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ひだまり童話館(参加作品・過去お題作品)

オトコのアツいたたかい

作者: 天神大河

 帰りの会が終わり、さっさと帰り支度を整えていたぼくの前に、彼は現れた。


「おうヨシト、帰りちいとわいに付き合えや」


 ぼくのクラスでも一番に腕白な彼――ショウキは、開口一番にそう言って、両手をぼくの机の上に置いた。ぼくは思わず教科書やノートをランドセルへ入れる手を止めて、ショウキの顔を見上げる。

 この学校に転校してきてから、何度か彼と言葉を交わしたことはあったが、彼の表情はきまってどこか強気で自信ありげな笑顔だ。それは、ぼくと同じ十一歳とは感じられないほどに頼りがいのある気風を漂わせていたが、その反面どこか馴れ馴れしさを感じさせる。今ぼくへ話しかけているショウキの表情も、それとまったく同じだった。

 ぼくは、そんな彼がどことなく苦手だ。何度か話はしたけれど、最後はいつもぼくが目に見えない何かに気圧されるように口ごもってしまう。もちろん、ショウキに悪意があるわけではないだろう。頭では分かっていても、ぼくは心の内でどこか言い知れぬ抵抗を感じていた。それを悟られないようにするため、ぼくは意を決してショウキへと顔を上げる。


「な、何だよ。急に」

「いや、あんさんも東京からここに転校してきてそろそろ一月になるやろ。せやから、そろそろ試したろう思うてな。ヨシトのオトコぶりをな」

「なに、それ」


 ショウキの言葉の意味を呑み込めず、ぼくはさらに質問を重ねる。


「せやから、オトコだめしや。東京から来たあんさんがどれほどオトコなんか、このわいが直接試したるんや。つまりは真剣勝負や」

「しんけん……しょうぶ」


 ぼくはショウキの言葉をオウム返しに呟く。せや、勝負や。ショウキが口角をにっと吊り上げ、満足そうに口にする。唾を飲み込んだぼくの喉が、ひときわ大きな音を鳴らす。


「どないしたんや、怖気づいたんか」

「そ、そんなわけないだろ。いいさ、勝負。やってやるよ」

「よし、決まりや。ほな早速……おい、ユキナ!」


 ショウキは、後ろを振り返って声高に叫ぶ。彼の目線の先にいる彼女――ユキナちゃんは、出入口へ進もうとしていた足を止め、ぼくたちを見る。ユキナちゃんがこちらを向いたのを確認したショウキは、さらに続ける。


「今日これから、わいとヨシトの二人でお前ん家行くから、『アレ』の準備しとってやー!」

「はぁっ!?」


 ユキナちゃんの表情が一気に険しくなる。そのまま彼女は、大股でこちらへ歩を進めながら、ショウキに向かって早口でまくし立てた。


「そんな急に言わんといてや。ウチにはウチの都合があるんや」

「ええやん、別に。今日は特に休みの日でもないやろ」

「そういう問題やないねん。なに男の子二人で勝手に話し進めて、そこにウチまで巻き込むんやってこと」

「ええやろ、お前ん家がまさしくうってつけなんやから。ほな、よろしゅう頼むで」


 ショウキはそう言って、目の前にやって来たユキナちゃんの肩をぽん、と軽く叩いた。そんな二人のやり取りを前に、ぼくは自分と大して背も変わらないユキナちゃんが、ショウキへまっすぐにものを言う光景をどこか羨ましいとさえ思った。ぼくが転校する前からの付き合いだから気兼ねなく話せるのかもしれないけれど、それでもユキナちゃんはすごい。素直にそう思った。

 すると、ユキナちゃんがぼくの顔を向き直った。それに合わせて、彼女の胸まである黒髪が小さく踊る。


「まあ、ヨシトくんが来る言うんなら、しょうがないかな」


 その後の話し合いをした結果、ぼくとショウキとの勝負は、午後四時にユキナちゃんの家で行われることになった。



***



 約束の午後四時より少し前。放課後にユキナちゃんから教わったとおり、彼女の家へと向かうと、そこには大きな温泉施設があった。先に来ていたショウキいわく、彼女の家は何十年も前から温泉を経営しているらしい。あらかじめ事情を聞いていたのか、受付にいたユキナちゃんのお母さんはにっこりと笑顔を見せて、ぼくたち二人を男湯へと案内してくれた。

 そして、ショウキに促されるままに脱衣場で衣服を脱いでいると、ふいに彼がぼくへと顔を向けた。その表情は、不敵な笑みに染まっている。


「ヨシト。こっからが、わいとお前との勝負や。覚悟しいや」

「う、うん」

「何や、ずいぶん弱々しい返事をしおって。おまえほんまに男かいな」


 ショウキの発言に、ぼくは少しだけ苛立ちを覚えた。勝負を仕掛けてきたのはそっちなのに、始まる前からそこまで言われる筋合いはない。そう感じているぼくを尻目に、ショウキは手早く衣服を脱いでいき、素っ裸になった。そのまま、彼は身体ごとぼくに向き直り、仁王立ちになる。


「ほら、よう見てみ、わいのを。こいつはな、わいの親父にも引けを取らへんで」


 そう言って、ショウキは自分の腰に両手を当てた。ぼくも彼に合わせて、すばやく衣服を脱いでいく。そして、ショウキと同じようにはだかになり、仁王立ちになった。


「何だと。ぼくの方がショウキよりすごいぞ。ほら、よく見ろよ」

「何やて。わいの方がよっぽど大人やろ。ちゃんとよう見てみい」


 ショウキの自信ありげな言い方に、ぼくは負けじと腰を前面に突き出す。その反動で、ぼくの背中はえび反りになったみたいに仰け反った。


「ぼくの勝ちだろ」

「ちゃう、わいの勝ちや」


 ショウキもぼくと同様に、腰を前へと突き出した。互いに同じポーズでにらみ合う。


「ぼくだろ!」

「わいやろ!」


「ぼ、く!」


「わ、い!」



「コラーッ! あんたら、何やっとんのやー!」



 脱衣場のドア越しに、甲高い声が響いた。ぼくとショウキは、揃って声のした方角へと顔を向ける。すると、声の主が今度は少しゆったりとした口調で続けた。冷静になって声を聞くと、それはユキナちゃんのものだった。


「そんなところで騒がんといて。お客さんも来るんやから。ショウキたち二人の貸し切りとちゃうんやで」


 ドア越しに伝わってくるユキナちゃんの怒鳴り声に、ぼくは少し後ろめたさを感じた。ショウキの挑発に乗せられたからとはいえ、確かにやり過ぎた気がしたからだ。


「ご、ごめんなさい……」


 弱々しい声で、ぼくはドアの向こうにいるユキナちゃんに向かって頭を下げる。それが伝わったのか、ユキナちゃんは少し間をおいて、迷惑にならん程度に勝負頑張ってや、と言って受付の方角へと歩いていった。


「別に謝らんでも、あいつはほっときゃあええのに。キモの小さい奴やな」


 すぐ側に立っている少年が、皮肉混じりに告げる。ぼくは、そんなショウキの顔をゆっくり向き直った。彼の表情は、半ば楽しげな笑顔をたたえていた。


「悪いことに対しては、ちゃんと謝るのが男ってものだろ」

「ほお、なかなかええこと言うやん。関心したで、ヨシト。さてほな、お待ちかねのオトコ試しといこうやないか」


 ショウキはそう言って、脱衣所の中を足早に横切り、温泉の引き戸を勢いよく開けた。真っ白な湯気が、ショウキの全身を一瞬だけ包み込む。まるで玉手箱を開けたときの浦島太郎のようだ。ぼくがそんな感想を抱いたのに対し、当の本人は何事もなかったかのように温泉の中へと入っていった。ぼくも、ショウキの後に続いて温泉の中へと入った。


 そこには、ぼくとショウキ以外は誰もいなかった。学校の体育館より一回りぐらい小さな広さを誇る部屋の中には、黒いタイルの壁伝いに鏡と洗面台が左右対称に取り付けられており、その奥にある巨大な湯船はきれいな黄緑色に染められていた。ぼくの鼻に、何かの植物の香りが心地よく伝わってくる。湯船に入る前から心身ともに癒された気分だ……


「おーい! ヨシトー、こっちやー!」


 ……ったのに、部屋中に響き渡るショウキの声で台無しだ。

 うっすらと湯気が立ちこめる中、ぼくはきょろきょろと辺りを見回す。すると、部屋の隅にある小さな扉の前にショウキが仁王立ちで立っていた。ぼくがこちらに目を向けたのに気づいたのか、ショウキは再びぼくに向かって声を張り上げる。


「待たせたな。ここがオトコ試しの舞台や」


 そう言って、ショウキは自分の後ろにある扉を右のこぶしで小さく突いた。扉についている小窓から覗く板張りの小さな部屋は、熱気のせいなのかぼんやりとした形に見え、あたかも砂漠の中にある蜃気楼を思わせる様相を描いていた。


「ヨシトも知っとるやろ、ここ。サウナや。今回のオトコ試しのルールは唯一つ。わいとあんさん、どちらが最後までサウナに残っていられるか。それだけや」



***



 ショウキに促されるまま、ぼくはサウナへと入った。少し重い扉に手をかけ、ゆっくりと開いた瞬間、わずかな隙間からむわっとした熱気が手元に伝わってきた。相当な熱さだ。だけど、ここまで来たからにはもう引き返すわけにはいかない。覚悟を決めて、ぼくは狭いサウナの中へと足を踏み入れた。

 サウナの中は、全体が板張りであることを除けば、まるで集合写真を取るときに設置されるアルミの階段のような間取りとなっている。一段目と二段目には床の上に白いタオルが敷かれてあり、扉を入ってすぐ左には大きな機械が設置されており、近づくとものすごい熱を発していた。


「こっちや。とりあえず座り」


 ぼくが機械に気を取られている間に、ショウキは二段目の床に腰を下ろしていた。彼の左手は、ぼくを招き入れるかのように、開いた場所に軽く置かれている。ぼくは、ショウキの左手が置かれた場所へと移動し、ゆっくりと腰を下ろした。木でできた床に染み込んだ熱が、タオル越しにぼくのお尻を刺激する。それだけで、何だかアツアツの鉄板の上にいる気分になった。

 一方、ショウキは右手で壁にある何かをいじっていた。ぼくが彼の手元へと視線を移すと、そこには小さな砂時計が飾られてあり、ショウキの手によって上へ下へとぐるぐる休みなく動かされていた。


「ここに砂時計があるやろ。これはな、一回始めて下に全部落ちるまでが大体五分ぐらいや。わいはこのサウナで最高十五分は耐えたことがある。ちゃんと数えてたんやから間違いないで」

「まさか。そんなにいたらのぼせちゃうと思うんだけど」

「うそやないで。せやから、わいはそう簡単には負けへんで。ほな、そろそろ、準備はええか?」

「うん、いつでも」

「ほな、始めるで。オトコ試し、スタートや」


 そして、ショウキの右手が砂時計から離れた。その瞬間、砂時計の中にある小さな砂粒は重力に従って、下へ下へと静かに流れ始めた。



***



 砂時計の砂が、すべてガラスの底へと溜まった。どうやら五分が経過したようだ。ぼくの全身は、機械から発せられる熱に当てられて、カイロみたいになっている。対するショウキはというと、額に玉状の汗を浮かべており、顔もにわかに紅潮していた。


「だいじょうぶ? この勝負はぼくの勝ちでいいからさ、少し水でも飲んできなよ」

「あほ抜かせ。こんなんまだ序の口、勝負はこれからや。お前こそ、ずいぶん顔真っ赤にして、天狗みたいやな。耳までもうマッカッカやで」

「けどだいじょうぶ。まだいける」

「上等や」


 ショウキの手が、砂時計を丸ごとひっくり返した。そしてまた、熱い五分間が始まる。



***



 勝負が始まって、十分が経過した。さすがに、ぼくも熱くなってきた。全身から汗が滲み、口や鼻から息を吸い込むのも辛く感じる。


「おい、ヨシト。さすがにもう、ここらが限界やろ。どうや、ギブアップか」


 ショウキが少し息を乱しながらも、ぼくに話しかけてくる。彼の様子は、五分前のそれとほとんど変わっていなかった。先ほどはぼくの方がまだ余裕だったのに、いつの間にか逆転してしまっている。もしかしたら、さっきのあいつの態度は、ぼくを油断させるためにわざと仕掛けたフェイクだったのかもしれない。

 そして何より、ショウキの表情にはどこか余裕を感じさせる笑みが張りついていた。時間も経過している中、ぼくの脳裏に敗北という言葉が実感を帯びて広がり始める。それを悟られないようにするため、ぼくはあえてショウキに質問を持ちかけた。それは、ぼくが初めから気にしていたことでもある。


「ショウキ、どうして今になってぼくにオトコ試しだなんて持ちかけたんだよ。わざわざこんなことしなくたって、別に」

「いいや、今やるからこそ意味があんねん。ここでわいとお前、正々堂々男の戦いをする。そして最後にわいが勝つ。そしたら……いや、ちゃうちゃう。今そういう話をしとる場合やない。わいの気を逸らそうとしても無駄やで」


 ショウキはそう口走るや否や、ぼくから顔を逸らし、そのまま砂時計をひっくり返した。そして、第三セットが始まった。

 だが、ショウキの言うようにぼく自身そろそろ限界だ。身体中が熱い。今すぐにでも、ここから出て行って冷たい水を一息に飲みたい。それができたら、どんなにいいことか。



 ただ、何よりも負けたくはない。



 一度始めた男の戦いだ。ここまで来たら、もう意地でも何でもいい。最後まで這いつくばって、勝ってやる。

 ショウキにも、自分にも。

 ここを乗り越えたら、自分はショウキが言うようなオトコになれるのかもしれない。ゲームで言ったら、今は最後の戦いの真っ最中だ。相手に背中を向けることはできないし、そもそも向けるつもりもない。


「ショウキ」

「何や、ヨシト」

「ぼくは、負けない。最後は、絶対に勝つ」

「ほう、よう言うなぁ。せやけど、もうそろそろ大詰めや。わいにとってはもう最後のケリに入ったところやで」


 ショウキが口元を吊り上げる様子を見て、ぼくは思わずその場で立ち上がった。そして、そのままサウナいっぱいに響くような声で力いっぱい叫ぶ。


「違う! まだ勝負はこれからだ!」


 ぼくの様子に圧倒されたのか、しばしの間ぽかんとしていたショウキだったが、やがて彼も勢いよくその場で立ち上がった。


「おう、そう来な、面白うないわな! ほな、いくで!」

「最後の戦いだ!」


 ぼくとショウキの顔が間近に迫る。ぼくの視界に映るショウキの顔は、ひどくおかしな笑みでいっぱいだ。だけど、それはぼく自身も同じだろう。何となくだけど、分かる。きっと今、ぼくたち二人は楽しくておかしくて、しょうがないのだ。

 そして、お互いに小さく頷きあう。それを合図に、ぼくたち二人は同時に、誰にも負けないぐらいの勢いで叫んだ。




『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!』




 限界を超えて叫んだところで、ぼくの意識はふわりと何かにさらわれるようにぷつんと途切れた。その直前、ぼくの視界には勇猛なショウキの姿がおぼろに映った。




***




「まったく! ホンマに二人揃って、あほなんとちゃうか。サウナで大声で叫んで、同時にのぼせるやなんて。呆れてものも言えんわ」


 ぼくとショウキは、受付にある椅子に座りながら、ユキナちゃんのお説教を受けていた。彼女の言葉どおりぼくとショウキの二人は、ほとんど同時にサウナで倒れてしまい、サウナの大声を聞いて駆けつけたユキナちゃんに助けられたのだ。

 そしてぼくは、気がつくと温泉施設の名前が入った浴衣を着せられており、同じく気がついたショウキともども、般若のような怖い顔をしたユキナちゃんの前で三十分近く正座をさせられている。さすがに両足がしびれてきた――そんなことを気安く言える雰囲気ではないほどに、彼女の気迫はすさまじかった。


「オトコ試しもほんまにほどほどにしいや。そんな下らんもんで死人を出されたら、ウチも商売上がったりや。わかっとるんか、ショウキ、ヨシトくん!」


「……はい」


 ぼくは、正座の体勢から両手を前へと持ってきて、深く、ふかーく頭を下げた。つまりは土下座だ。


「なんや、ユキナのほうがよっぽどオトコやっとるやん。女とはとても思えへん、オトコ女やわ」


 ショウキは、なんら悪びれる様子もなく口にした。ああ、こんなところで火に油を注ぐとは。彼も相当な命知らずだ――あらためてそう思った。


「な~ぁ、ん~、や~ぁ、て~ぇ!?」



 その後、ショウキの身に起こった出来事はとても筆舌に尽くしがたいほど、壮絶なものであった。



***



「はい、ヨシトくん。これ、ウチからのサービス」


 一通り説教を終えた後、ユキナちゃんがぼくの頬にコーヒー牛乳の入った牛乳ビンを軽く当てた。ひんやりとした感覚が、ぼくの頭に心地よく響く。


「あ、ありがとう」

「気にせんといて。お互い同じクラスメイトなんやから」

「それと、今日はごめんね。いろいろと迷惑をかけちゃって」

「ええねん、そう気にせんで。大体いつものことやから」

「いつものこと?」


 ぼくの言葉に、ユキナちゃんはうん、と返しながらコーヒー牛乳のビンをショウキのそばに置いた。彼は先の出来事ですっかり気絶しており、当分気がつきそうにはなかった。


「ショウキのやつ、あんまり知らん男の子と打ち解けようとしたり、けんかしたりして仲良うしようとしたりするときは、決まってやんねん。オトコ試し」

「そうだったの? 知らなかった」

「まあ、こいついわく男と男の約束ってことで、誰にも言わさんようにしとるみたいやから」

「へえ、それで」

「うん、それでな」


 ユキナちゃんが、ぼくの前に向き直る。彼女の表情には、先ほどまでの様子はすっかり感じられず、むしろ心優しいお姉さんのような憂いを帯びていた。


「ショウキのこと、嫌いにならんといてね。あいつもあいつで、口とか悪いし、ちょっと強引なところもあるけど、根っから腐っとるわけやない。ホンマはけっこう不器用なんよ。せやから、ショウキのこと、どうか長い目で見たってあげてや」


 ユキナちゃんが、そう言ってぺこりと小さく頭を下げた。ぼくは、隣でのびたままのショウキの顔を見る。その表情は、純粋な少年の寝顔そのものであり、彼が普段まとっている自信ありげな佇まいはすっかり消えていた。それがまた、ぼくにはどこかおかしく感じられてしょうがない。


「だいじょうぶだよ、ユキナちゃん」


 ぼくは、ユキナちゃんからもらった牛乳ビンのふたを開けながら応じる。



「もう、ぼくとショウキは友達だから」



 そう言って、ぼくはコーヒー牛乳を口に含んだ。その瞬間、ぼくの口の中いっぱいにコーヒー牛乳の冷たさと甘さとが、心地よく満たされていった。




オトコのアツいたたかい/END

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― 新着の感想 ―
[良い点] はじめまして。 ショウキの不器用なガキ大将っぷりと、勝負をとおしてアツイ友情が結ばれていく様子がとてもよかったです。 男の子を育てている母としては、こんないい子(事故だけには気をつけて!…
[良い点] 男同士のあつい戦い、まさしくアツアツでした! 関西弁が楽しかったですね(^^) アツアツのあとのコーヒー牛乳は格別だったでしょうね。
[一言] はじめまして、よんと申します。ショウキの大阪弁がツボです。わいとかあんさんとかw 不器用な彼とユキナちゃんの今後が気になるところです。楽しい作品をありがとうございました。
2015/09/13 19:23 退会済み
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