魔女と騎士、謁見
「遠い所、よく来てくれた魔女殿」
謁見の間に入ると、まっ先に目に飛び込んでくるのは、やはり王の座る椅子だろうか。この国は珍しくきらびやかではない、重厚さを重視した椅子だ。
私はガウロ様のあとをついて、陛下の御前に並び、一応淑女の礼をする。
陛下が声をおかけになっているけれど…まぁ笑っておけばいいかしら?
だって私はアギトの森の魔女、国に左右されない立場にあるんだもの。それはもちろんマイスも同じ。ちらりと後ろを見ると、あぁ、やはり膝を付けていなかった。
私は小さくそのことに笑うと、頭を上げて陛下を見上げた。
「それで、どのようなご要件でしょう」
「……、」
あらまあ。私は小さく笑う。だって仕方ないじゃないの、陛下が顔を顰めてらっしゃるのだから。
きっと返事をしなかったせいね。
どうでもいいけれど。
「…、あぁ、実はな、我が国は異界より魔王を倒す力を持つ勇者を召喚しようと思うのだ」
「ええ、聞き及んでおります」
「そうか。なら、話が早い。我が城の魔法士だけでは召喚の為の力が足りないのだ。此度は其方に助力してもらいたくお呼びした」
それも知っている。
私が知りたいのは、その先。わざわざ私を呼んで、召喚を手伝って終わりなわけがない。もっと厄介なこともありそうな気がする。
私はすっと目を細めて、陛下を見据えた。
「…それだけですね?」
「…というと?」
「私、暇ではありませんの。召喚に必要な魔力、及び召喚術を行使した後はすぐに帰らせて頂きますわ」
普通ならば私の態度は不敬に当たるが、よしとされる私の地位。それを利用して陛下に物申すと、謁見の間に控えていた臣下達の目線が先程よりも一層突き刺さってきた。
当たり前だろう、私は陛下に『さっさと隠してる要件を言いなさい』とあからさまに言っているに等しい。
それが陛下にも通じたのだろう、ぐっと眉を寄せて私を睨んでくる。
「魔女、控えよ」
「私、召還されたので参上したのですが、違いまして?」
「黙れ、王である私に楯突くか」
「いいえ。ただ、私は、召喚術だけを手伝えばよろしいのですねとお聞きしただけですわ」
「口の回る女だ。貴様は黙って力をふるえば良い。貴様を切り捨てるのも容易いことだ」
陛下の言葉に、控えていた近衛騎士が己の剣にそっと手を乗せるのが目に入る。あからさまにこちらを見下す陛下に、思わず微笑みが湧くのも仕方が無い。
マイスの穏やかな表情の裏から漏れる殺気を気付もしない騎士など怖くもなんともない。
あぁ、なんて愚かな。
「気がお早いですこと。ただ教えて下されば良いだけではないですか。それとも、」
私はにっこりと微笑んで、陛下に尋ねる。
「私の力、要らないんですの?」
さらに眉根を寄せる陛下に笑みを深める。私を切り捨てるということは、そういう事だ。
陛下は王にあるまじき舌打ちをすると、騎士を控えさせた。
再び陛下と顔を合わせると、陛下は顔を顰めながら口を開いた。
あぁ、嫌な予感しかしないわ。帰ったらマイスに慰めてもらわなくちゃ。
「魔女殿には勇者の教育係をしてもらいたい」
――――――ほら、厄介ごとじゃないの。
私は心の中で、深くため息をついた。