが、やはり慣れていない身だと何度かの素振りで腕が重くなってくる。
基礎体力の不足という問題点も見えたので、休みを入れながら筋トレも行う、こんな時のためにトレーニングジムを用意したはずなのだが、一度も見ぬままこの練習場という名の広場になってしまった。
気がつけばあっという間に昼となっていたが、汗だくだったため風呂で汗を流す。
昼は夜の芋煮の味付けで失敗しないように試作を兼ねて少しだけ用意し、ついでに昔良く作っていたチンジャオロースを食べる。
とりあえず夜に向けての準備は整ったので、休憩タイムである。
一服していると、まだ十四時を回った程度だというのに一行が帰ってきた。
「もう調査が終わったのかい?買い物の検討がしたいとはいえ手抜き調査じゃまずいぞ?」
「いえ、調査は中止しました、穴蔵トロルがいたんです」




